もくじ
第1回はじめに 2016-11-08-Tue
第2回ギターソロはとりとめもない考えを運ぶ 2016-11-08-Tue

21歳、学生。都内の大学で日本近現代文学を学ぶ傍ら、レンタルCDショップでのアルバイトに勤しむ日々を送っています。

僕の好きなもの</br>ギターソロ

僕の好きなもの
ギターソロ

担当・スガ カイタロウ

第2回 ギターソロはとりとめもない考えを運ぶ

僕、ギターソロが好きです。

それはなにも僕がギタリストで、スポットライトを
浴びてプレイする瞬間がたまらなく気持ちいいとか
そういう話ではなく(このページに使われている写真は
私物のギターだけれども白状するとほとんど弾けない
のです)、ただ単に聴いているだけでいいのです。
テクニックなんて一切気にしません。
僕がそのギターソロを好むか否かの基準は、
聴いている間に考え事が浮かぶか否かにあるのです。

良いギターソロであればあるほどその時思いもよらない、
とりとめのない考えが浮かびあがります。
これではなんのことやらさっぱり理解できないでしょうから、
ひとつ例を挙げてみましょう。

僕はある時期までビートルズの
「All You Need Is Love」の
1分20秒あたりにある短いギターソロを聴くと、
いなくなった人たちのことが頭をよぎっていました。

亡くなった祖父や
存命中に作品に触れることができなかった
けれども敬愛している作家やミュージシャン
といった死者たちに加え、
仲違いした友人やすったもんだがあった女の子といった
僕のもとを去っていった人たち、
あるいはライブ会場ないし野球場で隣り合わせて
ほんの少し会話を交わしただけの些細な人たちが
脈略なく登場する中、
「この人たちは今もどこかにいるんだ」
とぼんやり考えていたものです。

この考えの根底には
「ジョン・レノンはああいう亡くなり方を
 したけれども、彼のギターはこうして
 録音されて残り続けているのだ」
という僕の過剰なまでの感傷が
あるのは間違いありませんが、そうやって
とりとめのなさが理屈で説明できてしまっても
このギターソロを聴く度に彼らの顔は自然と
浮かんできたのです。

少し話が逸れますが、ビートルズには
「この曲は何年何月何日の録音の
 何テイク目と何テイク目を組み合わせてできている」
といった詳細なレコーディングデータが残っています。
こういうデータにとらわれ始めると面倒くさいファンに
なることは分かっているのですが、
細かな情報が嫌いではない僕はついつい
お気に入りの曲のデータを調べてしまうのです。

話は戻り、ふと思いついて
「All You Need Is Love」の
レコーディングデータを調べた時のこと、
件のギターソロはジョン・レノンではなく、
ジョージ・ハリソンが弾いていたものだと判明しました。
それからというもの、何度この曲を聴いても
ギターソロにさしかかったところで
何も思い浮かばなくなりました。

僕の中にいたジョン・レノンは、
そしてもう会うことのできないあの人たちは
一体どこへ行ってしまったのでしょうか。