糸井 では、次の質問をしましょう。
「山下さんにも
 わからないジャズって、ありますか?」
山下 分析できるかどうかは別にして、
たぶん、わからない音楽ってないでしょう。
音楽というものは、
直接耳に入ってくるものですからね。
「自分はそれに対して、こう反応した」
ということがわかれば、
それはわかったっていうことだと思います。
糸井 そういうことですね。
では、次の質問です。
「山下さんの肘打ち奏法は
 なぜ、できたのですか?」
山下 即興演奏を
もっとはげしくしたいなと思うと……
たとえば、
ドラムとの戦いのようなものでは、
そういう気持ちになりやすいんですね。

すると、
「もっとやりたい! もっとやりたい!」
というときに、
10本の指で押さえても10音しか出ないから、
もっとたくさんの音をガンッ!と欲しい、
ということで、ヒジをつきだしたんですね。
それが、はじまりです。
糸井 肘打ち奏法は、ご健在であられると。
山下 ええ、いまもかならず、一晩に一回は……。
昔は、それで一晩やれたのが信じられないけど。
糸井 肘も、鍛えたりなさる?
山下 鍛えません。
ピアノの鍵盤は、押すとさがりますから。
糸井 見ていると体力を
かなりお使いになっているんですけど、
ジャズを演奏するための
スポーツみたいなことは、
ありえないんですか?
山下 しません。
糸井 もっと俺に体力があれば、
いい演奏ができるのになぁ、
ということは、ないですか?
山下 それは思いますよ。
「ピアノの演奏家にとって、
 いちばんいい筋トレとは何かな?」
とかは考えますが……
ピアニストの弱点は左手の中指、
といいますよね。
それで何とか鍛えたいってんで、
器具を買って鍛えていたやつが、
くじいちゃったという話があります。

あぶないんですよね。
握力を鍛える人のマネをしたら、
ぼくも、シャバダバになっちゃって……
だから、もう鍛えることは一切しません。
ピアノを弾くだけがいいと思う。
タモリ ダメらしいですね、鍛えるのは。

TUBEというバンドの
ボーカルの前田と話していたら、
前田はゴルフが好きなんですよ。
「ぼくはゴルフをやってたら、
 ギターがぜんぜんダメになって、
 それでギターを辞めたんです」
……逆じゃねぇのか?
山下 (笑)それは逆だ。


2005-05-17 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005