- 糸井
- そういう生きづらい人が、
本が出てからの数ヶ月を過ごすのは大変だったね。
でも、このあいだの銀座ロフトの対談は、ラクだったでしょ?
- 燃え殻
- すごくラクでしたね。
マイクの前で話すのって、
「何か気の利いたことを言わないといけないんだ」
って思ってて、それが今までイヤだったんです。
気の利いたことなんて思いつかないから。
- 糸井
- うん、よくわかります。
でも、対談は、
相手がなんとかしてくれることが大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないからね。
- 燃え殻
- ああ、そうですねえ。
- 糸井
- 例えば、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒ついてるよ」って言って、助けてもらえるじゃない。
- 燃え殻
- 先日の銀座ロフトのとき、
糸井さん、「10分前に来てくれ」って言ったじゃないですか。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
- 事前の打ち合わせも何もなく。
ドーンと行こう、って。
- 糸井
- 「これだけは伝えなきゃ!」
みたいなことは1つもないからね。
ただただ、「会って話そう」だよ(笑)。
- 燃え殻
- ああ、そうか。
- 糸井
- 「これだけは言ってくださいね」みたいなことがあると、
ぼくはできなくなっちゃうんです。
それはもう、きまった仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
- このあいだ、テレビに出たんです。
そうしたら、1つだけ、
「途中でこれを言ってください」って質問があったんです。
「あとは自由でいいんで、これだけは言ってくださいね」
って言われて。
- 糸井
- うん、あるある。大変だよね。
- 燃え殻
- それがすごく気になっちゃって。
ずっと、その質問のことを考えてるんですよ。
- 糸井
- ぼくも、まったく同じだよ。
- 燃え殻
- それが1個入ることによって、
全部ダメになっちゃうんです。
- 糸井
- わかる。もう、まったくそう。
- 燃え殻
- 「自由にやってください。こっちが全部質問しますから。
でも、それだけはお願いしますね。きっかけは出します」
って。
もう、そのきっかけ、ずーっと探してました(笑)。
- 糸井
- テレビは今、そればっかりになったよね。
台本で用意されたことを、いま考えついたかのように進める。
っていうのが、ほとんどじゃないかな。
それは、確実に望んだ通りの面白さにはなるわけですよ。
でも、そのおかげで失っているものがある気がして、
なんか慣れないんですよね。
- 燃え殻
- もうひとつ思い出したんですけど。
このまえ受けた取材で、
質問のシートが事前に送られてきたんだけど
そこにぼくの答えが、もうすでに書いてあったんです。
- 糸井
- はいはい。
- 燃え殻
- 「違うこと言ってもいいけど、一応答えは用意してきました」
って言われて。
そこには、
「スマホで書いたことによって、
スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」
って書いてあったんです。
- 糸井
- ああ‥‥。
- 燃え殻
- それで、「はい、わかりました」って答えるんだけど、
いざ取材が始まると、それがやっぱり‥‥。
- 糸井
- 引っかかる?
- 燃え殻
- 引っかかる自分がいて。
スマホで書いていたのは、
単純に、ワードが使えない仕事の移動中とかに書くのに
効率がよかったからなんですよね。
- 糸井
- うんうん、実際はそんなもんだよね。
- 燃え殻
- そうなんですよ。
だけど、日比谷線の描写が出てくる小説なので、
日比谷線の中で書いてるってエピソードは
たしかに都合がいいんです。
それで結局、
「スマホ世代の人たちを意識した、スマホで書いているぼく」
っていうフレーバーを入れてる自分がいて。
- 糸井
- また雰囲気をキープしちゃったんだ(笑)。
- 燃え殻
- そうですね(笑)。
用意された答えに、うっすらと沿わせたんですよ。
それで、出来上がってきたものを見たら、
そこが太字になって強調されていました。
- 糸井
- 他人が言っていたら、
「ええ、ほんとかよ?」って思うようなことを
自分が言わなきゃいけないんだよね。
- 燃え殻
- そうそう。
- 糸井
- ぼく、昔出たテレビ番組で
「原宿のことだったら、
ぼくは何でも糸井ちゃんに聞くんだよ」
みたいに司会の人に言われたことがあって。
「それは違う」って思ったんだけど、
もうヘラヘラするしかなかったんだよね。
それから、そういう番組は行かないことにしようと思った。
- 燃え殻
- ご意見番に仕立て上げられたんだ。
- 糸井
- 若いってだけで、
流行とか若者の生態に詳しいって思われるのは
もっと若い人が出てきたら追い抜かれるだけだから。
そんなところで消費されたくないと思ったんですよね。
- 燃え殻
- 消費されたくないですよね。
ぼくも「スマホ世代の作家」みたいに言われると、
なんだか消費されているような気分になるんです。
(つづきます。)