横石 |
菖蒲さんのとこの庭には、
とっても稼ぎのいい柿の木が
1本、あるんですよ。
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糸井 |
実よりも葉のほうが稼ぐんですね。 |
横石 |
そうですよ。
この木は渋柿だから、
干し柿をつくろうと思うと、実るのを待って、
採って、むいて、かわかして、
そらもうたいへんです。
葉っぱは取ればそれでいいんですから。
1万枚以上ありますから
この柿の木1本で1000パックぐらいは取れます。
まさに金の成る木ですよ。 |
菖蒲 |
いまついている葉のうち
半分くらいは台風で飛ぶわよ。
ぜんぶお金になったら、
もう、そらもう、
みなさんにおごってもいいよ。 |
一同 |
ははははは。 |
糸井 |
じゃ、台風の来ない年に来るね(笑)。
この柿の木は、昔からあったわけでしょう?
菖蒲さんは、こんな仕事をするとは
以前は思いもよらなかったですよね? |
菖蒲 |
この木やったら
樹齢は100年以上になるけん。
嫁に来た時分は
この木は、そら、うとましかったよ。
じゃまでじゃまでしょうがない。
葉っぱが落ちるとなあ、
掃除するのが嫌で嫌で。
「いろどり」せなんだら、切っとうな。
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山田 |
ははははは。 |
菖蒲 |
いまは柿の実が、
葉っぱを採るのにじゃまなんよ。 |
横石 |
この町では、菖蒲さんと同じで
みんな、柿の実を採らないんですよ。
実を採らないで葉を採る。
よそから来た人は「なんで?」と驚くけど
柿の実で商売してたら
あがったりやけんね。
それに、この柿の木も、庭木としては
むだな枝がいっぱいつきすぎです。 |
糸井 |
庭じゃなくて、農地になっちゃったからね。 |
山田 |
嫁入りのときは、まだ庭だったのに。 |
糸井 |
どっちだかわからないもの、というところに
おもしろいものがありますね。
庭なのか農地なのかわからない。 |
横石 |
そう。脳というのは
発達すればするほど
境界線を広げていく、と言われますからね。 |
糸井 |
横石さんは、
柿の「実」のほうは
かんたんには儲からないという経験を
農業指導でなさってきています。
「やっちゃいけないんだこれは」
ということをさんざん見てきたから。 |
横石 |
うん。ものはなんでも
「最高の場面に持っていく方法」が
重要やね、やっぱり。
例えば、栗やったら、イガで出す。
栗の実だけやったら
ここではお金にならないんです。
一反で10万、15万しかあがらんのよ。
イガで出したら、栗は
1個100円で10個で詰めて売るけんね。 |
菖蒲 |
イガはみなさん
ようけ欲しがりますね。 |
糸井 |
この世から「料理」はなくならないから
みんなが実を取らないことは
ありえないし、
みんなが「いろどり」になっちゃう
世の中はない。
だから、すべてが役割を
それぞれに個性として
際立てることが大事なんです。
勉強のできる子が
オリンピックに出たがっちゃだめだよ。 |
横石 |
そういうことですね。
実を採るのは、得意な産地に任せて、
葉っぱを採るのが得意な場所は
そこをのばせばいいんです。
(つづきます!)
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