「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

02 「みつびし」で「ラッキョウ」で。

糸井 造形師の仕事というのは
アニメーターなんかに
近い仕事なんですね。
松村 おっしゃる通りですね。
とくに俺は、細かく作ることよりも、
なんというのか、
作り飛ばしていくのが好きなんですよ。
粘土でスケッチするのもそうですけど、
飴細工をつくる芸人さんみたいに、
つぎつぎに、こう、
形を作っていくようなのが好きなんですよね。

粘土でブイヨンの立体スケッチ中。
糸井 ははぁー。
松村 で、つくった全部、総数で‥‥。
糸井 楽しむんだ。
松村 ええ。このバラエティを見よ! っていう。
糸井 世界観みたいなものですね。
松村 そうですね。
形や色のバリエーションを作ったり。
たとえば、これ、
オオクワガタなんですけど、
これも3段階あって。
糸井 3段階?
松村 サナギになったばかりの薄い色のときと、
成虫になる直前のやつとか、
色分けしてるんです。
糸井 やっぱりアニメーションですね。
松村 そうでしょう。
糸井 これ、縮尺が全部違うっていうのが
またふしぎな‥‥(笑)。
松村 かたまり感でだいたい統一してますね。
糸井 「かたまり感」(笑)。
グラム数も一緒ぐらいなんじゃない(笑)。
一同 (笑)
松村 このあたりは動物園もので、
ズーラシア(よこはま動物園)のシリーズと、
旭山動物園の「ガチャガチャ」のシリーズ。
一同 (かわいい)
松村 こっちはチョコエッグ、
チョコQのシリーズです。
カプセルがチョコに入ってるやつです。
糸井 ああ、チョコエッグ。
松村 それからこれは、小学館の
『週刊 日本の天然記念物』っていう本の付録です。
毎週なので、このころは週に2個とか作ってて。



『週刊 日本の天然記念物』(小学館)の付録例
糸井 毎週‥‥どうしてそんなことできるんだろう。
松村 いや、大変だったんですよ。
スケジュール的に、もう、
どうにもならなくなっちゃって。
だから、少ない制作期間のなかで、
いかにおもしろいものにするかってことを
考えてました。
糸井 松村さんは、もともと、
アニメーターだったんですか?
松村 いえ、もともとは絵を、
生きもののイラストを描いてまして。

松村さんがイラストを担当した本。
『アニマル・ウォッチング〜
 日本の野性動物』(晶文社)
糸井 そうか、それが立体化したわけですね。
松村 そういうことですね。
あ、これも天然記念物のシリーズです。
ホタルイカ。

ホタルイカのフィギュア。
糸井 このイカは、透明感のある素材で
作っているんですか?
松村 これは、イカに内臓が入ってる感じを
わかるように作りたくて、
胴をつかんで足をひっぱって抜くと‥‥



イカのフィギュアが銀色っぽい
てらてらした内臓つきの足と、胴にわかれる。
一同 え!
松村 そして、これをこうやることによって‥‥
一同 わぁ!
糸井 あー、なるほど、
内臓の色が透けて見えてるわけだ。
松村 そうです、そうです。
イカの光沢感をなにか手軽な方法で
表現できないかと思ったんですね。
で、内臓を分けて作って、
胴に抜き刺しできるようにしてみたら、
あ、これはいい、って(笑)。
糸井 いや、もう最高、最高です。
食べられそうですよ、ほんとに。
このホタルイカと、
さっきのチョコエッグのフィギュアでは、
材質が違うんですか?
松村 ええ、違います。
チョコエッグって、フィギュアをカプセルに詰めて、
それをさらに、チョコのなかに入れてたんですね。
だから、チョコに匂いが移るといけないんで、
匂いがある素材は使えないんです。
柔らかい素材は溶剤の匂いが多少あるから、
チョコエッグは硬い素材を使ってます。

こっちのホタルイカは、本に入ってるものなので、
ちょっとぐらい臭気を発しても大丈夫で(笑)。
柔らかい素材を使ってます。
糸井 ブイヨンのフィギュアの素材はというと?
松村 ブイヨンの場合は「ポリストーン」といって、
どちらともまた、違う素材ですね。
糸井 また違うんだ。
松村 陶石の粉が少し入ってるので、
ちょっとずしっと重いんです。
これでぱっと軽いと、
ちょっと、あれ? って感じですけど、
この重さはいいですよね。
糸井 そうそう、いいですね。?
松村 ブイヨンのフィギュアは、
素材だけじゃなくて、ほかのフィギュアと、
もう全然、やり方が違うんですよ。
糸井 ほう。
松村 チョコエッグや『日本の天然記念物』の
フィギュアは、金型を使って成形しているので、
やろうと思えば、それこそ何万個だって作れるんです。
こういう模様とかも、印刷できるんですよ。
「タンポ印刷」とか、「マスク」といって、
穴の空いた金属の型をカチャっとはめて、
その上からスプレーでぷぷっと吹きつける方法とか、
模様も印刷できちゃうんです。
糸井 へぇー。
松村 でも、ブイヨンのフィギュアは
それができないんです。
本体自体がもろいですから、
落としたらパリンと割れちゃう。
だから、手塗りメインで
ペイントしてるんですよ。
糸井 なるほどなぁ。
(「ちいさいブイヨン」をしみじみ見ながら)
おなかの軽いピンク色とか、
いいですよねぇ。
松村 やりすぎない程度に、うっすらとね。
(つづきます)

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2011-06-10-FRI