スポーツジャーナリストの生島淳です。
よろしくお願いします。
今日はメジャーリーグベースボール観戦の
入門のお話をさせていただきます。
えっ、その服が何かって?
これはアイスホッケーの
トロント・メープルリーフスの服ですが、
まあ今はお気になさらず。
いきなりですけど、僕ね、
今の日本のスポーツ中継の状況は
ちょっとおかしいんじゃないかなと思っているんですよ。
なぜ大谷翔平選手が所属する
ロサンゼルス・ドジャースの試合ばかり
中継・報道されるのか、ということなんです。
メジャーリーグ(MLB)には
全部で30球団もあるんですからね。
アメリカンリーグとナショナルリーグがあって、
各リーグに15チームあるんです。
それぞれアメリカの地域別に
イースト(東)、セントラル(中)、ウエスト(西)
と3地区に5チームずつわかれているんですね。
ドジャースはどこに所属しているかというと、
ナショナルリーグの西地区。
チーム名の略称は「LAD」です。
大谷選手が2023年までいた
ロサンゼルス・エンゼルスは「LAA」。
さて、ここで突然ですが、
アメリカの教養クイズをしてみましょうか。
「LAD、LAA、LAL、LAX」。
この中で仲間外れがどれかわかりますか?
答えは‥‥「LAX」ですね。
これはね、ロサンゼルス国際空港の略称です。
「LAL」はロサンゼルス・レイカーズという
NBA(全米プロバスケットボール協会)のチームで
八村塁選手がプレイしていますね。
ついでに、略称についてもうちょっと解説すると‥‥。
今度は東海岸のニューヨークにしましょうか。
「NYY」これはMLBのニューヨーク・ヤンキース。
以前、松井秀喜選手や田中将大投手(現楽天)などが
所属していましたね。
「NYM」はニューヨーク・メッツ。
いま、千賀滉大投手と藤浪晋太郎投手の
両投手がこの球団にいます。
さて、最初に話したように、
今、MLBの中継や報道が大谷選手中心になるのは
仕方ないことだとは思っています。
でも、MLBには全30球団があって、
それぞれに略称があるので、
まずはこれを覚えてみるだけでも、
現地からのスポーツニュースを
より楽しめるようになるかなと思うんです。
そもそも、なぜ僕がMLBにのめり込んだかというと
実は小学生時代の不登校と関係しています。
小2(1975年)、小5(1978年)と不登校だったんですね。
振り返ると、この2年が僕の人生にとって
すごく大事な年になったんです。
学校に行ってないから家でテレビを見たり
本を読んだりして過ごしていたんですよ。
1975年に僕の出身地・宮城でも
たまたまMLB中継がありましてね。
この年のワールドシリーズ
(その年のナショナルリーグ覇者と
アメリカンリーグ覇者が戦う“世界一”決定戦。
4勝を先取したほうが優勝)は
シンシナティ・レッズ対ボストン・レッドソックス。
この戦いが、傑作中の傑作だったんです。
第6戦でレッドソックスのカールトン・フィスクという
選手が延長12回裏にレフトポール際に
サヨナラホームランを打ったんですけど、
その時、「入れ! 入れ!」と
必死にジェスチャーした姿は
MLB史に残る
劇的勝利になったんですね。
(結局、最終の第7戦でレッズが優勝)
YouTubeでは過去のMLBの劇的なシーンを見られるので、
ぜひ、「1975年 FISK」で検索してみてください。
1978年は本当に大切な年になりました。
学校に行けないこと自体はつらかったんですが、
当時、フジテレビで週2日中継を見られた。最高でした。
この年のワールドシリーズは
ニューヨーク・ヤンキース対ロサンゼルス・ドジャース。
その年はヤンキースが優勝したんですけど、
ドジャースもいいなってこのときに思っていました。
ただ、少年時代の僕を一番虜にしたのは
レッドソックスでした。
ふう。ちょっと暑くなってきましたね‥‥。
(その場で服を脱ぎながら)
さて! メジャーリーグのたのしみ方を
お伝えする上で、少年時代の僕を虜にした
ボストン・レッドソックスの話をさせてください。
きっとみなさん、ドジャースのことを話してよと
思っているかもしれませんけど、
後で出てきますからどうぞおたのしみに。
僕がなぜレッドソックスに惚れてしまったのか。
話は僕が生まれる前、1918年にさかのぼります。
この年、レッドソックスがワールドシリーズで
優勝したときのメンバーには、
あのベーブ・ルースがいました。
ところが、当時の球団オーナーが
ミュージカルの舞台を作りたいという理由で、
その資金繰りのために、ベーブ・ルースを
金銭トレードでライバルとなる
ヤンキースに放出してしまったんですね。
するとそれ以降、
なんと86年間も優勝できなかったんです。
いわゆる「バンビーノの呪い(Curse of Bambino)」ですね。
※バンビーノはイタリア語で「男の子」「少年」を意味し、
ベーブ・ルースの愛称。
レッドソックスは1918年以降、
4度もワールドシリーズに出場していますが
(1946年、1967年、1975年、1986年)、
すべて第7戦までもつれた上で、
結局、3勝4敗で負けてしまったんですよ。
4回も出たら1回くらい優勝してもいいんですけどね。
ワールドシリーズ出場にあと一歩ということもありました。
例えば1978年、全162試合のレギュラーシーズンの
勝率が同地区のヤンキースと同じになって、
ワンゲームプレーオフをやったんです。
ヤンキースのバッキー・デントという
ふだんは絶対ホームランを打たないような選手に
打たれてしまって敗退します。
2003年も、ワールドシリーズの前の
アメリカンリーグチャンピオンシップシリーズで
またしてもヤンキースと対戦して、
最後の第7戦で
ペドロ・マルティネスというエースを
引っ張りすぎちゃって、打たれて同点になって‥‥。
延長戦でアーロン・ブーンという選手に
ホームランを打たれてまた沈む。
ちなみにこのブーンは今、
ヤンキースの監督をやっています。
このように、レッドソックスは
なかなか勝てないチームだったんですが、
だからこそ応援したくなりませんか?
阪神タイガースは去年38年ぶりに日本一になって、
ファンはすごくうれしかったと思うんですけど、
なかなか勝てないときも長くあって、
それに似ているんです、レッドソックスは(笑)。
1986年なんて優勝寸前までいったんですよ。
レッドソックスの3勝2敗で迎えた第6戦。
あと1勝という試合で2点リードしていたのに、
同点に追いつかれて、
おまけに一塁手のビル・バックナーが
簡単なゴロをトンネルしてしまって、サヨナラ負けするんです。
悪いイメージを引きずったまま第7戦も負けて‥‥。
ぜひ「1986年 バックナー」で検索してみてください。
ようやくバンビーノの呪いが解けたのは、2004年でした。
アメリカンリーグのチャンピオンシップシリーズで、
ヤンキースに3連勝されて、
がけっぷちに追い込まれたんですけど、
3連敗から奇跡の4連勝。
これってMLB史上初のことなんです。
その勢いのままワールドシリーズで
セントルイス・カーディナルスと対戦して、優勝。
86年ぶりに勝ったんです。
その後、2007年に松坂大輔投手が
レッドソックスに移籍した1年目にも優勝。
さらに2013年、2018年も優勝して、
呪いが解けたら一気に優勝しはじめましたね。
ファンとしてはすごくうれしい反面、
勝ちはじめると逆になぜか
あんまりおもしろくないという複雑な心境で(笑)。
結局、どう負けるかがおもしろいんじゃないのかなって。
ほんと、ファンとは勝手なもんですね(笑)。