「マツコの知らない世界」という番組がすきだ。
どんな番組かというと、マツコ・デラックスさん(以下:マツコさん)
が進行役をつとめていて、毎回かわるがわる登場するゲストが
自分のすきなものをマツコさん(そしてわたしたち視聴者)
に紹介するという、バラエティ番組である。
これ、わたしすきなんです。
すきな理由のうちの一つは、
番組を通して出会った「知らない世界」そのものに
たくさんのおもしろさがつまっているから。
番組内で持ちよられるすきなことは、
日常のすぐそばにあるけど、普段気に留めないままに
見過ごしてしまうようなものが多い。
これをすきな人がいるんだ!というおどろきから、
その世界における大事なこだわりまで。
ふむふむ、おー、すごい!と思いながら見ている。
例えば、手に取ったコンビニのパンひとつにも、
誰かの思いが詰まっているのだと知りながらする買い物は、
そうと知るまでの買い物より、ずっと楽しい。
番組を見るとそういう気持ちになれる。
知らない世界をテレビで覗いただけなのに、
私の世界もちょっと変わったみたいな気分になるのだ。
だがしかし、魅力はそれだけではない。
もうひとつ私はここがすきだ、と言いたいことがある。
それはありったけの好きを引っ提げて登場するゲストの皆さんだ。
この番組で、自分のすきなものを紹介する人は、
大半がいわゆる「シロウトさん」であり、
「これが好きで好きでたまらなくて、好きでいるうちに
なんかテレビにでちゃったーーーー!!!」
という人ばかりなのである。
これが、いい。
もう一度言いたいのだけど、すごくいいのだ。
ゲストの方の多くはテレビに出るための人生を歩んだひとではないので、
テレビ的なお作法というものもあまり通用しない。
まるで中学の同級生が街角インタビューされているのを
ニュースで見てしまったような緊張がそこにはあって、
序盤は(勝手に)不安になってしまう。
でも、そんな風にだれかを見ているきもちも、
すきなものの話になったとたんに、
どこかに飛んでいってしまう。
すきなものに対する熱量が、
体全体を通して発散されていくのが
テレビで見ていても十分に伝わるからだ。
顔が明るくなり、
目がきらきらして、
話に勢いがつく。
一目見ただけで、この人はこれが好きで好きでたまらないんだな、
ということがわかる。
番組を見るまで知らなかった人の、
いきいきとしたその姿に心が惹きつけられてしまう。
そうなると、私の心の方も(またもや勝手に)
距離が近づいて「いいぞ!いいぞ!」と応援してしまう。
テレビで見ただけなのに、これからもその人を応援したいな、
という思いにさせてくれる。
マツコの知らない世界は、
好きを追求してきた人の「好き」の部分が
これでもかというくらい詰まった番組だ。
ゲストが好きなその世界も、好きに至った人生そのものも、
大切にしたまま私たちに見せてくれる。
マツコさんも番組内で
その人のすきなものと、それをすきなその人のことに
距離を取ってみることはあっても、否定をしない。
これがきちんと守られているから、
誰かの好きが、おとしめられることもなく、嘲笑われることもなく、
電波に乗って、私のもとへとやってくる。
私の知らない、「好き」をぎゅっと詰めた1時間。
これが、出演者の方々と番組を作る方々に、
心の中で拍手をして1時間を終えることができる、
わたしのすきな番組だ。