いろどり 稼ぐおばあちゃんたちの町。
7 庭がそのまま農地になった日。

横石 菖蒲さんのとこの庭には、
とっても稼ぎのいい柿の木が
1本、あるんですよ。

糸井 実よりも葉のほうが稼ぐんですね。
横石 そうですよ。
この木は渋柿だから、
干し柿をつくろうと思うと、実るのを待って、
採って、むいて、かわかして、
そらもうたいへんです。
葉っぱは取ればそれでいいんですから。
1万枚以上ありますから
この柿の木1本で1000パックぐらいは取れます。
まさに金の成る木ですよ。
菖蒲 いまついている葉のうち
半分くらいは台風で飛ぶわよ。
ぜんぶお金になったら、
もう、そらもう、
みなさんにおごってもいいよ。
一同 ははははは。
糸井 じゃ、台風の来ない年に来るね(笑)。
この柿の木は、昔からあったわけでしょう?
菖蒲さんは、こんな仕事をするとは
以前は思いもよらなかったですよね?
菖蒲 この木やったら
樹齢は100年以上になるけん。
嫁に来た時分は
この木は、そら、うとましかったよ。
じゃまでじゃまでしょうがない。
葉っぱが落ちるとなあ、
掃除するのが嫌で嫌で。
「いろどり」せなんだら、切っとうな。

山田 ははははは。
菖蒲 いまは柿の実が、
葉っぱを採るのにじゃまなんよ。
横石 この町では、菖蒲さんと同じで
みんな、柿の実を採らないんですよ。
実を採らないで葉を採る。
よそから来た人は「なんで?」と驚くけど
柿の実で商売してたら
あがったりやけんね。
それに、この柿の木も、庭木としては
むだな枝がいっぱいつきすぎです。
糸井 庭じゃなくて、農地になっちゃったからね。
山田 嫁入りのときは、まだ庭だったのに。
糸井 どっちだかわからないもの、というところに
おもしろいものがありますね。
庭なのか農地なのかわからない。
横石 そう。脳というのは
発達すればするほど
境界線を広げていく、と言われますからね。
糸井 横石さんは、
柿の「実」のほうは
かんたんには儲からないという経験を
農業指導でなさってきています。
「やっちゃいけないんだこれは」
ということをさんざん見てきたから。
横石 うん。ものはなんでも
「最高の場面に持っていく方法」が
重要やね、やっぱり。

例えば、栗やったら、イガで出す。
栗の実だけやったら
ここではお金にならないんです。
一反で10万、15万しかあがらんのよ。
イガで出したら、栗は
1個100円で10個で詰めて売るけんね。
菖蒲 イガはみなさん
ようけ欲しがりますね。
糸井 この世から「料理」はなくならないから
みんなが実を取らないことは
ありえないし、
みんなが「いろどり」になっちゃう
世の中はない。
だから、すべてが役割を
それぞれに個性として
際立てることが大事なんです。
勉強のできる子が
オリンピックに出たがっちゃだめだよ。
横石 そういうことですね。
実を採るのは、得意な産地に任せて、
葉っぱを採るのが得意な場所は
そこをのばせばいいんです。



(つづきます!)
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2006-10-19-THU

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