初心者のためのメジャーリーグ入門 初心者のためのメジャーリーグ入門
大谷翔平選手の活躍をきっかけに、
メジャーリーグ(MLB)の情報が
ますます気になるようになってきていませんか。
「でも、日本人選手しか知らないし」
「シーズンの途中から観てもね」
大丈夫、そんな心配はまったくいりません!



今からMLB観戦をたのしむためのポイントを、
メジャーリーガーの取材を長年重ねてきた
生島淳さんが教えてくれましたよ。
大谷選手が所属している
ロサンゼルス・ドジャースの話はもちろん、
野球ファンでも意外と知らないリーグの仕組み、
これからの注目選手、知るほどハマる雑学まで
MLB観戦がきっとたのしくなるような
生島さんの解説をおたのしみくださいね。
#04 ようこそMLBの“沼”へ
MLBへのハマり方は人それぞれですよね。
今は、大谷翔平選手を筆頭とする日本人プレーヤーから
入る人が多いと思いますけど、
そのうち他の外国人選手推しになるかもしれませんよ。
そして、僕みたいにあらぬ方向へ興味関心が
広がる人も出てきそうです。



例えば、カルチャーとしてのMLBです。
#01で言ったように、
僕は小学校のときの不登校時代に
MLBにのめり込んだわけですが、
その後、好きな選手が増えると、
こういうものに手を出し始めます。
「ベースボールカード」です。
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今日、コレクションの一部を持ってきました。
見てください、これは昔、阪神タイガースにも在籍した
セシル・フィルダー選手。
三振して投げつけたバットが跳ね返ってきて、
小指を骨折してしまったという
エピソードがある選手です(笑)。
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カード表面には選手の写真、裏面には打撃や投手記録が
書いてあって。
数字を眺めるのが昔から好きでしたね。
こういう記録は、今はもうインターネットで
すぐに調べられるけど、
当時はこれくらいしかありませんでした。
カードは貴重な記録集なんですよ。
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このカードにも歴史の移り変わりがあって、
昔のものには、打撃成績に「出塁率」の項目がないです。
出塁率=OBP(オン・ベース・パーセンテージ)
なんですけど、昔は全く無視されていたんですよね。
今はすごく重視されています。



もう一枚紹介しましょう。
1980年代後半に読売ジャイアンツにいた
ビル・ガリクソン投手です。
ジャイアンツからヒューストン・アストロズへ移籍して。
ジャイアンツファンにはかなり懐かしい選手ですよね。
このカードですが、購入した袋の中に
どんな選手が入っているかわからないので、
好きな選手や馴染みの選手が出てきたときは
うれしかったですね。
30年以上前のものですが、
ずっと大切にファイルに入れて保存しています。
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テレビ観戦を通じて
各チームのユニフォームが好きになる人もいるでしょうね。
これは昔、神保町にあった洋書などを扱う
タトル商会で買った
『20世紀のベースボールのユニフォーム図鑑集』。
ユニ好きには最高の本ですよ、きっと。
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例えば、1970年代の一時期は丸首ボタンじゃなくて
すっぽり被るタイプもあって、その流行は日本のプロ野球へも。
ファッションとしてのユニフォームの変遷が載っています。
色がやたら派手なのとか、襟付きとかね。
100年前のユニフォームも掲載されていて、
袖がすごく長いのとか、ソックスが特徴的なものとか。
でも、そんな中、ヤンキースはブレずに、
タテ縞のピンストライプは変わらない。
これがプライドなんです。



チェスも買っちゃいましたね。
同じニューヨークが本拠地の
ヤンキース対メッツのチェス(笑)。
選手がポーン(歩兵)で、監督が王様かな。
チェスの動き方は一応知っていますけど、
普段ほとんど遊んでいない。
なのに、こうやって買って保存してある。
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正直に言うとですね、僕の問題は、
この手の買い物が野球だけじゃないってことなんですよね。
アメリカの大学フットボールとかバスケットボールとか。
同じようなモノ、買っちゃうんですよね。
浪費なのか投資なのかわからないけど、
今日ここでお披露目できたので大変満足です。
ああ、役に立ってくれたねっていう。



MLBカルチャーといえば、映画で野球を楽しむことも
大事な僕の生活の一部になっていますね。



人生最初に見た野球映画、今でも覚えていますよ。
『がんばれ!ベアーズ』です。
これは1976年の作品で、原題は『The Bad News Bears』。
テータム・オニールが素晴らしい演技を見せてくれた、
アメリカ映画の佳作だと思います。
先日も久々に見たらやっぱりおもしろかったですね。
すごくアメリカを感じられる映画です。



映画『2番目のキス』は、ドリュー・バリモアが
キャリアウーマン役で、交際することになった男性が
大のレッドソックスファンという設定です。
彼の1年は春の野球シーズン開幕とともに始まって、
勝った負けた、と大騒ぎするんです。
あるとき、ドリュー・バリモアが彼の部屋に行って
クローゼットを開けたら、
まさに今、僕が着ているような服とかグッズだらけで。
彼女は絶句して、言ったセリフが日本語字幕で、
「(あなたは)大人子どもじゃない!」。
思わず笑っちゃうシーンだけど、
僕は、「これ、俺のことだなって」って(笑)。
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もし、自分が死んでも
野球ファン以外には価値もなさそうなモノに囲まれている。
ああ、でも、それがレッドソックスファンなんだよなって。



あと、ロバート・レッドフォード主演の『ナチュラル』ね。
これはある不幸な事件のために
プロになれなかった主人公ロイ・ホッブスが、
35歳にして「奇跡のルーキー」として
MLBで活躍するというストーリーですね。
ケガをしていた主人公が
最後に劇的なホームランを打つんですよ。



#2で紹介した、
ドジャースが1986年にワールドシリーズで
優勝したときの立役者カーク・ギブソンがまさにそれで、
ギブソンが打った翌日の彼のロッカールームは
「ロイ・ホッブス」という
ネームプレートに書き換えられていて。
この映画をヒントにした誰かのアイデアなんですよね。



最後は定番ですけど、ケビン・コスナー主演の
『フィールド・オブ・ドリームス』。
アイオワの田舎町でトウモロコシを作っていた
主人公の農夫が、あるとき、
「畑を潰して野球場を作れば彼が帰ってくる」
という不思議な声を聞いて、実際に野球場を作ったら、
死んだ伝説のメジャーリーガーが
本当に現れた‥‥というお話。



アメリカがすごいのは映画製作のためにつくったこの球場で
本当にMLBの公式戦を2度やったということ。
そのときに、アーロン・ジャッジ選手とか
ヤンキースの現役選手が映画のシーンのように
トウモロコシ畑から出てくるんですよ。
これ見てね、本当に感動しましたね。
アメリカのエンタメの力、すごいなって。
このときの試合の映像もYouTubeで見られます。



と、野球映画を紹介してきたわけですが、
僕は今回、『2番目のキス』『ナチュラル』
『フィールド・オブ・ドリームス』の3本に関して
ひとつの共通点があることに気づいたんですよ。
主人公の奥さんや彼女がいい役割を果たしているんです。



『2番目のキス』は忙しいキャリアを持っている女性と
レッドソックスファンの男性との恋愛の話ですが、
女性の存在のおかげで
彼は人間的に見事に成長していくんです。



『ナチュラル』は白いドレスの女性と
黒いドレスの女性がストーリーの
キーパーソンなんですけど、
最後に主人公の幼馴染である
白いドレスの女性がとてもいい働きをするんですね。



『フィールド・オブ・ドリームス』は農夫が
農場を辞めて野球場を作ろうと思い立つんですが‥‥。
こういう男性のこと、みなさん、どう思いますか?
正直、今の時代じゃ、許されないよって思うんですけど、
そこはファンタジーですからね。
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でね、この3つの野球作品に出てくる
男たちは最終的に女性によって救われるような
ところがあるんですね。
女性は何ていうか“聖母のイメージ”。



女性の許しや理解があって初めて、
男性は野球というスポーツ、
野球という仕事にのめり込んでいけるんじゃないかと。
こうやって女性がサポートするというのは
野球映画の中のひとつの型ですが、
ぜひみなさんにも感想をお聞きしたいですね。



ちなみに僕は毎春、
『2番目のキス』を見てMLBの開幕を迎えるのが
ルーティーンになっています(笑)。



野球映画をお話したら、本も外せないですね。
僕の知識をすごく広げてくれました。



まず、紹介したいのは、1970年に出版されて
アメリカでベストセラーになった『ボールフォア』です。
元MLBの投手ジム・バウトン選手が、
当時の選手の薬物使用や性生活を赤裸々に語った暴露本。
小学生の頃に読んで衝撃を受けましたね。
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スポーツジャーナリストとしての僕に影響を与えた
ひとりがロジャー・エンジェル氏。
彼は『ニューヨーカー』という雑誌の文芸編集者で、
僕の知る限り、MLB史上最も偉大な
ベースボールライターだと思っています。
大学がハーバードだからレッドソックスファンなんだけど、
住んでいるのがニューヨークなので
メッツファンでもあって。



1986年のワールドシリーズ、
レッドソックス対メッツを迎える前に、
はたして自分は、本当はどっちのファンなのか
自問自答して、
それを告白する文章がすごく素晴らしいんです。



これを読んで、僕は思ったんです。
ああ、ひとりのファンとして書いてもいいんだなって。
報道に携わる記者って中立的な視点が大事だって、
ジャーナリズムではしばしば言われるんですけど、
彼はレッドソックスへの愛情をそのまま書いていて
僕もこういうライターになりたいと思わせてくれたんです。



そのロジャー・エンジェル氏が編集担当をしていたのが
ジョン・アップダイク氏でした。
ピュリッツアー賞受賞の著名な小説家で
ベースボールライターじゃないんですけど、
『ニューヨーカー』に掲載された
エッセイはベースボールライティングの
最高峰と言われています。



これは「最後の4割打者」と言われている
テッド・ウィリアムズ選手というレッドソックスにいた
往年の名選手の現役最後の試合に行ったときの話。
「ジョン・アップダイク テッド・ウィリアムズ」で
検索するとひょっとしたら日本語で読めるかもしれない。
けど、英語でもチャレンジしてほしいなと思います。



実は僕は前出のロジャー・エンジェル氏に
2001年にニューヨークへ行って取材をさせていただきました。
そのときに「なんでずっとレッドソックスを
題材にして書いているんですか」と質問したんです。



当時はまだ「バンビーノの呪い」が解けてなくて
レッドソックスが全然優勝できなかった。
そしたら、ロジャー氏が、
「いい質問。勝つチームより負けるチームの
ことを書いたほうがおもしろいんだよ」って。
それを聞いて、確かに読むほうも
そうかもしれないって思ったんですね。



僕は仕事でお正月の箱根駅伝の記事を書くとき、
青山学院大学について書くことが多いんですけど、
青学が優勝できなかったときのほうが
どうやら僕の原稿はたくさん読まれるらしい。
読者はやっぱりなぜ負けたのかを
知りたいのかもしれない。
ロジャー・エンジェル氏に会って、
負けたチームや選手に対する
アプローチを改めて大切にしたいなって感じましたね。



あとね、この小説も素晴らしかったです。
『コンダクト・オブ・ザ・ゲーム 大リーグ審判を夢見て』
ある青年がメジャーリーグの審判員を目指す物語。
「コンダクト」は「指揮」の意味で試合を進行する
MLB審判のことを指しています。
同じ審判を目指す仲間に同性愛の男性が出てきてね、
現在のLGBTに関する設定にもなっていたんです。
今読むと、とてもおもしろく読めるんです。
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もうひとつ、この本を読んでいて、
「へー、そうなのか!」と思ったことがあったんです。
それは、審判にとって必要な資質とは何かというくだり。
何だと思いますか? 



実はね、「体が大きい」ことなんですよ。
メジャーリーガーから猛抗議された時に
体が小さいと不利だということなんですよ。
どうりでMLBの審判は
みんな体が大きいのかと合点がいきました。



こうやって野球の映画を見たり、小説を読んだりすると、
中継だけでは分からないいろいろな
バックグラウンドがわかって、
MLBをより深く楽しむことができるんです。
<MLBのたのしみかた> 映画を観たり、小説を読んだりすると、より深くMLBを捉えられる
(つづきます)
2024-07-19-FRI