共感から生まれる、笑いをつくる
担当・平塚 朱里
第２回 「才能」を目の当たりにした、あの頃
- 糸井
-
清水さん、文章は文章で面白いんですよ。
- 清水
-
本当？
- 糸井
-
うん。こういう言い方は悪いかもしれないけれど、
清水さんは文章の修業をしたつもりは全然ないわけ。
- 清水
-
うんうん。
- 糸井
-
「修業したつもりのない人がこんな文章を書けることに、
もっとおののいてください」って社内で言ったことありますよ。
- 清水
-
わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
-
清水さん自身は、文章は何だと思っているの？
- 清水
-
文章は‥‥ブログなんかはやっぱり、
寝る前に、１日こういうふうだったってことを書くと
スッキリして寝られるので‥‥
トイレみたいな感じですかね。排泄（笑）。
- 糸井
-
ほう。でも、何も思わないで生きていたら、
書く段になって書けないじゃないですか。
- 清水
-
うん。
- 糸井
-
たとえば、アシスタントの子、気が利くなあって思ったから、
そのことを書けるわけじゃない？
思っている分量は多いよね。
- 清水
-
うん、きっと多いと思う。
高校のときに、自分の面白ノートというのがあって。
それに真面目なエッセイ欄があって、
「今回も書きましたけど、どう？ 読む？」みたいな感じで、
それを回していて。読んだ人が笑っていると、
もうすごく幸せみたいなのはありましたね。
- 糸井
-
周りの人が面白がるみたいなのが原点？
- 清水
-
あ、そうですね。
- 糸井
-
俺は、それはなかったなあ。
- 清水
-
ないの？
- 糸井
-
漫画描いたりして、回覧板的に回すみたいなことでしょう？
- 清水
-
そうそう。
- 糸井
-
少しはしていたんです。していたんだけど‥‥
つかめなかった、お客さんが（笑）。
- 清水
-
芸人だったらダメな言葉だね（笑）。
- 糸井
-
小学校のときとか、自分じゃないやつが、面白かった。
- 清水
-
へぇー。
- 糸井
-
だから、憧れていた。
そういうことを、やってみたいものだなと思って。
- 清水
-
クラスの中にやっぱり面白い人がいて。
さんまさんみたいな感じね？
- 糸井
-
そうだね。
だから、修学旅行でガイドさんがマイク回すと、
そいつが取ったら、もう絶対面白いみたいな。
- 清水
-
任せた！みたいな。
- 糸井
-
そう。このあいだ文章で書いたんだけど、
エレキを買って練習しているときに、
まったく音楽もできないし、勉強も何もできないやつが、
タンタカタン、タンタカタン弾き始めちゃったのを見て、
「何だったんだ、俺は」って思った（笑）。
- 清水
-
あいつに俺、負けていたんだっていう（笑）。
- 糸井
-
負けているどころじゃなくて、登れない山を登って、
あいつは上で逆立ちしているよと思った。
「ちょっとギター、貸してみ？」って言ったんですよ。
で、急にミッシェルを歌ったんですよ。
- 清水
-
もう、価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
親とか年配の人たちが
「何でも基礎をしっかりしておけば、何とでもなるんだから」
って言っていたから、ぼくはピアノ教室に通って、
バイエルとか習ったんだから。嫌でやめたけど。
- 清水
-
そっかあ（笑）。
- 糸井
-
そういうことの延長線上に、
ビートルズとかを弾ける私が作られると思ったら大間違いで。
- 清水
-
うんうん。
- 糸井
-
何だろう、夢は自分が守っていた
価値観の延長線上にあるものだったけれど、
その夢を今日の明日で叶えちゃっている人を見ちゃうわけで。
あれは今の自分に影響与えていますね。
- 清水
-
習うものじゃないものは、
確かに芸能ってあるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。
- 糸井
-
基礎が必要だっていうのと、やりゃいいんだよっていうのと、二つある。
清水さんは自分のことについてはどう思っている？
- 清水
-
どうなんだろう。
- 糸井
-
弾き語りモノマネは、今日の明日じゃできないよね。
- 清水
-
ああ、そうかもね。
矢野さんのモノマネは、それはやっぱり私が10代の頃に、
矢野さんにすごく感銘受けたからできたのかも。
きっと‥‥悔しかったんでしょうね
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな（笑）。
でも、練習していて、なんかできないっていうのがわかって。
- 糸井
-
その心って大事かもね。その、何ていうの、不遜な（笑）。
- 清水
-
何という自信なんですかね。
でも、今も、今でも、練習していて、
もうちょっと頑張ったらなれるんじゃないかと
思っている自分がいるの。
- 糸井
-
ああ。
- 清水
-
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
-
矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの？
- 清水
-
あ、それは音感。
- 糸井
-
指の動きとかではなくて。
- 清水
-
指ももちろん。
ピアノから何から、そうそう、音楽性。
- 糸井
-
でも、同じ道で、「振り向いたら後ろに清水がいた」
ぐらいのところにいるわけだ。
- 清水
-
私が矢野さんと同じ道？
- 糸井
-
うん。
- 清水
-
いない、いない、全然。
レベルが違う。
- 糸井
-
だって、ピアノ２台くっつけて、
一緒にライブをやっていたじゃないですか。
- 清水
-
あれも、矢野さんは一筆書きでササッと書いているんだけど、
私はそれを綿密に、どういう一筆書きをやったかっていうのを、
コピーしてコピーして頭の中入れて‥‥
さも今弾きましたみたいなふりをしているだけで。
それはやっぱりすぐわかりますよ。全然違う。
- 糸井
-
思えば、それもさっきの瀬戸内寂聴さんをやるときと
同じともいえるね。
「あなたのやっていることは、こう見えていますよ」
っていうことだよね。
- 清水
-
あ、そうですね（笑）。それだったらうれしいね。
- 糸井
-
あと、どうして声が似るのっていうのは聴かれたことある？
- 清水
-
ああ、ない。どうしてだろう。
- 糸井
-
おかしいよね。声が似るってさ。
「しゃべりの癖が似る」はできるよ。
要するに、ここがこうなんだなとかいうのを、
再現しているわけでしょ？
- 清水
-
そうそう。
- 糸井
-
それはできるんだけど、声の質まで似せている。
だってユーミンと矢野顕子、似てないじゃん。
- 清水
-
うん、似てないですね。全然違う（笑）。
- 糸井
-
どうして清水さんが、両方似せられているのか。
- 清水
-
自分ではわかんないな。どうしてなんだろう。
- 糸井
-
どうしてなんだろうね。
- 清水
-
でも、私も松村さんもそうですけど、
あんまり自分の何か表現したいってものがない人が、
得意かもね（笑）。
「私の歌を聞いて」って気持ちに全然ならないけど、
「私が演じる誰かを聞いて」っていう気持ちには
すごくなる。
- 糸井
-
その人の代わりに歌っている（笑）。
- 清水
-
そう、「その人の代わりやるから、
こっち聞いて。面白がって」っていうのは、
人より強いと思う。
