- 主人
-
運転職場にカエルの置物があることが多いんだけど。
ほら、うちにもあるでしょ。(自宅のテレビの前を指さす)
- —
- ほんとだ。そういえば、ずっと置いてあるね。
- 主人
-
これは、「無事帰る(カエル)」という意味で。
運転士が職場に乗務を終えて帰ってくるということは…
- —
-
乗っているお客さんも無事に帰る。
つまり、目的地にお客さんが到着できるということ。
- 主人
-
そう。鉄道の歴史を振り返れば、
事故で命を落とした人、怪我をした人がいたことも事実。
だから、電車を走らせる人が無事に帰ってこれるように、
電車に乗ってくれる人たちが無事に帰れるように、
願いを込めてカエルの置物を
置く職場が昔からたくさんあった。
- —
-
「無事カエル」…。
だから、うちにもカエルの置物があるんだね。
- 主人
-
通勤時間帯、僕の後ろには3000人近いお客さんが乗っていて、
僕はその命を預かっている。
運転士になってすぐ、添乗していた師匠(指導担当)から
言われたことがあってね。
- —
- うん。
- 主人
-
カーブにさしかかったときに
「後ろを振り返ってみろ」って言われた。
振り返ったら、
10両編成の車両がずらっと連なっているのが見えて。
- —
- (じっと耳を傾ける)
- 主人
-
「お前の運転している列車には、
何千もの命が乗っているんだ」って
師匠に言われて、
「自分はとんでもない職責を担ってるんだ」って思った。
安全に勝るものなんてないんだって、心から思った。
僕は鉄道が好きなこどもだったけれど、
好きって気持ちだけでは勤まらないことがよくわかった。
僕たちは、プロだから。
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-
浅いことばになっちゃうけど、すごい仕事なんだね。
17年間電車を運転してきて、その気持ちは変わらない?
- 主人
-
変わらないし、その気持ちは捨てたらいけないと思ってる。
どんなに車両や設備が進化しても、動かすのは人間。
さいごは自分の腕を、自分自身を信じないといけないから。
僕にもここに大切な家族がいるけれど、
お客さんたち一人ひとりにも、その人の帰りを待っている
大切な家族がいる。
- —
- うん、そうだね。
- 主人
-
だから、僕たちは
どんなにベテラン運転士になったとしても、
年間に何十時間も訓練をして、日々勉強してる。
運転士って単調な仕事に見えるかもしれないけど、
日々、勉強・実践・振り返りの繰り返しだと思うんだ。
- —
-
何気なく普段電車に乗っているけど、
運転士の仕事ってすごく奥深いんだね。
- 主人
-
電車って、担当する線区にもよるけれど
たくさんの運転士が代わる代わる担当していて。
駅に停まっている間、乗客の人たちが知らないうちに、
運転士が交替することって多々あるだけど。
- —
- リレー形式で始発から終電まで運転しているんだもんね。
- 主人
-
運転士が交替するときに、乗ってきた車両や運転状況とかを
引き継ぐために交わす「異常なし」っていうことばは、
すごく重たいと僕は思っていて。
- —
- 重たい…?
- 主人
-
電車を安全に走らせることって、
簡単なようで簡単じゃない。
電車は絶対に一人で走らせることはできない。
駅で働く人がいて、車両や線路を整備する人がいて、
汚れた車両を綺麗に掃除してくれる人がいて。
僕らとともに乗務する車掌がいて。
そして、乗っているお客さんの協力もあって
毎日電車は走っている。
- —
- そうだね。たしかにそうだ。
- 主人
-
安全に運転することは僕たち運転士の使命だし、
何にも代えられないものだから。
だから、「異常なし」の言葉の重みを
毎回噛みしめている。
- —
-
泊まりの仕事が終わって、
帰ってきたらぐったりしているはずだよね。
でも、運転士の妻としても、一人の乗客としても、
運転士の見ているものを知れて、すごく新鮮だったな。
- 主人
- 普段なかなかこんな話する機会ないからね(笑)
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-
これからも、無事に帰ってきてくれるのを待っているね。
家族のためにも、お客さんのためにも。
- 主人
- そうだね。明日も乗務がんばるよ。
- —
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では、さいごに、
このインタビューを読んでくださった皆さまに対して、
この機会になにかお伝えしたいことがあれば…
- 主人
-
僕たちは皆さんを安全に目的地までお運びできるように
努めますので、ぜひ時間に余裕をもって、
そして安心して電車でお出かけくださいね。
(終点に到着です。ご乗車誠にありがとうございました。)