もくじ
第1回人を自由にはできない。 2017-10-17-Tue
第2回消費されている気分。 2017-10-17-Tue
第3回そこにいて良し! 2017-10-17-Tue
第4回憧れの人の、普通な話。 2017-10-17-Tue
第5回喜んでもらうのは力仕事。 2017-10-17-Tue

1987年生まれ、
30歳の男です。
東京の西側で育ち、
いまは東京湾の近くに住んでいます。

喜んでもらうのは力仕事。

喜んでもらうのは力仕事。

担当・金沢俊吾

第2回 消費されている気分。

糸井
そういう生きづらい人が、
本が出てからの数ヶ月を過ごすのは大変だったね。
でも、このあいだの銀座ロフトの対談は、ラクだったでしょ?
燃え殻
すごくラクでしたね。
マイクの前で話すのって、
「何か気の利いたことを言わないといけないんだ」
って思ってて、それが今までイヤだったんです。
気の利いたことなんて思いつかないから。
糸井
うん、よくわかります。
でも、対談は、
相手がなんとかしてくれることが大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないからね。
燃え殻
ああ、そうですねえ。
糸井
例えば、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒ついてるよ」って言って、助けてもらえるじゃない。
燃え殻
先日の銀座ロフトのとき、
糸井さん、「10分前に来てくれ」って言ったじゃないですか。
糸井
うんうん。
燃え殻
事前の打ち合わせも何もなく。
ドーンと行こう、って。
糸井
「これだけは伝えなきゃ!」
みたいなことは1つもないからね。
ただただ、「会って話そう」だよ(笑)。
燃え殻
ああ、そうか。
糸井
「これだけは言ってくださいね」みたいなことがあると、
ぼくはできなくなっちゃうんです。
それはもう、きまった仕事になっちゃうから。

燃え殻
このあいだ、テレビに出たんです。
そうしたら、1つだけ、
「途中でこれを言ってください」って質問があったんです。
「あとは自由でいいんで、これだけは言ってくださいね」
って言われて。
糸井
うん、あるある。大変だよね。
燃え殻
それがすごく気になっちゃって。
ずっと、その質問のことを考えてるんですよ。
糸井
ぼくも、まったく同じだよ。
燃え殻
それが1個入ることによって、
全部ダメになっちゃうんです。
糸井
わかる。もう、まったくそう。
燃え殻
「自由にやってください。こっちが全部質問しますから。
でも、それだけはお願いしますね。きっかけは出します」
って。
もう、そのきっかけ、ずーっと探してました(笑)。
糸井
テレビは今、そればっかりになったよね。
台本で用意されたことを、いま考えついたかのように進める。
っていうのが、ほとんどじゃないかな。
それは、確実に望んだ通りの面白さにはなるわけですよ。
でも、そのおかげで失っているものがある気がして、
なんか慣れないんですよね。

燃え殻
もうひとつ思い出したんですけど。
このまえ受けた取材で、
質問のシートが事前に送られてきたんだけど
そこにぼくの答えが、もうすでに書いてあったんです。
糸井
はいはい。
燃え殻
「違うこと言ってもいいけど、一応答えは用意してきました」
って言われて。
そこには、
「スマホで書いたことによって、
スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」
って書いてあったんです。
糸井
ああ‥‥。
燃え殻
それで、「はい、わかりました」って答えるんだけど、
いざ取材が始まると、それがやっぱり‥‥。
糸井
引っかかる?
燃え殻
引っかかる自分がいて。
スマホで書いていたのは、
単純に、ワードが使えない仕事の移動中とかに書くのに
効率がよかったからなんですよね。
糸井
うんうん、実際はそんなもんだよね。
燃え殻
そうなんですよ。
だけど、日比谷線の描写が出てくる小説なので、
日比谷線の中で書いてるってエピソードは
たしかに都合がいいんです。
それで結局、
「スマホ世代の人たちを意識した、スマホで書いているぼく」
っていうフレーバーを入れてる自分がいて。
糸井
また雰囲気をキープしちゃったんだ(笑)。
燃え殻
そうですね(笑)。
用意された答えに、うっすらと沿わせたんですよ。
それで、出来上がってきたものを見たら、
そこが太字になって強調されていました。

糸井
他人が言っていたら、
「ええ、ほんとかよ?」って思うようなことを
自分が言わなきゃいけないんだよね。
燃え殻
そうそう。
糸井
ぼく、昔出たテレビ番組で
「原宿のことだったら、
ぼくは何でも糸井ちゃんに聞くんだよ」
みたいに司会の人に言われたことがあって。
「それは違う」って思ったんだけど、
もうヘラヘラするしかなかったんだよね。
それから、そういう番組は行かないことにしようと思った。
燃え殻
ご意見番に仕立て上げられたんだ。
糸井
若いってだけで、
流行とか若者の生態に詳しいって思われるのは
もっと若い人が出てきたら追い抜かれるだけだから。
そんなところで消費されたくないと思ったんですよね。
燃え殻
消費されたくないですよね。
ぼくも「スマホ世代の作家」みたいに言われると、
なんだか消費されているような気分になるんです。

(つづきます。)

第3回 そこにいて良し!