「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

02 「みつびし」で「ラッキョウ」で。

糸井 犬のフィギュアを作りながら
松村さんが最後の最後まで
ジタバタするのはどこだったんですか?
やっぱり顔ですか?
松村 顔というか、「目」ですね。
「ねてる」ほうみたいに目を閉じてると、
表情があるようでないんで、
すんなり決まるんです。
もう悩みがないっていうか。
糸井 なるほど。
松村 だけど「まってる」ほうは、
ちょっとした目の距離の取り方ひとつでも、
表情や顔つきががらっと変わってしまいますから、
悩むところですね、目は。
で、犬の目って、顔に対して
けっこうななめの位置にあるんですよ。
糸井 ああ、そうですね。
松村 その位置がちょっと変わるだけで、
印象がまったく変わりますしね。
だから目を開いてるほうが、
結局、悩むんですよね。
糸井 鼻や口とのバランスでも
変わりそうですね。
松村 そうですね。
まぁとにかく、生きものって、
ほんと、よくできているんですよ。
犬も、目と鼻との位置関係とか、
走るときにじゃまにならないように
ちゃんとなってる。
ようするに、目が真っ正面を見たときに
鼻が下にくるようになってるんです。
(目の前に鼻があるかっこうをしながら)
こうじゃなくて。
糸井 うんうん、そうですね(笑)。
松村 よく、犬を絵に描くと、
目のすぐ前に鼻があるような格好に
なりがちなんですけど、
実際にはそうはならなくて。
糸井 あり得ない。
松村 ええ。
目を真っ正面に向けたときには、
鼻は下に下がって、
じゃまにならないように
ちゃんとなってるんです。
糸井 そうか。
松村 だから、立体にするときにも、
そこらへんはちょっと
意識してやりますね。
で、当然ながら動くんです、目は。
糸井 はいはい、動きますね。
松村 犬には、人間みたいな
眉の部分の骨がないですから、
目玉が動くと、目がぐりって
動いたように見えるから、
それでまた雰囲気が変わって見えたり。

そういう意味で
目を閉じてる「ねてる」ほうは、
悩みがなかったです。
こっちは顔の表情より
後ろ姿がポイントですね。
背中から見たときに、
ぼてっと落っこちる感じが特徴かなと。
糸井 豊かさがあるんですよねぇ。
それから、「ねてる」ほうは、
なんといっても
「肉球」が芸の見せどころですよね。
松村 そうです、そうです。
あと、爪です。
糸井 そう、爪とね(笑)。
糸井 塗り残しと思われそうだけど、
こういう爪の色なんですよね。
飼い主としては、
そこまでやるのかーって(笑)
うなったところで。
松村 自分で撮った写真を見ると、
そうなってたんですね。
作るほうとしては、
せっかく裏まで作るんだし、
爪と肉球を同じようにしないと
逆にへんだな、と思いますから。
糸井 この耳の先っぽもそうですよね。
欠けたかと思われそうだけど、
ここは、みんなが喜ぶんじゃないかなぁ。
糸井 「まってる」ほうの座り方も、
これ、こういうおすわりなんですよね。
きっと、意識しなければ
普通のおすわりで作ってしまうところ
なんじゃないですか。
松村 いや、ぼくも前から、
ブイヨンの本とかを見ていて、
座ってるときに、後ろ肢がぱっと前に出ていて、
ぼーっとしてる姿がいいなぁと思ってたんです。
だから、この座り方は最初から、
こうしようと思ってましたね。
糸井 そうか、最初からこの座り方が
おもしろいなと思ってたんですね。

最初のラフ、座っているポーズ。
松村 ただフィギュアのポーズとしては、
やっぱり、ぼーっとしてるのは
ちょっとへんだろうと思って、
かわいく前を見るようにして。

2回目のラフ、座っているポーズ。
糸井 どこをとっても、
なんとなくです、っていうのは、
ひとつもないんですね。
こうやって、ひとつひとつ説明できるまで
考えたんだっていうことが
ちゃんとなかったら、
結局、答えは出ないということですよね。
松村 特に「この犬」っていう個体になると。
自分で答えがでないですからね。
実際のところ、自分が飼ってる犬でも
わかんないですから。
糸井 あぁ、そういうものですか。
松村 ぼく、前に自分の犬を
作ったことがあるんですよ。
雑誌の撮影用に見える側だけを作ったので、
半立体なんですけど。
これ、うちの犬。
一同 (笑)
松村 こう、ベロを出して、
ハァーッてやってる顔が好きなもので(笑)。
こういう感じは、全部作ってしまうと
逆にうまく見えないので、
このくらい縮めたほうがいいなと思って。
(つづきます)

前へ

2011-06-09-THU