伊丹さんが「師匠」と呼んだ男。
 
佐藤利明さん。
テレビマンユニオンの創立メンバー。
伊丹さんが「師匠」と呼んだカメラマンです。
テレビというメディアで、
伊丹さんといっしょに手がけた番組は数知れず。
「テレビ人・伊丹十三」を語るときに、
欠かせない存在のおひとりと言えるでしょう。
そんな師匠から、当時の現場のお話をうかがいました。

佐藤利明さんプロフィール
第1回 ドキュメントに原作がある?
第2回 楽しいのは厄介な仕事。
第3回 伊丹万作さんのこと。
第4回 『侘助たちの秋』
第4回 『侘助たちの秋』
ほぼ日 「テレビ人・伊丹十三」の時代がありまして、
それから伊丹さんは、映画の世界に行かれました。
佐藤 うん、そうだね。
ほぼ日 師匠は「映画をやるんだ」というお話を、
伊丹さんからどのようにうかがったのでしょう?
佐藤 いちばん最初の映画『お葬式』の前にね、
別な話があったんですよ。
ほぼ日 『お葬式』の前に別な企画が。
佐藤 ええと、あれはなんてタイトルだったか‥‥
あ、そうそう、『イエスの方舟』。
ほぼ日 『イエスの方舟』。
佐藤 その話を聞いたんだけどね、
僕にはその、僕には何の興味もなかったんですよ、
その『イエスの方舟』っていうことに。
ほぼ日 はい。
佐藤 まあ、その企画はなくなったんですけど、
その次にきたのが、
『侘助たちの秋(わびすけたちのあき)』
っていう台本だったんです。
ほぼ日 『侘助たちの秋』。
佐藤 「ちょっとこれ読んでおいてよ」って。
ほぼ日 伊丹さんから。
佐藤 うん。
でも、何ていうんだろうな‥‥
映画を撮るっていうのは、
僕の土俵じゃないところで仕事をするわけで。
それがやりたくなかったんだな、結局。
ほぼ日 はい。
佐藤 テレビと違って、映画は、
個人プレイがあまりできないから。
ほぼ日 そうでしょうね、大勢のチームワークで。
佐藤 僕は自由に撮れる仕事が面白いと思って、
伊丹さんと付き合ってるわけですから‥‥。
そこが、ちょっとね。
ほぼ日 なるほど。
佐藤 ま、伊丹さん自身も、
佐藤と組むとうるせえって
思ってたと思いますよ(笑)、多分ね。
僕は何でも「はい、はい」とは言わないから。
ほぼ日 はい(笑)。
佐藤 だから、台本が来たっていう段階までで、
その話はなくなりましたね。
ほぼ日 どんなお話だったんですか?
その『侘助たちの秋』というのは。
佐藤 だからそれは『お葬式』ですよ。
『お葬式』のこと。
ほぼ日 え? 映画の『お葬式』?
佐藤 そう。
ほぼ日 ああ、最初はそのタイトルだったんですか。
佐藤 あれは、主人公の名前が「侘助」ですから。
ほぼ日 あー、そうかぁ。
佐藤 そうです。
ほぼ日 なるほど。
では、伊丹さんが映画監督になってから、
いっしょにお仕事は?
佐藤 やりましたよ。
映画のメイキングはずいぶんやりました。
ほぼ日 あ、メイキング!
『タンポポ』のメイキングとか
すごく面白いですよね。
佐藤 あれが初めてですね。
ほぼ日 へえー。
佐藤 浦谷(年良)のアイデアですね。
あれは楽しかったね、好きにしていいから。
ほぼ日 そうでしたか、あれは師匠が。
撮影現場での伊丹さんは、
どんな感じだったんでしょう?
やはり、厳しい方で?
佐藤 そりゃそうだけど、でも、
誰かを怒ったことは、あまりないなあ。
ほぼ日 へえー。
佐藤 誰かに対して厳しくするんじゃなくて、
自分を鍛えるのが好きな人なんだと思う。
ほぼ日 ああ。
佐藤 当時のADにもね、怒ったりはしないけどさ、
「もっと面白がらないとだめだ」
っていうのは、よく言ってましたよ。
佐藤 面白がる。
佐藤 ちゃんと達成感を持てるように、
テーマや目標を自分で決めろ、と。
どんなことでもいいから。
たとえば弁当配りでも、
「今日は誰よりも早く弁当を配る」とかね。
「今日いちにちは明るく挨拶してみよう」とか。
目標の設定と達成感が大切なんだ、と。
だから、あの人自身もさ、
しょっちゅう禁煙をやるわけ。
ほぼ日 しょっちゅう(笑)。
佐藤 そういうことが好きな人なの。
「今日いちにちは煙草をやめてみよう」ってね。
ほぼ日 常に目指すものがほしかったのでしょうか。
佐藤 目指すというか、
自分を律することが好きだったんでしょう。
伊丹さんらしいと思いますよ。
ほぼ日 律することは、伊丹さんらしい。
佐藤 うん。
だって、いっぺんコマーシャルにね、
あの、ほら、あったじゃないですか、
「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」
っていうコマーシャル。
ほぼ日 はい、ありましたね。
佐藤 伊丹さんは、あのコマーシャルに怒ってた。
あれは憎んでましたね(笑)。
ほぼ日 憎んでた(笑)。
佐藤 「わんぱくでもいいとは何だ!」って(笑)。
ほぼ日 わんぱくっていうのは、
「いうことをきかない」わけですからね。
「律する」とは、たしかに真逆です。
佐藤 「たくましく育て、はまあいいけど、
 わんぱくでもいいって、何だ!」
ほぼ日 (笑)
佐藤 そんなに怒るこたあねえじゃねえかって
思うんですけど(笑)、
まあ、そういうことを言う人でした。
ほぼ日 へえー。
佐藤 ただ、ああ見えて繊細ではあったよね。
ほぼ日 繊細。
佐藤 うん。
それを気取られるのが嫌だっていうか、
たとえば閉所恐怖症だったりするわけ。
ほぼ日 へえー。
佐藤 意外でしょ?
ほぼ日 意外ですね。
佐藤 そうは見えないじゃない。
ほぼ日 ええ。
佐藤 ふたりで長い時間、
飛行機に乗ってるとわかるんだ。
気取られないよう、ずーっと寝てたりするの。
ほぼ日 ああ。
佐藤 繊細でね、乱暴なのが嫌いなんだ。
野卑っていうの? 野蛮とか。
ほぼ日 はい。
佐藤 そういうのがものすごく嫌なんだ、
伊丹さんは。
ほぼ日 そうでしたか。
佐藤 うん。
‥‥そうか、もう12年か。
ほぼ日 ‥‥‥‥はい。
佐藤 ‥‥‥‥うん。
まあ、こんなところですかね。
勝手にしゃべっちゃったけど、まとまりますか。
ほぼ日 それはもう。
ありがとうございました。
佐藤 うん。
じゃあ、またね。
  (おわります)
 
2009-07-24-FRI
   
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