糸井
独立してすぐの自分に対して
何かを指示できるなら、
どんなことを教えてあげますか。
田中
「商売する前に、まずお前は人間を作れ」
と言いますね。
糸井
おもしろい(笑)。
田中
本当にそう思うんです。
自分で商売をやってきたから気づけたことですが、
やっぱり、人間の器以上の商売はできません。
商売を伸ばしたかったら、
商売そのものを伸ばすことよりも、
自分自身の考えや価値観といった幅が広がらないと、
絶対に商売は大きくならないなって感じます。
糸井
独立した当時は、
まだわかっていなかった?
田中
一切わかっていません。
糸井
ラッキーがあるだろうと思ったり、
コツだとか、ずるい戦法を探すわけですね。
田中
そうです、そうです。
私と同じ頃に、そういう起業した人たちは、
ほとんど消えていきましたから。
糸井
よく若い人たちから、
「コツを教えてください」
という質問がありますよね。
田中
真剣勝負を繰り返さないと
コツは掴めませんね。
糸井
その通りですね。
「ほぼ日」にも書いたことがあって、
日本シリーズに出たDeNAベイスターズが、
1試合ごとに強くなっているのがわかるんですよ。
真剣勝負を繰り返した者だけが
身につける強さがあるんですよね。
田中
あぁ、はいはい。
糸井
大変なことですよね、
真剣勝負をするっていうのは。
田中
そうですねぇ。
糸井
ないんですよ、真剣勝負ができる機会って。
小手先で考えたりするけど、うまくいかない。
でも、いい風が吹いたりする時があって、
田中さんもヒットを出したんですよね。
田中
そうです。まぁ、ラッキーでしたね。
商品で言うと、化粧ポーチとかエプロンとか、
そういうものが当たったんですけど、
でも、ずっとは続かないんですよね。
糸井
でも、どのくらい続いたんですか?
田中
ひとつの商品で3年くらいですね。
3年も経つと、すっかり下がっていく。
糸井
じゃあ、田中さんの会社の中で、
3年の山を越える商品が
何度か生まれたんですね。
田中
全部3年の山ですよ。
最近では、パソコン用メガネも同じです。
糸井
はぁー、そこも一緒だっていうのが
おもしろいですね。
田中
パソコン用メガネは今も売れていますけど、
ピーク時の売上って、今どころじゃないので。
糸井
化粧ポーチからパソコン用のメガネまで、
グラフの動きかたは、
だいたい同じだなってわかったんですね。
田中
今なら冷静に言えますけど、
当時はわからないんですよ。
糸井
おもしろいのは、そこだよね。
他人の会社のことならわかるでしょう?
田中
人の会社はよく見えるんですよ。
不思議ですよねえ。
自分の会社のことになると、
まったくわからないのに。
糸井
伸びしろやテコ入れという言葉って、
言い訳にしかすぎませんよね。
商売は違う次元でものが動くから。
田中
ええ、そうなんです。
糸井
化粧ポーチやエプロンといったもので、
小さい山をいくつか作っている時に、
何かを覚えたんでしょうね、きっと。
田中
いいことって、絶対に続かないんだなと。
そのことは学習したんですよ。
糸井
26、27歳ぐらいですか。
田中
もう30歳を超えてましたね。
糸井
商品が当たっている期間が、
しばらく続いていたわけですね。
田中
エプロンが当たり、化粧ポーチが当たり、
その後、バッグが当たったんですよ。
糸井
すごい。
田中
売上も利益もよくなってきた時に、
「この状態、また続かないんだろうな」
とは思っていたんです。
そんな時に、メガネと出合ったんです。
糸井
エプロンやらを作っていた時代に、
けっこうな蓄えにはなっていたでしょう?
売上で言うと、どのぐらいまで行ったんですか?
田中
たしか、7億5千万とか。
糸井
前橋で20代で会社を興した人にしてみたら、
いい気になれる数字ですね。
田中
そうですね。
経常利益も6千万とかあって、
いい気になってました。
糸井
いい気になってましたか(笑)。
田中
いい気になって、そのせいで失敗して、
それを繰り返していった中で、
いいことは続かないことに気づいたんです。
糸井
いい気になっている時には、
会社のことは手を抜くんですか?
田中
抜きますね。
糸井
あぁ、正直に言ってくださって、
本当に、いい題材になってます(笑)。
田中
いやいや。
糸井
「いえ、手は抜かないです」
という答え方も、ありえるわけですよ。
だって、7億5千万も売り上げているんだから。
田中
完全に、手を抜いていましたよ。
糸井
(笑)
(つづきます)
2017-12-25-MON
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN