糸井
JINSではいろんな勝負を繰り返していますが、
社員のみなさんも、田中さんと並行して
同じような気分でいられたんですか?
田中
うーん‥‥。
私が思ったのは、社員はやっぱり人間だし、
動物なんだなということですね。
どういうことかというと、
創業からいろいろな勝負をしてきましたけど、
勝負をする時に、ビビるんですよ。
糸井
うんうんうん。
田中
ビビって、「殿、ご乱心を」っていう雰囲気に。
糸井
「殿中でござる!」みたいなね(笑)。
田中
「1ヶ月で5億使う」なんて言われるわけですから。
糸井
ビビるでしょうねえ。
田中
それでも勝つと、信頼してくれるんです。
でも私、創業者ですよ?
創業者でさえ、勝たないと信頼されない。
糸井
はぁー。
田中
でも、おもしろいことに、
勝ったことを経験している社員は、
その後の勝負にも安心してついてくるんです。
でも、途中から入った社員は
過去の勝負を知らないから、
次の勝負の時にビビるんですよ。
糸井
なるほど。
田中
それで、勝つと信頼するんです。
ずっと、この繰り返しですね。
糸井
本当に、人間というのは動物ですよね。
やっぱり、いちいち怖いんですよ。
たぶん田中さんは、過去に身に着けてきたことで、
「最悪の場合どうなる」ということを、
いつも知っていたんじゃないかな。
田中
そうかもしれないですね。
糸井
そんな気がしますね。
最悪の事態も、何回か経験してますし(笑)。
勉強しようと思ってやってきたことじゃなくて、
知っちゃったことを心にとめて、
染み込ませたことが次の何かになっている。
田中
そうですね。
糸井
ちょっと、農業みたいですね。
田中
農業ですか。
ああ、そうかもしれません。
糸井
ぼくも自分でやっていることは、
農業みたいだなぁって思うんですよ。
「カルチャー」という言葉はもともと、
「耕す」という意味ですから。
工業製品みたいに、
何かをポンッと埋め込んだらできるのは、
やっぱり、戦略や戦術までなんですよ。
田中
そうですね。
糸井
広告費を5億にしたという
博打のような戦略は、
何回でもやれることじゃないですよね。
田中
そうですね。
糸井
ちょっとこの間お会いして話した時に、
広告を減らした分のお金を、
社員に配るというお話をされていましたよね。
それは、どういう考えが背景にあったんでしょうか。
田中
「Magnify Life」を作った2014年頃の話ですね。
それまでは、広告宣伝で売上を作るということを
戦略としておこなっていたんですが、
それが通用しなくなった時期がありました。
回復策をどう考えたかっていうと、
広告宣伝をやめて、テレビCMに使うお金を
すべての従業員に払ったんです。
糸井
はい。
田中
広告宣伝費で人を呼ぶことよりも、
スタッフによる説明やお客様からの納得度によって、
売上が上がったほうが健全だと思うんですよね。
お客様に「Magnify Life」を届けるためにも、
従業員がちゃんと理解してくれないといけません。
今まで以上に勉強もしてもらうし、
会社のことも理解してもらわなくちゃいけない。
だから、全員の給料に対して、
平均して10%近く底上げしたんです。
糸井
はぁー。
いかに広告費がかかっていたか、
ということでもあるよね。
田中
ただ、新卒の社員から給料を上げて、
年次で全員の給料が上がるわけです。
当時の人事のマネージャーからも
釘を刺されましたね。
「年間で15億から20億円上がって、
単年度ではなく、これからずっと上がりますよ」
ということを言われました。
糸井
たしかにそうですね。
田中
それでいいよ、と答えました。
そのくらいやって、
さらに儲かる会社じゃなかったら、
やっていても意味ないでしょう。
ということで、断行したんです。
糸井
「広告をやめて何をするんだ」という課題は、
今の時代、あらゆる会社が考えていますよね。
田中
そうですね。
糸井
広告費の代わりに、
人的サービスにコストをかけること決めたのは、
いい時期のような気がしますね。
もっと広告費をかけてからじゃ、
追いつかなかったでしょうね。
田中
そうですね。
糸井
今回の判断は危機感じゃなくて、
ある種、豊かさの中に緊張感がありますよね。
本当に「Magnify Life」という言葉が、
自分の中に身に染みたんですかね。
田中
そうですね。
(つづきます)
2017-12-30-SAT
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN