- 燃え殻
-
今まで人前に出るということをやってこなくて、
どこかで自分に何かが欠けていると思ってたんですよ。
憧れもあったんですが、
そういうことが普通にできるようになりたいなって。
- 糸井
- ええ。
- 燃え殻
-
新人レスラーが8試合連続で先輩と対戦するみたいな
夏のカーニバルをやってるつもりなんです。
- 糸井
-
ああ、そうね。
自分の練習としてやってるのかもしれないね。
- 燃え殻
-
もともと人前で話すことが苦手だったんです。
僕はプレゼンするようなサラリーマンと違って、
こもって作業することが多いから、
これはいい機会だと思ってやってみることにしたんです。
- 糸井
- 話すことが苦手かどうかで言えば、僕も同じです。
- 燃え殻
- そうなんですか?
- 糸井
-
うん。毎週社内ミーティングがあって、
ひとりでしゃべりまくってるけど、
得意かどうかと聞かれたら、得意じゃない。苦手だね。
それは、社長になったからだと思うんだけど、
社員との風通しを良くして、少しずつ慣れてきたんだと思う。
- 燃え殻
- それを毎週やってて、当日の朝は緊張するんですか?
- 糸井
-
緊張はしないけど、そのときに永ちゃんが出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、「楽しめ」って僕に声をかけるんです。
- 燃え殻
-
糸井さんは心の中に永ちゃんを飼ってる?
- 糸井
-
飼ってる。明らかに僕の心の中に永ちゃんがいる。
永ちゃんが「俺もステージの前はドキドキする」って話を
真面目に語ってくれるわけよ。
- 燃え殻
- へえ。
- 糸井
-
「そんなの当たり前だよ」みたいな感じで。
ステージの前日、洗面所の鏡に向かって
「おまえならできる」って言い聞かせるんだって。
それを聞いて、永ちゃんはウソついてないなって思ったの。
- 燃え殻
- ええ。
- 糸井
-
いざ始まるときはまた別で、
負けねえぞと思わないといけないから
鏡に向かって「おまえならやれる」って。
始まったら「がんばれ、矢沢。よくやってるよ」とか、
終わったら「よくやったよ、永ちゃん」みたいに。
- 燃え殻
- 語りかける。
- 糸井
-
うん。そしたら今度は、勝ち負けじゃなくて
「楽しめ」って言うようになったんだよ。
観客は多いときだと8万人ぐらいいるわけじゃない。
そのときに出てきた「楽しめ」って言葉は、
勝ち負けも失敗も成功も関係なく、
楽しみにしている人と自分とが
楽しめばいいんだって思えた。
- 燃え殻
- そうかもしれない。
- 糸井
-
「楽しめ」を覚えてたおかげで、どれだけしのいだか。
自分のやることとしてどうしたいんだというのを
問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
「こんなコンサート、誰がやるって言ったんだよ。
俺だよ。嫌ならやめればいいじゃないか。
何でやるんだよ。自分が楽しいからだろ?
うれしいんだろ? じゃあ楽しもうよ」というような
順番に問いかけますね。
べつに嫌だと言っている場面でなくても、より楽しむ。
- 燃え殻
- もっと楽しめばいい。
- 糸井
-
そうそう。いつも楽しむなんて難しいと思う人にも、
「楽しめ」っていう選択肢があることを
覚えておくだけで変われると思うな。
(つづきます)