もくじ
第1回批評しない、ツッコミすぎない 2019-02-05-Tue
第2回「才能」を目の当たりにした、あの頃 2019-02-05-Tue
第3回笑いの世界と解像度 2019-02-05-Tue
第4回ボスであり続けるという責任 2019-02-05-Tue
第5回「運悪くないし」と楽観的に生きる 2019-02-05-Tue

旅行が趣味。美術館めぐりに興味がある今日このごろです。

共感から生まれる、笑いをつくる

共感から生まれる、笑いをつくる

担当・平塚 朱里

30年来の知り合いである清水ミチコさんと糸井重里。今回の対談では、これまで意外と話したことのなかったテーマで、糸井が清水さんに、たっぷりお話を伺うつもりでした。けれども始まってみると、「逆に、インタビューされている(笑)」と、糸井が思わず漏らしてしまう展開に。予定通りかどうかはさておき、話はどんどん広がります。全5回、2人の対談、始まります!

プロフィール
清水ミチコさんのプロフィール

第1回 批評しない、ツッコミすぎない

糸井
ぼくは、清水さんのステージを見ている歴が30年くらい。
ものすごく長いからね。
清水
渋谷にあったライブハウス
「ジァン・ジァン」のときからだもんね。
原宿の小さいところにも、糸井さんは来てくれて。
糸井
行ったよね。娘を連れて行くことが多くて。
清水
そうだ。小学生くらいの頃に来てくれた。
糸井
そうそう。
清水
そして今は、糸井さんは社長になって。
ほぼ日も、もう70人になったって?
糸井
社員は70数名。
清水
じゃあバイト入れるともっと?100人になるってこと?
糸井
そうだね、100人以上。今度、社員旅行に行くんだけれど。
清水
100人でどうやるの? 幹事大変ですね。
糸井
そういうの、うちはなんとかなるの。
だって旅の栞とか、
もう1冊の単行本みたいになっているらしいよ。
清水
えー(笑)。
糸井
本当に(笑)。
仕事をする労力と同じものを遊びにかけるから、
だから、逆にいうと仕事の練習にもなる。
清水
そういうものですかね‥‥?
糸井
うんうん。だって、清水さんも、
テレビで瀬戸内寂聴さんが何か言ったのを見ていて、
「これ、いいなあ」と思ったりしている。
仕事か遊びかわかんないでしょう?
  
これ、いけるなあと(笑)。
清水
おいしいなあと(笑)。
糸井
そう、おいしいなって、食べているわけだから(笑)。
多分、うちの社員旅行も、同じようなことなんで。
糸井
今日の対談は、決まりがあるわけじゃないんだけれど。
ぼくは、清水さんとは、
言ったり聞いたりをしてみたかったのよ。
清水
うん。
糸井
アッコちゃん(矢野顕子さん)とは案外ね、
しゃべったことあるんだよ。
  
たとえば、一緒に気仙沼から帰ってくるときとか。
うちのマネージャーは、ぼくが寝ちゃうのを知っていて、
いつも前後で座席を予約してくれるから、隣は空いているの。
アッコちゃんは寝ない人らしくて、
その空いている席に「ちょっといい?」って言って来る。
清水
へえ。
糸井
そんなときに、「あの本読んだ」みたいなことだとか。
あるいは、戦略とはちょっと違うんだけれど、
「同じことやっているとつまんないから、
こういうこと考えている」だとか。
 
ビジネスというよりは事業家として発想していることが、
やっぱりあるよね。
ビジネスって言うと、なんか誤解されるんだけどね。
清水
うん、お金儲けじゃなくてね。
糸井
そう。たとえば、サッカーをやっている人が、
サッカー界をどうしていくかって考えるじゃない。
ほかにも、このチームをどう立て直すかとか。
そんなことが、アッコちゃんの中でも、ずいぶんあるんだよね。
清水
へえー。
糸井
みんなはこのぐらいに思っているだろうけど、
そんなものじゃ矢野顕子はつくられないよ
ってことがよくわかる。
清水
意外ってほどではないかもしれないけれど、
矢野さんは『天城越え』みたいなものは、
絶対、やらないもんね。
糸井
やんないですね。
清水
自分の世界じゃないものはね、上手に身を離すというか。
糸井
そうだね。ボルネオのジャングルに入ったときに、サルに、
「ここまでは近づける」っていうことや、
「こういうことしちゃいけませんよ」みたいなことは、
しないよね。
清水
たとえが野性的過ぎて(笑)。
糸井
サルに向かってウィ~ウィ~! みたいなのはやらない(笑)。
ムカデに刺されたらこうしましょう、
みたいなことはやっていますよね。
糸井
で、そんな人生の深淵みたいな話をしていない典型の人が
清水ミチコさんで。言ったり聞いたりしたいなと。
清水さんは大学の勉強はしたの? 
清水
うん。でも、家政科だから。
うちの田舎って短大とか大学行く以上は、
教師免状を取るのが当たり前みたいな常識があったの。
だから、それを取るまでは、ちゃんと勉強しましたね。
糸井
そういう勉強、へっちゃらなんだ。
清水
へっちゃらってことはないですけど。
でも、料理は好きだし、面白かった。
糸井
つまり、ドロップアウトをしてないんですよね。
清水
うん、してないです。親に心配かけるようなことはしてない。
糸井
なのに、やっていることは、ずーっと‥‥(笑)。
清水
もう、とにかくうちの両親は、
森山良子さんの「ざわわ」をやめろやめろって(笑)。
糸井
あはは。
清水
「まあまあ、もう今年でやめますから」って言って、
30年もやっている(笑)。
糸井
森山良子さんを見ているとき、
清水ミチコを思い浮かべるように‥‥
清水
なっちゃうじゃないか(笑)。
糸井
ちゃんといい子だったんですか。
清水
私は、いい子でもなく悪い子でもなく、
パッとしないような子だったかな。
糸井さんが責任編集者だった『ヘンタイよいこ新聞』とか、
そういうものを高校のときに読んだり、
『オールナイトニッポン』を聞いたりとかして。
だんだんそういうお笑いの世界みたいなものを知って‥‥
糸井
パッとしていったわけ?
清水
自分の中ではね、パッとしていった。
でも、ほかの人はみんな恋愛をしている中で、
自分だけが雑誌の『ビックリハウス』に載ったとか、
ラジオで投稿読まれたとか、
幸せの度合いがちょっと違う感じだった。
糸井
だけど、ラジオで選ばれたり、
『ビックリハウス』に載ったりするのって、
実はけっこう難しいことで。
清水
そうかな。
糸井
うん。今、やれよと言われても、ぼくは載る自信はないよ。
清水
本当ですか?
糸井
うん。
清水
へぇー。
糸井
清水さんはそれができちゃったわけでしょう?
清水
そんなことばっかり考えていたからね、青春時代ずっと(笑)。
糸井
ぼくはね、お笑いが絡むようなものはできなくて。
ポエムを読んで、チョコレートをくれるみたいな
番組があったんだよ。それで、誰かが当選したって聞いて、
俺もやってみようと思ってやったら、もらえたことがあった。
   
でも、『ビックリハウス』みたいなことは、
ぼくは無理だったと思う。
お笑いじゃない人だったから。ぼくは二の線だった。
清水
二の線って、自分で言った。
そして、周りの社員が笑っている(笑)。
糸井
おかしいなあ、話を戻そうかな(笑)。
え、じゃあ考えれば、今もできるの?
清水
今はもう、無理かもしれないですね。
そういう試されるときがないから。
もう思いついたら、ライブのネタにしているっていうか。
そういうふうになっちゃった。
糸井
昔、『ひとりごっつ』っていう番組で、
「第1回お笑い共通一次試験」って企画があって。
共通一次みたいな形式の、
面白いことのテストを作ったことがあったんですよね。
  
で、なんでか覚えてないけれど、
ぼくもそれをやったんだけど‥‥
ちっとも面白くないの、自分が。
清水
へぇー。
糸井
なかでも、もうはっきり覚えているんだけど、
「一般的に、一番濃い鉛筆は6Bですが、
この鉛筆を6Bよりもっと上にしてください。」
っていう設問があった。
つまり一番濃い鉛筆を超える濃い鉛筆は何ですかって。
清水
いい設問ですね。
糸井
で‥‥
清水
何て書いた?
糸井
「できないよ、俺、できないよ」みたいになっているわけ。
そうしたら、松本人志さんの講評で出てきた解答が、「鬼B」。
清水
あははは。悔しい(笑)。
糸井
悔しいだろ?(笑)
清水
なんか悔しい(笑)。
でも、バカリズムさんが
「謎かけができない、人の気持ちがわからない」って言っていたけど、
ああいうのって、きっと個性があるんでしょうね。
糸井
『IPPONグランプリ』みたいな番組があるじゃないですか。
あれも、めちゃくちゃ面白いじゃないですか(笑)。
清水さん、もしゲストで呼ばれたらどうですか。
写真で一言みたいな。
清水
いや、全然無理、全然無理です。
糸井
え、清水さんはできないですか。
清水
できない。私はやっぱり耳で聞いて‥‥
糸井
あ、お金くれって(笑)。
清水
やめなさい。金にならないことはやんないです!
‥‥じゃないです(笑)。
糸井
もしかしたら、金になんないとダメなのかなって、
ちょっと思った(笑)。
清水
あはは、関係あるのかな。
ユーミンさんの「ギャラが出ないところでは
オーラは出しません」っていう名言があるけど。
糸井
ああ‥‥なるほどね。それ生活人として必要だからね。
清水
そうそうそう、大事なことかも。
糸井
じゃ、清水さんのあの面白がらせるのは、何て言うんだろう。
清水
私は、耳で聞いたことを自分なりに
「こういうふうに感じました」っていうことを提出している。
糸井
今日清水さんに会うんだと思ったら、何か一つぐらい自分で、
「これを思ったんだよね」ってこと言いたいなと思って。
それで発見したのが、清水さんは
「『私はこう感じています』っていうことをしているんだね」
ってことだったの。
清水
あ、本当? 当たってます(笑)。
糸井
ねえ。
で、なぜそういうことを考えたかというと、
清水さんって全然批評してないんだよ。
清水
あ、うれしい。
糸井
つまり、良いだの悪いだの何も言ってなくて、
「あなたのこと、私はこう感じていますよ」
っていうのを見せている。
清水
そうかも。
糸井
たとえば、ある芸能人がいて、
まあ、概ね強気なことを言っているっていうのは
みんなが感じている。それを、
「あなたのこと、すごく強気なことを言っている人として、
面白いなあと思って見ちゃっていますよ」
っていうふうに見せている。
通信販売をする瀬戸内寂聴さんとかあるじゃないですか。
清水
はい(笑)。
糸井
瀬戸内寂聴さんは、あのとおりにしていないんだけれど、
私にはそう見えていますよっていうだけでしょう?
清水
うん、そうですね。
糸井
そうするとお客さんが、
「そう見えている、そう見えている」って(笑)。
清水
「あるある」って(笑)。
きっと、お客さまには、共感の人が多いでしょうね。
糸井
共感ですよね。ツッコみ過ぎないじゃないですか。
立ち直れないようなことしないじゃないですか。
清水
そうかも(笑)
第2回 「才能」を目の当たりにした、あの頃