伸坊さんにきいてみよっか?

第3回 制約を簡単に外していく

伊丹さんが手がけたもののなかで、
ぼくがいちばん影響を
受けたんじゃないかと思えるのが
『天皇の世紀』っていうテレビ番組なんです。
これは、趣旨としては、
日本人は歴史からもっと学ぶべきだっていう
すごく真面目な動機から
つくられてる番組なんですけど、
やっぱり、真面目なものでも、
つまらないものには絶対しないというのが
伊丹さんのいいところでね。
(笑)
たとえば、池田屋騒動を
テーマにした回だとすると‥‥
あ、池田屋騒動は、ご存じ?
はぁ‥‥。
池田屋で‥‥。
騒動が‥‥。
あの、幕末の京都でね、
京都に火を放って天皇をさらうという
クーデターを長州藩が計画してたんです。
その、打ち合わせの場所が池田屋という旅館で、
それをかぎつけた新選組が池田屋に押し入って、
大立ち回りをやったという事件なんですけどね。
そう、そう。
はい、はい。
ええ、ええ。
まぁ、いいや。
そういう回をやるっていうとね、
いまの、つまり現代の京都の街のなかに
サムライの格好をした人を立たせて
「ここに池田屋があった」とかってやるわけ。
横断歩道のところでサムライが
平気で信号待ちしたりしてるのを撮るんです。
(笑)
それって、電線が映り込んじゃダメっていう
いままでの時代劇の発想からいうと、
とんでもないことなんですよね。
また、これも、いまとなっては
「ふーん」っていうくらいの話に
感じられるんだと思いますけど、
当時は、「え、いいの?」って感じだったんです。
あー、なるほど。
だから、なんていうのかな、
時代劇だったら、
時代劇のようにやらなきゃいけないとか、
テレビのニュース番組だったら、
ニュース番組のようにやらないといけないとか、
そういう制約のようなものを
伊丹さんは簡単に外していくんです。
どうしてそんなことが
いつもできたんでしょうか。
ご本人がどう思ってたかわかりませんけど、
たぶん、誰かがやってて、
みんなが知ってるようなことは
おもしろくないと感じてたんじゃないでしょうか。
いままで見たことないものとか、新しいものを、
つくりたい、見せたいっていう気持ちが
伊丹さんのなかにはいつもあったんじゃないかな。
はー、そうかー。
だから、いつも新しくて、ほかの人と違ってて、
自然とみんなに影響を与えたんだと思う。
あの、その番組をぼくが観てから
ずっとあとのことなんですけどね、
あるとき、ぼくが
ウィークエンドスーパーっていうエロ本で
なにをやってもいいよ、
っていう記事を任されたんですね。
それで、上杉清文さんとぼくで
「歴史をむやみに歩く」っていう連載をはじめた。
その第1回が12月で、
忠臣蔵の討ち入りの日にね、
衣装屋に行って衣装を借りてきて、
赤穂浪士の格好をしたわけです。
で、電話帳を調べて、
東京中の「吉良さん」っていう家に電話をかけた。
(笑)
編集部の女の子に、
「本日、そちらに、討ち入りさせて
 いただきたいんですけどいかがでしょう?」
って訊いてもらったんです。
えーーー(笑)。
すごい(笑)。
すると、
「は? けっこうです」って、
だいたい断られちゃうんだけど。
そりゃ、けっこうですよね(笑)。
ところが、一軒だけ、
「いいですよ」っていう家があったの。
えーーー!
杉並区の吉良さんだったんだけど。
すごーい(笑)。
それでぼくらは、赤穂浪士の格好をして、
杉並区の吉良さんの家に
討ち入りをしに行ったわけ。
ところが、途中で道がわかんなくなったんで、
交番に入ってって、おまわりさんに
「このへんに吉良さんて家が
 あるはずなんですが」って。
(笑)
その一部始終を記事にしたんですけど、
それって、よくよく考えてみると、
伊丹さんの『天皇の世紀』と
おんなじ構造なんですよ。
そのときはすっかり忘れてたんだけど、
伊丹さんの撮った映像の印象が
強く残ってたんだと思うんです。
で、そのあとも、「旅」っていう雑誌で、
なんかやってくれって言われたときに、
歴史上の偉人になって、
その人のご当地を訪れるっていう
「歴史上の本人」という企画をやったんですよ。
二宮金次郎になって、
二宮金次郎の生家に行くとかね。
でね、それはもう、伊丹さんが
『天皇の世紀』でやってたこと、
そのまんまじゃん。
ほんとだ(笑)。
あははは。
(笑)
あとから考えると、ぼくは伊丹さんから
すごく大きな影響を受けてるんですよ。
でも、あの、「顔を似せる」っていうのは、
伸坊さんのオリジナルですよね?
そうですね(笑)。
だから、伊丹さんは、動機は真面目で、
観てる人が真面目ばっかりだと
つまんまないだろうっていうんで
サービス精神を発揮してたんだと思うんですけど、
オレはそのサービス精神の部分「だけ」を
やってたんですよ。
(笑)
(つづきます)
2009-08-26-WED
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