- 主人
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電車の運転士になることが、
僕のこどものころからの夢でさ。
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- やっぱり、小さいころから鉄道が好きで運転士になる人は…
- 主人
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多いよね。
大体どこの鉄道会社も、入社後、駅員・車掌として
経験を積んで、運転士になるけれど、一人前の運転士に
なるまでおよそ1年半かかる。
鉄道の運転免許は、国家資格だからね。
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- その1年半の間は、どんな勉強をしているの…?
- 主人
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車両や信号、線路をはじめ、鉄道にまつわる
すべてのことを勉強する。
実際に運転するのは、ずっと先のことだよ。
自動車の免許にも、学科試験や技能試験があるように、
僕たち運転士もいくつもの試験をパスして、
はじめて電車の運転席に座る事ができる。
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はじめて電車を運転した日、
どんなことを感じたか覚えてる?
- 主人
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「緊張。」「感激。」もう本当にこれに尽きるよね。
手に汗を握るってこういうことかって思うくらい、
手のひらはびっちょりだったよ(笑)
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でも、手のひらがびっちょりになったその日が、
こどものころからの夢が叶った瞬間でもあるんだもんね。
- 主人
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すごく嬉しかったけど、その瞬間、自分の背中にかかる
大きな大きな責任…。
まさしく「重責」と向き合う日々がはじまった。
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運転士って、お客さんの大切な時間や命を
預かる仕事だもんね。
- 主人
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上司に言われたことばで印象に残っているものがあって。
「お前たちは、運転手じゃない。運転士だ。
運転士の士は、武士の士。命をかけて、
命を守らなければならない。」って。
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- うん。
- 主人
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「運転士」「運転手」の言葉の解釈はいろいろあるけれど、
僕たちは一度に何千人という数の乗客を乗せて電車を
走らせていて、その責任の大きさをいつでも胸に留めて
乗務に臨む必要があるんだってすごく考えさせられたな。
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電車は、毎日朝から晩まで走っていて、年末年始や
いわゆる休日も走っている。
出勤時間もさまざまだし、集中力を持続させなければ
いけないし、大変だよね。
- 主人
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出勤時間は朝5時台の日もあれば、
夜20時過ぎのこともあるし、
みんなで順番に担当を回しているからね。
だから、社会人になってから生活リズムが
整ったことなんて一度もないと思う。
あ。今までぜんぜん考えたことがなかったけど、
20年近く毎日不規則な生活だ…。
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- それを自分が毎日繰り返すと思ったら、すごく大変…。
- 主人
- 自分でもそれはすごいなって今話してて思った。
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何気なく普段電車を使っていると、
時間通りに電車がやってきて、当たり前に目的地に到着して。
「当たり前」の光景を「当たり前」に守り続けることの
裏側って、それこそ「当たり前」すぎてわたしたちの生活で
意識する機会、知ろうと思う機会が少ないよね。
- 主人
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遠くに出張に行くお客さんのために、朝3時すぎに起きて
冬はまだ暗い空の下でも、電車を走らせる。
夜遅くまで仕事を頑張った、友達と楽しい時間を過ごした
お客さんのために、深夜の1時過ぎまで電車を走らせる。
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そうだね。不規則だけど、鉄道はいつでも
人々の生活に寄り添う存在だもんね。
- 主人
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電車が走っていれば、お客さんは移動できるからね。
その「当たり前」の光景をやっぱり守っていきたいから。
終電が早かろうが遅かろうが、
担当する電車が1両だろうが15両だろうが、
運転士はみんなそう思って乗務しているんだと思う。
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- 守りたい…。
- 主人
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電車は動いた瞬間から、危険な瞬間がたくさんある。
でも、危険だと思った瞬間に電車を止めるのも自分。
危険を安全に変えられるのは、運転士である僕の目であり、
僕の手だから。
(つづきます。つぎは、
第3回、終点「カエルの置物」に停車いたします。)