- 糸井
- ぼくは、清水さんのステージを見ている歴が30年くらい。
ものすごく長いからね。
- 清水
- 渋谷にあったライブハウス
「ジァン・ジァン」のときからだもんね。
原宿の小さいところにも、糸井さんは来てくれて。
- 糸井
- 行ったよね。娘を連れて行くことが多くて。
- 清水
- そうだ。小学生くらいの頃に来てくれた。
- 糸井
- そうそう。
- 清水
- そして今は、糸井さんは社長になって。
ほぼ日も、もう70人になったって?
- 糸井
- 社員は70数名。
- 清水
- じゃあバイト入れるともっと?100人になるってこと?
- 糸井
- そうだね、100人以上。今度、社員旅行に行くんだけれど。
- 清水
- 100人でどうやるの? 幹事大変ですね。
- 糸井
- そういうの、うちはなんとかなるの。
だって旅の栞とか、
もう1冊の単行本みたいになっているらしいよ。
- 清水
- えー(笑)。
- 糸井
- 本当に(笑)。
仕事をする労力と同じものを遊びにかけるから、
だから、逆にいうと仕事の練習にもなる。
- 清水
- そういうものですかね‥‥?
- 糸井
- うんうん。だって、清水さんも、
テレビで瀬戸内寂聴さんが何か言ったのを見ていて、
「これ、いいなあ」と思ったりしている。
仕事か遊びかわかんないでしょう?
これ、いけるなあと(笑)。
- 清水
- おいしいなあと(笑)。
- 糸井
- そう、おいしいなって、食べているわけだから(笑)。
多分、うちの社員旅行も、同じようなことなんで。
- 糸井
- 今日の対談は、決まりがあるわけじゃないんだけれど。
ぼくは、清水さんとは、
言ったり聞いたりをしてみたかったのよ。
- 清水
- うん。
- 糸井
- アッコちゃん(矢野顕子さん)とは案外ね、
しゃべったことあるんだよ。
たとえば、一緒に気仙沼から帰ってくるときとか。
うちのマネージャーは、ぼくが寝ちゃうのを知っていて、
いつも前後で座席を予約してくれるから、隣は空いているの。
アッコちゃんは寝ない人らしくて、
その空いている席に「ちょっといい?」って言って来る。
- 清水
- へえ。
- 糸井
- そんなときに、「あの本読んだ」みたいなことだとか。
あるいは、戦略とはちょっと違うんだけれど、
「同じことやっているとつまんないから、
こういうこと考えている」だとか。
ビジネスというよりは事業家として発想していることが、
やっぱりあるよね。
ビジネスって言うと、なんか誤解されるんだけどね。
- 清水
- うん、お金儲けじゃなくてね。
- 糸井
- そう。たとえば、サッカーをやっている人が、
サッカー界をどうしていくかって考えるじゃない。
ほかにも、このチームをどう立て直すかとか。
そんなことが、アッコちゃんの中でも、ずいぶんあるんだよね。
- 清水
- へえー。
- 糸井
- みんなはこのぐらいに思っているだろうけど、
そんなものじゃ矢野顕子はつくられないよ
ってことがよくわかる。
- 清水
- 意外ってほどではないかもしれないけれど、
矢野さんは『天城越え』みたいなものは、
絶対、やらないもんね。
- 糸井
- やんないですね。
- 清水
- 自分の世界じゃないものはね、上手に身を離すというか。
- 糸井
- そうだね。ボルネオのジャングルに入ったときに、サルに、
「ここまでは近づける」っていうことや、
「こういうことしちゃいけませんよ」みたいなことは、
しないよね。
- 清水
- たとえが野性的過ぎて(笑)。
- 糸井
- サルに向かってウィ~ウィ~! みたいなのはやらない(笑)。
ムカデに刺されたらこうしましょう、
みたいなことはやっていますよね。
- 糸井
- で、そんな人生の深淵みたいな話をしていない典型の人が
清水ミチコさんで。言ったり聞いたりしたいなと。
清水さんは大学の勉強はしたの?
- 清水
- うん。でも、家政科だから。
うちの田舎って短大とか大学行く以上は、
教師免状を取るのが当たり前みたいな常識があったの。
だから、それを取るまでは、ちゃんと勉強しましたね。
- 糸井
- そういう勉強、へっちゃらなんだ。
- 清水
- へっちゃらってことはないですけど。
でも、料理は好きだし、面白かった。
- 糸井
- つまり、ドロップアウトをしてないんですよね。
- 清水
- うん、してないです。親に心配かけるようなことはしてない。
- 糸井
- なのに、やっていることは、ずーっと‥‥(笑)。
- 清水
- もう、とにかくうちの両親は、
森山良子さんの「ざわわ」をやめろやめろって(笑)。
- 糸井
- あはは。
- 清水
- 「まあまあ、もう今年でやめますから」って言って、
30年もやっている(笑)。
- 糸井
- 森山良子さんを見ているとき、
清水ミチコを思い浮かべるように‥‥
- 清水
- なっちゃうじゃないか(笑)。
- 糸井
- ちゃんといい子だったんですか。
- 清水
- 私は、いい子でもなく悪い子でもなく、
パッとしないような子だったかな。
糸井さんが責任編集者だった『ヘンタイよいこ新聞』とか、
そういうものを高校のときに読んだり、
『オールナイトニッポン』を聞いたりとかして。
だんだんそういうお笑いの世界みたいなものを知って‥‥
- 糸井
- パッとしていったわけ?
- 清水
- 自分の中ではね、パッとしていった。
でも、ほかの人はみんな恋愛をしている中で、
自分だけが雑誌の『ビックリハウス』に載ったとか、
ラジオで投稿読まれたとか、
幸せの度合いがちょっと違う感じだった。
- 糸井
- だけど、ラジオで選ばれたり、
『ビックリハウス』に載ったりするのって、
実はけっこう難しいことで。
- 清水
- そうかな。
- 糸井
- うん。今、やれよと言われても、ぼくは載る自信はないよ。
- 清水
- 本当ですか?
- 糸井
- うん。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 清水さんはそれができちゃったわけでしょう?
- 清水
- そんなことばっかり考えていたからね、青春時代ずっと(笑)。
- 糸井
- ぼくはね、お笑いが絡むようなものはできなくて。
ポエムを読んで、チョコレートをくれるみたいな
番組があったんだよ。それで、誰かが当選したって聞いて、
俺もやってみようと思ってやったら、もらえたことがあった。
でも、『ビックリハウス』みたいなことは、
ぼくは無理だったと思う。
お笑いじゃない人だったから。ぼくは二の線だった。
- 清水
- 二の線って、自分で言った。
そして、周りの社員が笑っている(笑)。
- 糸井
- おかしいなあ、話を戻そうかな(笑)。
え、じゃあ考えれば、今もできるの?
- 清水
- 今はもう、無理かもしれないですね。
そういう試されるときがないから。
もう思いついたら、ライブのネタにしているっていうか。
そういうふうになっちゃった。
- 糸井
- 昔、『ひとりごっつ』っていう番組で、
「第1回お笑い共通一次試験」って企画があって。
共通一次みたいな形式の、
面白いことのテストを作ったことがあったんですよね。
で、なんでか覚えてないけれど、
ぼくもそれをやったんだけど‥‥
ちっとも面白くないの、自分が。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- なかでも、もうはっきり覚えているんだけど、
「一般的に、一番濃い鉛筆は6Bですが、
この鉛筆を6Bよりもっと上にしてください。」
っていう設問があった。
つまり一番濃い鉛筆を超える濃い鉛筆は何ですかって。
- 清水
- いい設問ですね。
- 糸井
- で‥‥
- 清水
- 何て書いた?
- 糸井
- 「できないよ、俺、できないよ」みたいになっているわけ。
そうしたら、松本人志さんの講評で出てきた解答が、「鬼B」。
- 清水
- あははは。悔しい(笑)。
- 糸井
- 悔しいだろ?(笑)
- 清水
- なんか悔しい(笑)。
でも、バカリズムさんが
「謎かけができない、人の気持ちがわからない」って言っていたけど、
ああいうのって、きっと個性があるんでしょうね。
- 糸井
- 『IPPONグランプリ』みたいな番組があるじゃないですか。
あれも、めちゃくちゃ面白いじゃないですか(笑)。
清水さん、もしゲストで呼ばれたらどうですか。
写真で一言みたいな。
- 清水
- いや、全然無理、全然無理です。
- 糸井
- え、清水さんはできないですか。
- 清水
- できない。私はやっぱり耳で聞いて‥‥
- 糸井
- あ、お金くれって(笑)。
- 清水
- やめなさい。金にならないことはやんないです!
‥‥じゃないです(笑)。
- 糸井
- もしかしたら、金になんないとダメなのかなって、
ちょっと思った(笑)。
- 清水
- あはは、関係あるのかな。
ユーミンさんの「ギャラが出ないところでは
オーラは出しません」っていう名言があるけど。
- 糸井
- ああ‥‥なるほどね。それ生活人として必要だからね。
- 清水
- そうそうそう、大事なことかも。
- 糸井
- じゃ、清水さんのあの面白がらせるのは、何て言うんだろう。
- 清水
- 私は、耳で聞いたことを自分なりに
「こういうふうに感じました」っていうことを提出している。
- 糸井
- 今日清水さんに会うんだと思ったら、何か一つぐらい自分で、
「これを思ったんだよね」ってこと言いたいなと思って。
それで発見したのが、清水さんは
「『私はこう感じています』っていうことをしているんだね」
ってことだったの。
- 清水
- あ、本当? 当たってます(笑)。
- 糸井
- ねえ。
で、なぜそういうことを考えたかというと、
清水さんって全然批評してないんだよ。
- 清水
- あ、うれしい。
- 糸井
- つまり、良いだの悪いだの何も言ってなくて、
「あなたのこと、私はこう感じていますよ」
っていうのを見せている。
- 清水
- そうかも。
- 糸井
- たとえば、ある芸能人がいて、
まあ、概ね強気なことを言っているっていうのは
みんなが感じている。それを、
「あなたのこと、すごく強気なことを言っている人として、
面白いなあと思って見ちゃっていますよ」
っていうふうに見せている。
通信販売をする瀬戸内寂聴さんとかあるじゃないですか。
- 清水
- はい(笑)。
- 糸井
- 瀬戸内寂聴さんは、あのとおりにしていないんだけれど、
私にはそう見えていますよっていうだけでしょう?
- 清水
- うん、そうですね。
- 糸井
- そうするとお客さんが、
「そう見えている、そう見えている」って(笑)。
- 清水
- 「あるある」って(笑)。
きっと、お客さまには、共感の人が多いでしょうね。
- 糸井
- 共感ですよね。ツッコみ過ぎないじゃないですか。
立ち直れないようなことしないじゃないですか。
- 清水
- そうかも(笑)