「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

02 「みつびし」で「ラッキョウ」で。

糸井 イメージの調整という面で、
今回、なかなか悩ましかったのは、
犬の「顔の細さ」のことでしたよね。
本当のブイヨンは、意外と顔が細いのに、
ぼくらは実際よりも太く、鼻先を丸く
見ようと見ようとしていて。
松村 そうです、そうです。
糸井 ほんとはそれほど丸くないってことを
飼い主のぼくも、実は知ってるんですよ。
でも、試作品の犬の顔の印象が
カチッとしすぎてるように感じて、
「細いままにしないでください」とか、
「鼻先は、もっと丸く」みたいなことを
言ってたんです。

フィードバック例より。「鼻先を丸く」の指示。
松村 そうですね。
糸井 そして、最終的には、
いい落としどころに落ち着いたんですが。
松村 最終的に、顔の形は
「ラッキョウな感じ」ということで(笑)。
糸井 そう、ラッキョウ。
ラッキョウ顔。

「ラッキョウ」の指示。
松村 この最終的な「ラッキョウ」という顔の形と、
最初に修正を依頼された
「鼻先を丸くする」ことというのは、
実は、両立しないんですよね。
糸井 そう、矛盾してますね。
松村 でも、どちらも、
言ってることはわかるんですよ。
ただ、最初の修正を依頼されたときには、
そのまま丸いほうに引っぱり過ぎちゃうと、
それはそれでまた違うだろうなとは
思ってました。
糸井 つまり、その時点ですでに松村さんは
ぼくらの言ってることがわかるところまでは
すでに頭の中で組み立ててあるんですよね。
「こういうことを、言いたいんだろうな」
みたいなことは、もうわかってたわけですよね。
松村 いろんな見方で見てはいるのでね。
こういう面もあれば、
ああいう面もある、ってことは
ずっと考えてましたから。
糸井 加えて、これがよそんちの犬だったら
こんなことは分かりゃしないっていうことも
言いますし、飼い主は。
松村 (笑)
糸井 結局、途中ああでもない、
こうででもないと
言ってたぼくらが、
ようやく落ち着き先が分かったのは、
試作品をぼくがいつも「気まぐれカメら」に
載せている写真のように
撮ってみたときなんです。
「あ、似てる」っていう状態になった。
写真を見て、みんなが腑に落ちたんですよ。

すけっち。

犬は、「Kようどう」さんに
「ふぃぎゅあ」というものを
つくってもらうことになりました。
で、写真だけじゃなくて、
「実際にお会いして、よく見たい」
って言ってもらったんです。
こんなふうな「すけっち」も、
つくられちゃった。うふっ。
よろしくお願いしまーす。
<『ブイヨンの気持ち(余感)』より>
松村 たとえば、この耳なんですけど、
作っているあいだ、ずっと、
耳はふたつ並行に、
スッと上を向いていたんですよ。

試作品の写真(修正前)
糸井 ええ。
松村 ギリギリまでそうなっていたんですが、
原型を完成して工場に送る寸前に、
こう、ぱっと、
上を向いていた耳を横に広げたんです。
糸井 あ、広げた。へえ。
松村 耳の立ち上がり方については、
ずーっと悩みがあったんですけど、
自分で撮った写真がたまたま、
わりと耳が並行になっていたもので、
そのままできてたんです。
で、最後の最後、送る1時間ぐらい前に、
あ、やっぱこっちだ、と思って。
糸井 ちょっと開こうと。
松村 ええ。逆ハの字がいいなと思って。
で、バスバスと切って、ちょっと開いて。
一同 へぇー。
糸井 それは、作っている本人にしか
分からないかもしれないですね。
ぼくらは、開いた耳の形も見慣れていて、
ブイヨンの耳はこうだと思い込んでるから、
まったく違和感がなかったです。

ぼく、よく「三菱」って言ってるんですよ、
ブイヨンの耳のこと。
松村 ミツビシ。
糸井 うん、ブイヨンの耳は、
三菱のマークの菱形に似てるんです。
松村 ああ(笑)。
糸井 うちの犬は、
「三菱」で「ラッキョウ」なんですよ、ってね。
一同 (笑)
松村 とくに後ろから見たときのシルエットは、
耳が開いてるほうがいいかなと思ったんですよ。
糸井 ブイヨンの妹の、ハンナっていう子は、
耳がちょっと角みたいな格好になってるんです。
で、みんな、ちょっとずつ背が違ってるんで、
親からするとシルエットで区別がつくんですよね。
いやぁ、耳。そうでしたか。
松村 ええ、そういうことがけっこうあります。

(つづきます)

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2011-06-08-WED