魂はどうか自由でいてほしい。
「いつか来る死を考える。」
訪問診療医の小堀鷗一郎先生に
初めて「ほぼ日」にご登場いただきました。

あの対談がきっかけとなり、
2020年11月、小堀先生と糸井重里が
「死」について語った
『いつか来る死』が出版されました。

その刊行記念となるオンラインイベントが
新宿の紀伊國屋書店新宿本店にて開かれ、
小堀先生と糸井、さらに撮影を担当した
写真家の幡野広志さんも加わって、
「死」をテーマにした座談会が生配信されました。
その内容を連載にしてお届けします。
編集 中川實穗
第1回 まずは幡野さんに語らせるべきです
糸井
今日はこの3人で話を
することになったのですが。
幡野
ええ。
写真
糸井
この『いつか来る死』という
本を出すにあたって、
幡野さんに写真をお願いしたいと
言いだしたのはぼくです。
そしたら、引き受けてくださって。
幡野さんは、著者近影を撮るだけじゃなく、
小堀先生とぼくが話をしている姿を
たくさん撮ってくださいました。



実はそのことが、
この本に大きな影響を与えています。
「70代、80代のふたりの老人が
写真に撮られて死を語っている」
という、珍しい本の姿そのものが、
テーマにもなっているような気がして。
ぼくとしては、幡野さんに写真を撮られたことで
次元が変わった気がするんです。
小堀先生、まずは写真について、
いかがでしたか?
小堀
わたしは80歳の
そして糸井さんは70歳の高齢者です。
そのふたりを幡野さんが写真に撮った。
しかしこの三人の組み合わせを見るとですね、
本当に死を語る資格があるのは、
幡野さんだと思います。
幡野
おお、そうですか。
小堀
まずは幡野さんに語らせるべきだと、
今思いましたね。
ぼくと糸井さんはしばらく黙っていて。
幡野
先生、とつぜんすごいことを
おっしゃいますね(笑)。
小堀
幡野さんはほかにも
色々な写真を撮られているわけですよ。
東北の被災地の漁師の人を撮ったりもしている。
そういう彼の行動には、
ぼくと糸井さんには
わからない世界があると思いますね。
そこにぼくは非常に興味があります、
個人的にね。
写真
糸井
小堀先生がおっしゃることは、
その通りだと思います。
本の対談でははじめから
幡野さんの話題が出ていました。
小堀
糸井さんから最初に幡野さんの著書
『ぼくたちが選べなかったことを、
選びなおすために。』

をいただいて、
これはもう我々とは
レベルの違う人間だということがわかりました。



というのも、わたしも糸井さんも、
いわば、健康な世界にいるわけです。
本当に死というものを考えるような、
そういう世界には
一回も足を踏み入れてこなかった。



今、こういうアクティビティをもって
普通の活動をしておられるけれど、
幡野さんはそういう世界にいる時期が
あったわけですよね。
そういう人というのは
我々に及びもつかないような奥行き、深さがある。
ぼくは幡野さんの写真にも
そういうことが関係していると思います。
彼が撮っている一枚一枚の写真は
それに裏付けられていると思う。



幡野さんが喋りたくない部分はともかくとして、
幡野さんから喋らせるのが
いいのではないかと思います。
幡野
それは、えーっと、褒めていただいて‥‥?
写真
小堀
褒めたわけじゃなくて、
わたしの率直な考えです。
要するに、飛行機が落っこちるときに
機長が「皆さんご安心ください」と言うけれど、
もし機長だけが助かるとわかっていたら、
誰も機長の言うことは聞かないと思います。
我々はそういう立場です。
まだ現実にそういう問題と
直面していないわけだから。
糸井
客体として見てくるものはたくさんあるけれど、
本人として切実に感じるということに関しては
アマチュアであるわけですね。
今回ぼくは、幡野さんを巻き込んでしまった
この本の造りが
すごく重要だと思っているんです。
写真
小堀
ええ、それは糸井さんの英断ですよ。
糸井さんがそこまで「読んで」やられているのか、
わかりませんけど。
糸井
読んでます(笑)。
さあ、幡野さんえらいことに!
幡野
いやぁ、きましたね。
小堀
これから30分くらい、幡野さんにだけ
話していただきましょう。
糸井
(笑)
幡野
小堀先生がおっしゃっていることは、つまり、
ぼくは血液がんの患者ですが
「そういう患者らしくない」というところですか?
小堀
いいえ、ぜんぜん。
そういう体験をされた、ということです。
それは誰も及びのつかない体験ですから。
幡野
なるほど。
そう言っていただいて、いま少し、
思うことがあります。



大きな病院には「がんサロン」というような、
がん患者同士が集まる会がありまして、
ぼくは病気がわかったときに、
そこに少しのあいだ通いました。



がん患者さんは、
80代や70代の方が多いのですが、
そこでご自身の人生について
後悔されている方が多かったです。
「もっとこうしておけばよかった、
ああしておけばよかった」
という方がほとんどで、
「人生満足だよ」という方が
あまりいらっしゃらなかった。



それが、言葉は悪いですが、
ぼくは嫌だなと思ったんです。
そういう亡くなり方は
果たしてどうなのだろう? と思ってしまいました。
それに加え、病気になっちゃうとなおさら
患者さんの家族が、
ご本人のやりたいことを
制限しちゃうことが多いんです。
みんな「旅行に行きたい」とか
「海外に行きたい」とか言うんですけど、
周りの方が「行かないで」と、
足を引っ張ってしまう傾向があります。



ぼくは、好きなことはしたほうがいい、
それがたとえ病気になった後だったとしても、
と思います。
そのほうがぼく自身には後悔がないし、
妻や子供も後悔しないだろうと思いました。
好きなことをさせなかった患者さんが
亡くなってしまうと、
きっとそのご家族がまた後悔をします。
だから「好きなことをする」って
まず前提として、とても大事だと思っています。
写真
(つづきます)
2021-01-12-TUE
写真
『いつか来る死』
すべての人に等しく関係がある「死」について、
400人以上を看取ってきた訪問診療医の
小堀鷗一郎さんと、糸井重里が語りあいます。

「『胃ろうは嫌だ』の決り文句に騙されない」
「親の死に目に会えないことは親不孝ではない」
など、これまでの死に対する考えが
少し自由になるような一冊です。