水に浮く草を束ねてつくった船に乗り、
アメリカ西海岸から
ハワイへ渡ろうとしている冒険家がいます。
葦船航海士の石川仁(ジン)さんです。
風にまかせて進むから、
どこへたどり着くかもわからない‥‥とか、
自然と魚が集まってくるので、
毎日のごはんに困らない‥‥とか、
葦船というもの自体に惹かれて
出かけたインタビューだったのですが。
葦船の上で深めた
ジンさんの地球史観がおもしろかった。
全11回の、長い連載。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
- ──
- 今回の葦船太平洋航海プロジェクトは、
いつから構想しているんですか。
- ジン
- 20年くらい前かなあ。
- ──
- え、そんなに前から。
- ジン
- 10年の潜伏期間が挟まってるけどね。
- ──
- じゃあ、ようやく今年、はじめられる。
- ジン
- テスト航海がスタートします。
- ──
- スケジュールは、どのような。
- ジン
- まず、本番の船の半分の大きさの
9メートルの船をつくって、
サンフランシスコ湾をテスト航海。
マストの位置だとか舵の大きさを、
そこで決めようと思ってる。
- ──
- おお。
- ジン
- アメリカ先住民のスタイルを取り入れた、
新しいデザインの船にします。
せっかく葦船のバトンが回ってきたんで、
現代の知恵をふるって、
新しいデザインの船をつくろうと思って。
- ──
- 葦船って、自分で設計するんです‥‥ね。
- ジン
- もうできたよ。頭のなかで描いたものを
設計図に起こし、模型に落とし込んで、
実際に水に浮かべてみて、
大丈夫だと思ったら、ハワイへ出発する。
- ──
- それが‥‥。
- ジン
- 来年2021年以降、かな。
ことしはテスト航海をやったりだとか、
デモンストレーションのツアーで
いろいろまわって、
航海の資金を集めなきゃならないんで。
- ──
- 20年の準備期間も、終盤戦ですね。
- ジン
- テスト航海を3月から5月にやって、
それが終わったら、
葦の刈り取りをします。3000束。
- ──
- わー。すごい量。
- ジン
- 刈り取って、風や天候の具合を見て、
いまだってときに、出発です。
夏の高気圧の吹き出しという風を
利用して行くんだけど、
その風の調子がイマイチだったら、
次の年にずらします。
- ──
- ああ、季節の風に乗っていくから、
その年がよくなかったら、
まるまる1年、延期になっちゃう。
その場合、葦船は、
つくって保管しておくんですか。
- ジン
- つくる前の束にして置いておく。
- ──
- 行くぞとなったら、組み立てる。
- ジン
- そう、草の準備さえしてあれば、
つくりはじめてから
3か月後にはできあがるからね。
- ──
- クルーは、どういう人たちなんですか。
- ジン
- 環太平洋の末裔の人たちが集まったら、
いいなあと思ってるんです。
- ──
- おおー、かっこいい。
- ジン
- ネイティブアメリカンのクルー、
ハワイのクルー、
ニュージーランドのクルー、
ミクロネシアの
スターナビゲーションの人たち、
イースター島のアニキも、
チチカカ湖の葦船職人も乗って。
- ──
- すごーい、オールスターですね。
で、船長はニッポンの石川さん。
- ジン
- 環太平洋の海洋民族たちの文化が、
ひとつの船に乗って、旅をする。
でね、そのようすをどうにかして、
映画にしたいと思っていて。
- ──
- 映画?
- ジン
- 文化的背景も言語もちがう、
環太平洋の海洋民族出身の人たちが、
それぞれの旅を、
それぞれの言葉や価値観で語る映画。
- ──
- おお、おもしろそう!
- ジン
- でしょ。文化や言葉やがちがったら、
同じ旅なのに、
ぜんぜんちがう物語になるんですよ。
- ──
- クルーの数だけ、物語がうまれる。
自分たちの文化を通して旅に接して、
自分たちの言葉で、
航海で体験した物語を語る‥‥って。
- ジン
- 究極のオムニバスだと思う。
- ──
- 観たいです、それ。船の定員は‥‥。
- ジン
- 大きさからして、7人くらいかなあ。
- ──
- 葦船って、放っておけば
1年後には土に戻るってことですが、
廃棄するときは、
ただ置いとけばそれでいいんですか。
- ジン
- 積んどけば、そのまま肥やしになる。
燃やしてもいいけどね。
天然の素材で、珪藻を含んでるから、
土壌改良にも使えるはず。
- ──
- 葦船って、イメージとか見た目的に、
そこまでの性能があると
思えないところも、おもしろいです。
- ジン
- 自然の力って、計り知れないよね。
よけいなことをしなくても、
微生物に任せておけば大丈夫的な。
- ──
- なかでも、やっぱり、
生き物が寄ってくるっていうのが、
おもしろいなと思いました。
- ジン
- もう、実際に見せてあげたいです。
アートな部分もあると思う。
- ──
- いや、やってることが、
めちゃくちゃアートだと思います。
船の形も本当に美しいですけど、
昔からこういう見た目なんですか。
- ジン
- これは、チチカカ湖のタイプだね。
- ──
- クロワッサンみたい。
- ジン
- 先が尖ってんのは、波を切るため。
- ──
- お話をうかがっていると、
いろんな人たちとの出会いがあって、
石川さん、
導かれるようにして、
いま、ハワイへ向かっている感じが。
- ジン
- そうだね、チチカカ湖の葦船職人も、
スペイン人の船長も、
イースター島のアニキも、偶然です。
でも、偶然だけど、ふりかえったら、
ぜんぶ必然だったような気もする。
- ──
- 呼び寄せるんですかねえ、人の縁を。
島が葦船を呼び寄せるように。
- ジン
- たぶん、自分の人生に嘘をつかずに
生きていたら、
どうしても出会う人っていると思う。
- ──
- 人との出会いも必然的にやってくる。
偶然のようなふりをして。
ずっと冒険し続けたいと思いますか。
- ジン
- 気持ちの上ではそうだけど、
冒険には限界があると思ってるから、
いずれ伝える側に回ると思う。
航海は若い衆に任せて、
イルカ語、クジラ語の語学学校とか、
そんなのをつくってみたいな。
70歳とか、それくらいになったら。
- ──
- 石川仁イルカ語・クジラ語学校。
- ジン
- ぼくは「生き切って終わる」のが目標。
いまはそのゴールに向かってる途上。
やることもぜんぶやったし、
よしオッケー、次行こうって言って、
生ききって死にたいんです。
- ──
- それは、理想かもしれないです。
- ジン
- 人類のなせる最高の芸術だと思うよ。
- ──
- そうやって生きて死ぬこと、が。
- ジン
- うん。
- ──
- 葦船って、すごいものですねえ。
- ジン
- こんなおもしろい遊び‥‥ないよね。
<終わります>
2020-02-01-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN