糸井 |
ぼくら素人からみると、
「作り飛ばす」という言い方が
できること自体、不思議なんですけど、
それにしても、ほんとに
作り飛ばすように
「どんどん作っていく」のが好きなんですね。
この動物が好きとか、
そういうのはあまりないですか?
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松村 |
多少の好みはあるんですけど。
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糸井 |
たとえば。
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松村 |
犬も顔が長いほうが好きだとか、
そういう好みはあるにはあります。
あと、歯がガーッと並んでて、
ベロが出てるような口が好きだとか。
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糸井 |
はいはいはいはい(笑)。 |
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松村 |
好みとしてはそういうこともあるんですけど、
作るとしたら、どれもみんな‥‥
ペットでも野生の動物でも、
希少種であろうが、外来生物だろうが
なんでも。
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糸井 |
生きてないものは興味がない?
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松村 |
やっぱり、生きて動いてるものがいいです。
生きものだけでもこれだけ種類があるわけだから、
俺的にはもう、それで十分というか。
もしこの先、自分の作るものが、
まったく受け入れられなくなったとしたら、
ほかのものを作るしかないですけど、
これだけ作るものがあれば、もう十分‥‥
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糸井 |
幸せ(笑)。
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松村 |
そう。だから、なにが好きというよりも、
こういうのがいっぱいあるほうが楽しいですね。
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糸井 |
「造物主」みたいなことですかね。「神様」というか。
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松村 |
どうだろう‥‥まあ、そうなのかな。
たとえば、かえるでも、
よく似たものがいくつも並んでいたり。
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糸井 |
うん、うん(笑)。
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松村 |
1個ずつ集めてもつまんないけど、
こんなふうになってくると、
俄然、おもしろくなってくるんです。
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糸井 |
これ、実はひとつひとつ、
全部違いますよね?
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松村 |
ええ、ほんとは違うんですけど、
数が集まったときのおもしろさは‥‥
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糸井 |
その心と重なり合うのは、
ぼくらには無理かもしれないなぁ(笑)。
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松村 |
まぁ、一個一個はそれほどアレなんで、
集まったときにおもしろいんですよ。
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糸井 |
一個一個もすごいけど(笑)。
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松村 |
これなんかは、また別で、
大きいんですけどね。
原寸大なんです。 |
始祖鳥。(クリックで拡大します)
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カワウソ。(クリックで拡大します) |
糸井 |
これは、始祖鳥?
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松村 |
そう、これは作品展用に作ったものなんです。
だから大きい。カワウソも原寸大です。
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糸井 |
じゃあ、写真の背景はほんとの地面。
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松村 |
そうです。
実を言うと、フィギュアって、
大きさはあまり関係ないんですよね。
この蜂は、また別のグループ展に
出品した作品なんですが。
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オオスズメバチ&キイロスズメバチ。(クリックで拡大します)
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糸井 |
これは戦って死んでるんですよね。
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松村 |
そうです、そうです。
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糸井 |
つまり、時間の「ある瞬間」が、
ここにあるんですよね。
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松村 |
「雑木林の収穫祭」というテーマの
展覧会だったんです。
スズメバチの「襲撃」は次世代の女王を育てる
秋にしかみられないものです。
冬になると、女王蜂以外はみんな、
巣がなくなって死んでしまう。
これはハチにとって最後の「大爆発」です。
その最期を迎える直前の一瞬を捉えたいと。
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糸井 |
取れた羽とかが、リアルですよね。
でも、これも単なるリアリズムじゃない。
「本当のものじゃない」というデフォルメが、
必ず、どこかにありますよね。
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松村 |
もちろんそうです。
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糸井 |
そこは「自分」なんですよね。
自分の解釈が入ってる。
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松村 |
そうです、そうです。
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糸井 |
どっかしらに自分がいて、
作ってる人の個性が、
そこに込められてるんですよね。
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松村 |
そうですね。
ふつうの動物フィギュアだったら、
自分の思いでできるんで。
ただ、今回のブイヨンみたいに
1匹しかいない場合はね(笑)。
それはちょっと、
やばいなっていう感じでしたけど。
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糸井 |
ああ、そうですね、落としどころがね。
だから、僕の考えを吸い上げて、
いったん理解して答えを返すっていう作業を、
会ってないあいだにも、
ものすごくやり取りをしてましたね。
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松村 |
ええ。
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糸井 |
それは、ふだん自分の解釈で
やってる人にとっては
なかなかしんどいことですよね。
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松村 |
正解が、自分ではわからない
というところがね。
どうやったらいいんだろうって迷うので。
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糸井 |
ぼくが言うことをまるまる聞いちゃうと、
「そういうことはあり得ません」
ということにもなるわけだし。
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松村 |
「鼻はそこまで丸くないんじゃないか」
っていうふうにですね(笑)。
「丸いイメージはないんじゃないかな」って
こっちとしては思うわけです、たとえばね。
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糸井 |
うん、客観的に見ると「ない」のに、
ぼくが見えてるんだったら、
「それはつまり、こういうふうに見えてるのか?」
という問いかけをいったん形にして、
それをもう一回ぼくのほうに投げかけて、
「あ、それが近いです」って返事が返ってきたら、
「ああ、そうですか」ということになる。
たとえば、今回、「口」なんかでも、
実際には、もっと幅があるはずですよね。
ほんとは犬の口って、
目の下ぐらいまであるものでしょう?
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松村 |
そうですね。
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糸井 |
でも、そのままやっちゃうと
ぼくの問いかけに対する
答えにはならないんですよね。
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松村 |
はい。
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糸井 |
だけど、実際の犬を見てても、
このフィギュアの口くらいに見えるときも、
しょっちゅうあるんですよ。
で、松村さんも、スケッチの段階では、
最後まできっちり描いてるけど、
最終的に、フィギュアでは
口のラインを短く止めている。
犬を知ってる人には、
「あれ、ほんとはもうちょっと?」
って、思う部分かもしれないけど、
それが、作家の答えなんですよね。
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(つづきます) |