糸井
田中さんの会社の話を伺っていて、
商品が販売のピークを迎えて下がるのに3年だとすると、
JINSのリニューアルの話は、
3年レベルの話じゃなくなったんですね。
田中
そうですね。
糸井
ついに、その3年の山を越えたんだ。
田中
そうですね。
真剣勝負に勝って視界が開けたら、
ガーッと売上も伸びたんです。
100億円から、365億円ぐらいまで。
糸井
はぁ(笑)。
田中
でも、売上は伸びたんですけど、
また課題が見つかったんですよ。
糸井
おもしろい、おもしろい(笑)。
田中
売上が伸びていく過程では、
とにかくお客さんがいっぱい来てくださるわけです。
年間で60から70店舗を出店しましたから、
スタッフもお店もどんどん増えました。
そうすると、お店でのお客様への対応が
ぞんざいになるわけですよ。
糸井
あぁ‥‥。
田中
つまり、「お客が来て当たり前」
という世界になってしまっていたんです。
これはもう、本当の会社のビジョンを作って、
ブランディングしなきゃダメなんだと、
そこでようやく気づきました。
糸井
「我々は何なんだ?」ということを、
自分と相手が両方わかっている状態を
目指したんですね。
田中
そうです。
それまでも「ビジョン」や「志」とは言っていましたが、
今になって振り返ってみると、
「戦略」を作っていただけなんですよ。
戦略を作って、その戦略ワードに則った、
いろいろな施策を打ち出して勝ったんです。
でも、戦略には本来、
根っこのビジョンが必要だったんです。
糸井
ああ、そうですね。
田中
戦略なんていうものは時代によって変わるから、
50年、100年変わらないビジョンを
ちゃんと決めないといけないなと思いました。
それまで、お客様に届けていたのは、
モノとしてのメガネなんですよ。
視力の測定とメガネの加工、
この2つだけをきちんとやれば、
商売は成り立つと思っていましたが、
お客様への感謝の気持ちがないわけですよ。
糸井
うんうんうん。
それは機能ですからね。
田中
自分たちが本来やるべきことに気づきました。
なんで「JINS PC」というメガネを開発したのか。
なんで「追加料金0円」というモデルを作りだしたのか。
なんで30分でお渡しできるのか。
その理由やプロセス、背景をきちんと従業員に伝えて、
従業員が理解した上で、
我々のコンセプトを売っていくようにしないと、
お客さんの満足度も高まらないだろうと。
「じゃあ、JINSのビジョンって何なんだ?」
というところから、考えていったんです。
糸井
気づいたっていうことは、
自分の頭の中に降りてきたものですか?
田中
そうですね。
糸井
マーケティングからは、
その答えは出ませんもんね。
田中
そうなんです。
自分がやりたくもないことを、
マーケットのプレッシャーによってやることは、
もうやめようと思って。
糸井
ああ、そこには拍手だなぁ!
田中
そこはもう明確でしたね。
やっぱり自分が社長でいる限りは、
自分が納得できることをやっていきたいので。
糸井
どん底を経験したから、言いやすくなりますね。
普通は、やっぱり怖さが出ちゃいますから。
田中
そうなんです。
どん底から復活していますから。
糸井
さすがだね。
田中
さっそく、ブランディングは
誰に頼んだらいいんだろうと悩みました。
そして、ブランドを長期の視点で考えたら、
ヨーロッパに答えがありそうだなと。
そこで、ドイツのミュンヘンに飛んで、
KMS社のサイモンという人のもとを訪ねたんです。
糸井
あぁ。
田中
サイモンは、私や社員とのヒアリングを通して、
JINSには3つの特徴があると言うんです。
1つ目は、「プログレッシブである」と。
今までの既存の業界の常識を打ち破り、
新しいことをチャレンジする革新的な様がある。
2つ目が、「インスパイリングだ」と。
スタッフを含めて、いい人が多い。
明るくて、人々を鼓舞するようなところがある。
そして3つ目は、「珍しいんだけど」と前置きして、
「この会社はオネストだ」と言ったんです。
つまり、正直で誠実ということですね。
それらの姿勢から生み出されたJINSのビジョンが、
「Magnify Life(マグニファイライフ)」
という言葉です。
糸井
どういう意味なんでしょうか。
田中
私も、初めはわからなかったんですよ。
「Magnify」という単語は、
顕微鏡やルーペで物を見ると大きく見えるように、
「人々の人生を拡大する」という意味なんです。
その頃には中国やアメリカや台湾にも
進出することを決めていたので、
全世界で共通のビジョンにするためにも、
英語のほうがいいと思ったんですよ。
「マグニファイ」という言葉に馴染めなかったんですが、
アメリカや中国の社員に聞いたら、しっくりきたそうで。
糸井
日本人には、あまり馴染みのない言葉ですもんね。
田中
2014年にビジョンができて、
今はもう自分たちの言葉になりました。
その言葉ができたら、
目先の売上が気にならなくなったんですよ。
絶対的な太い道ができたという感覚です。
商売だから、これから先も
業績のアップダウンはあると思うんです。
でも、それが不思議と気にならないんですよね。
糸井
アップダウンがないと思っていたら、
全部が防御に回っちゃいますもんね。
原宿店のリニューアルで上昇カーブを描いてからも、
さらに危機感をちゃんと持てていたというのは、
今までの経験がそうさせたんですかね。
田中
そうですね。
やっぱり経験はありますよね。
(つづきます)
2017-12-29-FRI
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN