もくじ
第1回これからもずっと、見守って 2019-02-26-Tue
第2回別々で、同じ空を見上げてる 2019-02-26-Tue
第3回自分が、自分であるために 2019-02-26-Tue
第4回見上げたら、そこにあるから 2019-02-26-Tue
第5回そこにはいつも、たからもの 2019-02-26-Tue

フリーランスのライター・編集者。ひとの人生に触れるインタビューが好き。琵琶湖の近くと生まれ育った首都圏、二つの拠点を行ったり来たり。

わたしの好きなもの</br>「空」

わたしの好きなもの
「空」

担当・菊池百合子

第2回 別々で、同じ空を見上げてる

空があるから。
誰の上にも同じように、空が広がっているから。
今は一緒になくても、しばらく会えなくても、
いつかまた、きっと会えるんじゃないかな。
    
    
果たして、いつから会っていないんだろう。
もう「げんき?」って聞いていい段階なのかな。

ずっと前から「この仕事をやってみたい」って
聞かせてくれた職業に念願叶って就いたあなたが、
身体を壊してしまったと知って、
思わず空を見上げました。

空を見上げると、あなたのことを思い出すよ。
そりゃあいつもじゃないし、
いつもだったら深刻だと思うけれど、
でもやっぱり、あなたと過ごした時間も
楽しくてとうといものだったのだなあって
たまに思い返すの。

だってさ、たくさん一緒に空を見上げたあなたに
今連絡する勇気はないんだもん。
だからこうやって、空に向かって手紙を書きます。

身勝手でも自己満足でもなんでもよくて、
空にはこうやって信頼して言葉を託せるから
すごくありがたいんだ。

中学高校と天文部に入っていたわたしは
昼だけでなく夜も空を見上げることが大好きになった。
あなたはよく、わたしが見ている星を
一緒に見ようとしてくれていたよね。
星を見るためだけに、
めがねを持ってきてくれていなかったっけ。

それでもあなたは見つけられなくて、
わたしが指差す方向を見上げては、
「わからないなあ」って笑ってた。

海の前で星を見ていたから、寒い風が吹き付けている日が
多かったよね。しかもわたしが星を見上げたがるの、冬だし。
それでも一緒に星を結ぼうとしてくれて、ありがとう。

あなたのおかげで、大切なひとと横に並んで
夜空を見上げるまばゆさを知ったんだと思う。
部活で覚えたことをあなたに話すのは楽しかった。

あの頃からもうずいぶん時間が経って、
たくさんの大切なひとたちと星を結んだよ。
どんな名前のつく関係であっても、
わたしは誰かと一緒に星を結んだその夜を
あまり忘れないみたい。

楽しくって、とうとくって、たからものだから。
そのスタート地点はあなただったんだなあって
今振り返ってみて初めて気づいたよ。

「離れていても、同じ空の下にいる」みたいな言葉って
世の中にいっぱいあるけれど、
でもやっぱり、本当にそうなんだなあと思うんだ。
地球の上で生きている以上、
そうとしか言いようがないじゃない?

だからね、淡い願いなのかもしれないけれど、
星がまたたく夜空をひとりでぼーっと眺めていて
あなたもどこかで同じ空を見上げる瞬間がある気がして。

もはや、見上げていなくてもいい。
わたしが見上げている空が、あなたの上にも広がっているの。
空からは、地上でバラバラに、
毎日を必死に生きているわたしたちが見えるの。
それってさ、今はどんなに離れていたとしてもさ、
とうとくって希望じゃない?

最後に会ったときかな。
わたしが決意を持ってあなたに会いに行ったとき、
あなたは涙をこぼしながら
「なんでそんなに強いの?」ってわたしに聞いたよね。
今でもおんなじこと聞くかなあ。

そのときは「強くなんてないよ」って言いながら
背中をさすったような気がするけれど、
やっぱり強くなんてないよ。強がっていただけ。

でもね、今ならわかる。
強がりでもなんでもなくって、
この空があなたとわたしの上に広がっているから、
ぜったい会えない、なんてことないんだよ。
ずーっと遠くにいても、今は会えないと思っていても、
いつか「会いたい」を叶えられるよ。

また一緒にさ、海の前でさむい風に吹かれながら
星を結べるかなあ。
そのときはさ、かつてのあなたとわたしが過ごした頃のことを
たまに笑ったりたまに涙ぐんだりしながら思い出話して、
あの時間たちをいい思い出として
それぞれの腕にぎゅって抱きしめたいよね。

で、「たのしかったね」「これからもよろしくね」って
あの日からお互いに始まった別々の道を
さっぱりと祝福したいよね。
近況報告もしてみたいなあと思って。
あ、わたしだけだったら、それはそれでいいや。

とにかくね、後から思い返せば思い返すほど
あなたの支えでなんとか歩いていられたことはたしかで、
あの頃の今よりも幼くて強がりなわたしは
ちゃんとそのお礼をあなたに伝えられていたのか
自信がないのだけれど。
今はまだ、会って直接伝えるなんて難しいなあと思うから、
だから空に向かって伝えさせてください。

いっぱい一緒に空を見上げてくれて、
あの頃のわたしを守ってくれて、ありがとう。
そしてできれば、今日もすこやかに
過ごしていられたらいいなって思ってるよ。

だって、わたしの人生の一部をさ、
ちゃっかりあなたが構成しているわけでしょう。
だからエゴでもなんでも、ちゃんと生きていてほしいと思うし、
あなたが元気でいたら、わたしはうれしい。

またいつか、その日が来たら。

第3回 自分が、自分であるために