20xx年7月6日
天候、くもり時々雨
気温、31度
ワニに限らず、動物の行動を研究するときに
よーく気をつけないといけないことのひとつが、
「思い込みでものごとを解釈しない」こと。
動物の行動を人間の行動になぞらえて解釈することも、
ある種の思い込みです。
こうした思い込みは一見それらしく、
理解もしやすいので、
日常でもついやってしまいがちですが、
「理解しやすい」からといって、それが「正しい」
というわけではありません。
動物の行動を「正しく理解」したいなら、
「思い込み」に流されないよう、つねに注意する
必要があるのです。
……とはいえ、どんなに気をつけているつもりでも、
ひとは簡単に「思い込み」にとらわれてしまうもの。
ワニ子さんの行動観察中にも、
このことを痛感したできごとがありました。
動物園に通いはじめて数日がたち、
アツさにも観察にも慣れてきたころ、ワニ子さんが
「口を閉じた状態から、大きく開き、またすぐ閉じる」
という行動をしました。
それまで見たことのない行動ではありましたが、
前後になにかが起こったわけでもなく、
その行動自体なんてことないもののように思えたので、
わたしはノートに「あくび」と書き留め、
その後もいつもどおり観察をつづけました。
後日、調査の進みぐあいを報告する場で
この話をしたところ、研究指導の先生から
「それは本当にあくび?
ワニもヒトと同じように、あくびをするの?」
と、質問されました。
ここでわたしはハッとしました。
わたしは、「あくびのように見える行動」を
「あくび」だと「思い込んで」いたのだということに
気づかされたのです。
あの行動は、本当は「あくび」ではなく、
ワニ特有の「あご動かし体操(?)」だという
可能性だってあったのに。
なにより、
「思い込み」で安易に解釈してはいけないことを、
ちゃんと知っていたはずなのに。
ワニのあくびは、本当にあくびなのか。
こんな質問をされたことを、わたしはこの先ずっと
忘れないだろうと思います。
ところで、ワニのあくびについて
後日きちんと調べたところ、
どうやらワニもあくびをするそうです。
(もしあれが「あご動かし体操」だったら、
それはそれで、おもしろい研究になったかもなあ……)
〈つづきます〉