21. 伊丹監督第2作『タンポポ』。
初監督映画『お葬式』で大成功をおさめた伊丹さんが
次に手がけたのは、伊丹さんのエッセイのファンなら
にやりとしてしまう、食べものの映画でした。
1985年11月に公開された『タンポポ』は、
一軒の傾いたラーメン屋を立て直す、
というストーリーとともに、
伊丹さんお得意の、食べものにまつわるエピソードが
ちりばめられています。
スパゲッティの食べ方、チーズをぐいぐい指で押す話、
フランス料理店での注文の仕方など、
その描き方は伊丹さんのエッセイ同様、
ちょっとシニカルでユーモラスにあらわされ、
楽しいおもちゃ箱のような映画になっています。
本筋である、宮本信子さん扮する
女主人のラーメン屋さんの話は、伊丹さんが
この映画のメイキングである
「伊丹十三の『タンポポ』撮影日記」の中で
「『シェーン』のラーメン版」と語っているように、
通りすがりの腕の立つヒーロー・山努さんが、
かっこよくヒロインを助け、街の人々を喜ばせる
(おいしくて本格的なラーメン屋の誕生!)物語です。
できたてのラーメンは熱くなくてはいけない、
スープは澄んでなくてはいけない、と、
これを観るとだれもがラーメンについて
ちょっときびしめになってしまいます。
この映画にも、『お葬式』と同じく、日本映画界の
名優たちがたくさん出演しています。
大柳太朗さん、加藤嘉さん、大滝秀治さん、
中村伸郎さん、原泉さんなど、枚挙に暇がありません。
そして特筆すべきは、
それまでほとんど映画出演のなかった役所広司さんや、
山努さんプロデュースの舞台『ピサロ』
(脚本の翻訳は伊丹さんが担当しました)での
演技力の高さで頭角を現し、1987年のNHK大河ドラマ
『独眼竜政宗』の主役が内定していた渡辺謙さんが
登場していることでしょう。
またこの映画には、伊丹さんの次男である、
池内万平さんも『お葬式』に続き、出演しています。
伊丹さんのお父さんである伊丹万作さんも
監督になる前に俳優をしていたことがあり、
伊丹さん自身は2歳で殿様の赤ちゃん役で
スクリーンデビューをしているため、
三代にわたっての俳優一家の誕生でした。
伊丹さんはまた、ホームレスの人たちが
ラーメンの先生を見送るシーンを
父・万作さんの映画『気まぐれ冠者』への
オマージュとしています。
何事にも本格を求める伊丹さんは、
この映画で出てくる食器にもたいへん凝ったようで、
フードコーディネートを担当した石森いづみさんは
食器集めの苦労と伊丹さんの目利きのすごさを
『伊丹十三の映画』の中で語っています。
また石森さんは、『タンポポ』の中で
とくに人気の高い食べもののひとつ、
たまごがとろりと流れ出すオムライスのオムレツは、
伊丹さん自身がフライパンを振ったものということを
明かしています。
実際に伊丹さんはオムレツに夢中になった時期があり、
友人である浅井愼平さんに、傑作を食べさせてあげよう、
と、何個も失敗作をかさねながら
オムレツを作り続けたこともあるとか。
この『タンポポ』は、伊丹映画の中でも特に
海外で評価の高かった作品です。
役所広司さんは海外で、『タンポポ』に出ていたと話すと
知っているという人が多く、誇らしかったそうです。
また2007年のハリウッド映画で、2009年1月に
日本でも公開された『ラーメンガール』
(主演ブリタニー・マーフィ、西田敏行)について
ロバート・アラン・アッカーマン監督は、
アサヒ・コムの取材に対し、
「『タンポポ』に刺激を受けた、だから山努さんにも
出演してもらった」、と語っています。
(ほぼ日・りか)
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DVD『伊丹十三の「タンポポ」撮影日記』。
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参考:『伊丹十三の映画』(新潮社)
『NHK 知るを楽しむ 私のこだわり人物伝』
アサヒ・コム
ほか。
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