もくじ
第1回昼と夜の境目、夕焼け。 2016-06-02-Thu
第2回夕焼けピンクがくれるもの。 2016-06-02-Thu
第3回【番外編】空が好きだ。 2016-06-02-Thu

冬に生まれた、荒くれ者の飛行機乗りです。ジョージ・エリオットが好きすぎて、頭3文字をひっくり返して女性名のペンネームにしました。空飛ぶ詩人になりたい。うそです。

第3回 【番外編】空が好きだ。

こんな今日にも空はある。

月曜の朝、目が覚める。
慌てて満員電車に乗り込めば、かばんを持つ手がきしむ。
オフィスのカフェでコーヒーを飲み、
新聞を読めたら今日はまぁ合格でしょうと思うと、
遠くまで来てしまったような気がして、ちょっとさみしい。

メンバーの仕事をチェックしていると、スマホが震える。
朝10時以降はメールがやまない。
が、そのほとんどは私に関係がない。
打ち合わせのたび、都心の真新しいビルを往復する。
いつもちょっと遅刻しそうでちょっと慌てている。
横断歩道に差し掛かる。
あいにくの赤信号。無意識にむっとする。
思い出したように、空を見やる。

ビルの合間に真っ青で、高い、高い、空が広がっている。
その空の下には、私がいる。

空は続いている。

たとえば中学時代、給食のソフト麺を食べ終え、
中庭のつつじの花壇に腰掛けて友だちと談笑しつつ
「何だか平和で、何にもない一日。
いつかこんな日々さえも
懐かしく思い出すことがあるのかな」と空をみやった私。

たとえば高校時代、「こんないいお天気の日に何故、
教室の机に座っていないといけないのかしら」と
嫌気がさして飛び出してはみたものの、
特段なんのやる気も起きずに
屋上に座って、ただただ空を見上げていた私。

たとえば大学時代、舞台作りに夢中になって、
お金はなくても仲間はいて
「私、たった今ならこの瞬間に死んでもしあわせ、
でも未来の私はそこじゃまだ死ぬなって言うかな」
なんて思いながら、自転車で風に乗って、
青空めがけて坂道を走らせた私。

そんなたくさんの私がこの空の下に、今生きている気がする。
“好き”について、“空”について考えすぎた私は、
すこし混乱していたのかもしれない。

ふいにそんな心持ちになって、
ふふと笑いながら、横断歩道を渡った。
もっと彼女たちがすくすくと好きに生きていけますよう。
一番お姉さんの私は、今日もがんばっていきますか。

時間だって、距離だって、あっという間に超えていく。
ちょっとしたその時々の感情なんて、
空の果てしなさの前には、あっという間に吹き飛んでしまう。
そして、私に遠くから果てない力をくれる。

そんな風にいつも、見守ってくれている空が好きだ。

(おわります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました)