初心者のためのメジャーリーグ入門 初心者のためのメジャーリーグ入門
大谷翔平選手の活躍をきっかけに、
メジャーリーグ(MLB)の情報が
ますます気になるようになってきていませんか。
「でも、日本人選手しか知らないし」
「シーズンの途中から観てもね」
大丈夫、そんな心配はまったくいりません!



今からMLB観戦をたのしむためのポイントを、
メジャーリーガーの取材を長年重ねてきた
生島淳さんが教えてくれましたよ。
大谷選手が所属している
ロサンゼルス・ドジャースの話はもちろん、
野球ファンでも意外と知らないリーグの仕組み、
これからの注目選手、知るほどハマる雑学まで
MLB観戦がきっとたのしくなるような
生島さんの解説をおたのしみくださいね。
#05 知っておけばMLBツウ 観戦のしおり
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ここまで駆け足でMLBの基本情報や
僕とMLBの関わりなどをご紹介してきました。
ここで、会場に来てくださったみなさんから
何か質問があれば
お答えいたしますので、どうぞ。



Q.ドジャースがいる
ナショナルリーグ西地区のレベルは高い?
はい、レベルは高いですね。
全162試合のレギュラーシーズンの後の
ポストシーズン(プレーオフ)に出るなら、
ワイルドカードでも90勝以上が必要
(81勝81敗で勝率5割)になってくるんですね。



昨シーズンは、下馬評ではたいしたことないと
予想されていたアリゾナ・ダイヤモンドバックスが
勝ち上がって、ドジャースも破って
まさかのワールドシリーズ進出を果たしました、
西地区の5球団はチーム力が拮抗しているので、
まあ、コロラド・ロッキーズはちょっと
厳しいかもしれませんが、
けっこうレベルが高いと思いますね。



強いチームばかり集まって潰しあい状態になると、
地区によっては、
勝率5割(81勝)いかないのに
地区優勝することもあるんですね。



地区によって勢力図は時によって変わってくるんです。
例えば2000年代のアメリカンリーグ東地区。
この時期は、最高におもしろかったですね。
ニューヨーク・ヤンキースと
ボストン・レッドソックスのライバル争いがすごくて、
残りの3チームはそれほどでもなかったんですけど
優勝するのは毎年、本当に大変でした。
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ところが、いまは様相が変わっていて‥‥。
昨シーズンは弱いほうだった3チーム、
ボルチモア・オリオールズが地区優勝し、
2位がタンパベイ・レイズ、
3位が大谷翔平と同じ岩手・花巻東高校出身の
菊池雄星選手がいるトロント・ブルージェイズ。
で、4位、5位がヤンキース、レッドソックス。
20年前と完全に逆転しているんですね。
そういう文脈を追い続けるのも
MLB観戦の醍醐味のひとつです。



ボルチモアの球団GM(ゼネラルマネージャー、最高責任者)は
以前はヒューストン・アストロズの球団幹部で、
オリオールズにやってきたときに、
「今年は勝てないかもしれません。ごめんなさい。
でも、数年後に勝ちます」といった趣旨の発言をして、
有言実行で本当に勝ったんです。



2位のレイズで2014年まで投資会社出身の人が
GMを務めていて、その人物は今、
ドジャースの編成本部長の職に就いています。
大谷のドジャース移籍にも手腕を発揮したと言われていて
入団会見の時にもそばにいたカッコいい人です。
彼はタンパベイで結果を残して
ドジャースに球団経営者として移籍したというわけですね。



ただ、今年はヤンキースがジャッジとソトの二枚看板で、
打力で強さを発揮しています。
オリオールズとの地区優勝争いが面白そうですよ。
<MLBのたのしみかた> 過去の対戦成績や因縁といった「文脈」を知るとますますたのしい!
Q.シーズンの途中から見て楽しむためには?
極端な話、MLBは9月から本格的に見てもいいんですよ。
レギュラーシーズン終盤の9月の1カ月間は
ポストシーズン進出争いが激しくなりますからね。
贔屓のチームの情報をぼちぼち追っていって、
9月から本腰を入れて見ても十分間に合います。



MLBの公式アプリというのがあって
フェイバリットチームを選ぶ仕組みなんですけど、
そうするとバンバン、ニュースが入ってきますから。
たちまちハマって事情通になりますよ。
<MLBのたのしみかた> 9月からのポストシーズン争いからでもMLBの魅力はたっぷり味わえる。
Q.「ポストシーズン」の醍醐味は?
ポストシーズンはレギュラーシーズンのあとの
トーナメント戦です。



去年から方式が変わって、
出場するのは各リーグ6球団ずつ。
各リーグの東、中、西地区3地区の優勝チームと、
リーグ内で優勝チーム以外の勝率の高い3チームが
ワイルドカードとして出場します。
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ポストシーズンは
ワイルドカードシリーズ(WCS)から始まります。
対戦するのは、ワイルドカードで
最も勝率の高いチームと、同勝率2位のチーム。
それから、地区優勝の中で勝率3位と、
ワイルドカード勝率3位のチーム。



2023年は、ナショナルリーグの場合、
ワイルドカード1位のフィラデルフィア・フィリーズが
同2位のマイアミ・マーリンズに、
また、ワイルドカード3位のダイヤモンドバックスが
中地区優勝のミルウォーキー・ブルワーズに勝ちました。
勝者(3戦中2勝したチーム)は
ディビジョンシリーズ(DS)へ進みます。
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DSで対戦するのは、
地区優勝の勝率1位と、
ワイルドカード1位・2位の対戦の勝者。
それから地区優勝の勝率2位と、
地区優勝3位とワイルドカード3位の対戦の勝者。



2023年は、ナショナルリーグの場合、
ワイルドカード3位のダイヤモンドバックスが
西地区優勝のドジャースに、
ワイルドカード2位のフィリーズが
東地区優勝のブレーブスに勝つという
番狂わせが起きました。



3地区の優勝チームが全滅しちゃったんです。
勝者(5戦中3勝したチーム)は
リーグチャンピオンシップシリーズ(LCS)へ。



LCSの試合は7戦制で、
先に4勝を挙げたチームがリーグの代表として
いよいよワールドシリーズ(WS)へと駒を進めます。



実はここでもダイヤモンドバックスがフィリーズに勝ち、
ナショナルリーグの覇者になりましたが、
ワールドシリーズではアメリカンリーグの覇者
テキサス・レンジャーズに敗北しました。



ドジャースは西地区で優勝を飾りましたが、
DSであっけなく負けちゃった。
チームとしてはポストシーズンを勝利に導けるような
投手がほしい、と大谷の獲得に動いたわけですね。



MLBってワールドシリーズ優勝までに
レギュラーシーズン162試合にプラスして、
2勝(WCS=ワイルドカードシリーズ)、
3勝(DS=ディビジョンシリーズ)、
4勝(LCS=リーグチャンピオンシップシリーズ)、
4勝(WS=ワールドシリーズ)
と勝たなければいけないので、
地区優勝してDSから登場したとしても、
優勝まで少なくとも173試合は戦わないといけない。
まあしんどい世界ですよね。
<MLBのたのしみかた> 162試合を戦い抜いた後のポストシーズンの激闘に期待!
Q.2023年のレンジャーズの
ワールドシリーズ優勝は
順当だったんですか?
レンジャーズを優勝に導いたパレード・ボウチー監督は
2010年代にナショナルリーグ西地区の
サンフランシスコ・ジャイアンツを
ワールドシリーズで優勝させた人で、
招聘したら勝っちゃったという、
やっぱり監督の力が大きいなって思いましたね。



レンジャーズは同じテキサス州内のライバルチーム、
ヒューストン・アストロズには
負けられないなっていうことで
お金もそれなりに投資できる球団で
ボウチー監督を招聘したわけですね。
レンジャーズの優勝は
少し意外性はありましたけど素晴らしかったですね。



アメリカンリーグ西地区は以前、
イチロー選手が在籍したシアトル・マリナーズもいてね、
イチロー選手が来た1年目の2001年は
チームは116勝して地区優勝したんです。



でもこの時、シアトルは
ワールドシリーズで優勝できませんでした
(チャンピオンシップシリーズでヤンキースに敗北)。
なぜ、勝てなかったかというと、
あの9.11のテロがあってMLBも
一時中断しなきゃいけなくなり、
チームの勢いが途切れたからだと言われています。
勝てるときに勝たないと球団の歴史って
変わらないんですよね。
<MLBのたのしみかた> 優勝するチームの「流れ」に注目してみよう。
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Q.この選手を見たらおもしろいよという
おススメ選手はいますか?
ドジャースの場合、2024年の夏頃から
クレイトン・カーショーという大投手が
ケガから復帰する予定になっていますね。



カーショーのデビュー年は、
広島カープの黒田博樹投手が
ドジャースに移籍した年と一緒。
2人とも“ルーキー”で、
キャッチボールする相手だったんです。
移籍やFAが多いMLBの中で
カーショーはずっとドジャース一筋。
ドジャース愛みたいなものがあって、
彼が本調子なら
9月以降はすごく頼りになる存在になると思いますね。
<MLBのたのしみかた> ドジャースのシンボル、カーショー投手の復帰は見逃せない!
Q.メジャーとマイナーの関係は
1軍と2軍みたいなもの?
MLB(メジャー) の傘下にマイナーリーグがあります。
AAA(トリプルエー)、AA(ダブルエー)、
A(ハイエー、シングルエー)ルーキーリーグがあり、
それぞれ公式戦をやっています。



MLB各チームには
直接支配下に置く40人の選手登録枠があります。
ただ、実際の試合はアクティブ・ロスター枠(26人)で
選手をやりくりし、
ケガ人などが出ると
AAAから選手をメジャーに昇格させるんですね。



話は飛ぶんですが、
NBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンは
1993年に不慮の事件で父親が亡くなった影響で、
現役引退を表明して、
子供の頃の夢を追求するため
MLBのシカゴ・ホワイトソックス傘下の
AAバーミングハム・バロンズに入団しました。
ジョーダンが野球やっていたとき
豪華バスをジョーダンのお金で買って
それでチームは移動にしていたんですよね。
<MLBのたのしみかた> メジャーで活躍しそうなAAAの有望選手に注目を!
生島さんから、これから
MLB観戦をはじめたいみなさんへ。
MLBはドジャースだけじゃなく
いろんなチームがあって、
それぞれに歴史とコンテクスト(文脈)があるんですね。
MLBの選手は移籍することが多いから
AチームからBチームにやってきて、
次はCチームへ移ったとかね。
そういう流れのようなものを追っていると
不思議と親しみがわいてくるんです。
気づいたら、MLBの沼にハマっている(笑)。
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人が移るのは選手だけでなくGMもですね。
2004年に「バンビーノの呪い」が解けた
レッドソックスはその後、
MLBの先頭を走る革新的な球団に変貌したんです。



その立役者のひとりであるGMのセオ・エプスタイン氏が
シカゴ・カブス副社長に就いたら、
今度はカブスも呪い(「ビリー・ゴードの呪い」)が解けて
ワールドシリーズで優勝しちゃったんですよね。
チーム、選手、GMそれぞれにストーリーが
あり、それが積み重なっていくんですよね。



僕は1970年代からこうやってメジャーリーグを見てきて
いろんな球団のことを見てきたんですけれども、
少し物申したいことがあって。
1995年に野茂英雄選手が渡米して以降、
イチロー選手、松井秀喜選手、松坂大輔選手ら多くの
日本人選手が海を渡ったことで、
MLB報道は格段に広がりました。



でも‥‥、実はそれはMLBの報道ではなくて
「日本人メジャーリーガーの報道」
という側面も強いと思うんですよね。
そこはちょっと残念なところです。



海外サッカーも同じです。
イタリアやドイツなどに移籍した
日本の選手の結果を追いがちになってしまう。
せっかく世界のスポーツを報道しているのに、
その内容は極めてドメスティックという矛盾。



1998年のサッカーのW杯で
その構図が決定的になったのかなと思います。
それまではいろんな国のサッカーを
楽しんでいたけれど、一気に日本中心になって。
MLB報道もそのときどきで
連日イチロー、連日大谷ということに。
それはビジネス的には仕方がない思う面もあるけれども
それだけじゃないよねっていう思いは
僕はずっと持っていますね。



じゃあ、どうしたらいいのか。
自分なりの興味と紐づけて楽しむと
いいかなって思うんです。
例えば、アメリカ映画と紐づけてみるとか。



あと、僕が実際にやってみたことで、
各球団のマイナーの選手の成績ランキングを
まとめたデータ本を昔買ったんですね。
数字の羅列の本なんですけど、
10年後とかに眺めると
「今、メジャーでバリバリ活躍しているあの選手は
10年前はこんな評価だったのか」って
“答え合わせ”ができる。



いろいろ発見があって、楽しいわけです。
もちろん、これはスポーツの原稿を書く仕事をしている
僕なりの紐づけ方で、
一般の方はそんなにマニアックにならなくても
いいんですけどね。
自分なりの視点を持って見ると
もっと楽しめるはずなんです。
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本拠地やボールパークに着目するのも
おもしろいかもしれません。
アメリカの東部と西部って街の雰囲気が違うし、
スポーツに対する熱さが違うんです。



そういえば今、個人的に大注目しているのは
元MLB選手のスティーブ・ガービー氏です。
1970年代中盤に
僕がドジャースで一番好きだった選手です。
当時、そのお父さんがドジャースのキャンプ地の
バス運転手だったんです。
チームバスの運転手の息子がドジャースの4番になった
という話なんですけれどね。



そのガービー氏が、
なんと、今度の11月にカリフォルニア州の
上院議員選挙に共和党代表として出馬する予定なんですね。
MLBとは全然関係ない政治の話なのに、
ちょっとドキドキして、応援している自分がいる(笑)。



みなさんも僕みたいに長く見続けると
いろんなコンテクストが構築されていくんです。
アメリカの野球を見れば、
おもしろいと思っていただけると思うので、
そこからやっぱり先に進んで、
映画や選手の背景などバックグラウンドを
知っていってほしいです。
そして、MLB沼にハマってほしいなと思っています。
<MLBのたのしみかた> 自分なりの興味と紐づけて観戦をはじめてみましょう!
(おわります)
2024-07-20-SAT