「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

海洋堂とは 松村しのぶさんのプロフィール 世界的フィギュア制作会社・海洋堂さんとタッグを組み、 たっぷり時間をかけてつくった「ちいさなブイヨン」。 いきものフィギュアの第一人者、松村しのぶさんが 原型をつくってくれました。 飼い主であり監修者となった糸井は試作を見るたびに、 「いやあ、すごいな、まいったなあ」と言いつつ、 「心を鬼にする」とも言い、 飼い主が感じた「違和感」を伝え、 なんども修正してもらうことに。 「もっとまるく」「顔はらっきょうのかたち」 「後ろ姿はボン・キュ・ボンで」‥‥ 生きて動いている実物と飼い主のイメージを どう造型におとしこんでいったか。 糸井と松村さんの対談です。



糸井 いやいやいや、このたびはほんとに、
ありがとうございました。
松村 いえ、こちらこそ。
ありがとうございました。
糸井 途中、ものすごく細かく
注文をつけてしまって
すいませんでした。
松村 いえいえ、そんな(笑)。
だいじょうぶです。
糸井 完成するまでのあいだに、
何度もかたちを修正させてもらって、
その度に、ああでもない、こうでもないと、
さぞかし、うるさいなと思ったでしょう(笑)。
松村 いや、おっしゃっている内容は
よくわかりましたので、
「あ、なるほど」と。


完成したブイヨンフィギュア(上「まってる」 下「ねてる」)
糸井 こんなふうに、
生きて動いている「現物」をモデルにして
フィギュアを作るというのは、
制作者にとっては、きっと
さぞかしプレッシャーがあるものでしょうね。
松村 それもなくはないですが、
今回の場合はやっぱり、
「特定の犬」だということが
いちばん‥‥ですね。
糸井 「特定の犬」。
松村 たとえば、ぼくがふだん作っている
動物のフィギュアなんかだと、
「この動物なら、こういう形にすればいい」、
ってことがあるんですね。
糸井 ええ、ええ。
松村 どんな動物にも多少個体差はあるんですけど、
そういう細かい部分を考えずに、
ある程度、いいセンでつくるんです。

それが、今回のブイヨンみたいに、
特定の犬を作るとなると、
すべてが「特徴」じゃないですか。
もう、あらゆるところが。
糸井 うん。そうですよね。
松村 だから‥‥
糸井 ひどい話ですよ、それは(笑)。
一同 (笑)
糸井 いや、ほんと、そう思います。
松村 まぁ、なんというか(笑)、
やっぱり、その犬特有の印象ってのが
ありますからね。
糸井 人がどう見ているのか、ということですね。
松村 ええ。たとえば、人間の顔は平面的なので、
わりと捉えやすいと思うんですけど、
犬って立体的なので、写真に撮ったときと、
生で見るのと、けっこう印象が違いますよね。
糸井 違いますね。
松村 実際にこちらにうかがって
初めてブイヨンを見たときも、
それまで写真で見ていたのと
けっこう雰囲気が違うと思ったんです。
上から見るか、横から見るかでも違うし。
なので、作っていてもなにか迷うんですね。
「あー、似ねぇなー」って。
そういうことが、ずいぶんありました。

ブイヨンと対面。
糸井 これは正しいはずなんだけど、
なにか違うという感じですか。
松村 そうなんです。
これで合ってるはずと思っても、
別の向きから見ると、
毎回ちょっと違って見えたり。



松村さんの1回目のラフスケッチ(会う前)
糸井 このスケッチの段階で、
もうすでに雰囲気がでてますよね。
やっぱりすごい見てるんだなぁと思った。
松村 これは最初の、現物のブイヨンを見る前に
描いたスケッチですね。
糸井 実際にブイヨンを見て、
いちばん違ったのはどのへんですか。


松村さんの粘土のスケッチ(見ながら)


松村さんの2回目のラフスケッチ(会った後)
松村 もっと体が長い感じがしてたんです、写真では。
でも、実際のブイヨンを見たら、
意外に、コンパクトっていうか。
糸井 コンパクト(笑)。
松村 ええ、前後にコンパクトだったんです。
写真だと、上から撮るからだと思いますけど、
足が短く、胴が長く見えちゃってたんです。
糸井 写真って、嘘ではないんだけど、
あたえる印象は、違うんですよね。
かならずしも、客観的事実を
そのまま写しとってるわけじゃない。
松村 フィギュアみたいな立体でも、そうですよ。
こっちから見たら
頭がすごくデカく見えたり、
あっちから見たら
顔が小さく見えたりするわけでね。
だから、印象で彫っていく、
という感じなんですよ。
糸井 つまり、フィギュアも実は、
イメージの調整をしていて。
松村 ものすごいしてます。
糸井 リアリズムではない、
っていうことなんですよね。
つまり、みんなが思っているほど
リアリズムを追求しているわけじゃない。
松村 そうです、ええ。
糸井 ぼくも含めて、
フィギュアはリアリズムだと
みんな思ってて、いかに精密か、
精密さのことばかり言うけど、
精密ってだけでは、表現じゃないんですよね。
松村 そうですね。精密ってだけなら、
標本みたいなのがベストということに
なっちゃいますしね。
糸井 やっぱり、作ってる人じゃないと、
わからないんですよ、それは。
ぼくは、今回、自分んちの犬の
フィギュアだったから、
それがよくわかったんです。

イメージの調整という面で
今回、なかなか悩ましかったのは、
あれですよね、
あの、犬の「顔の細さ」のこと。
松村 そうそう、そうです、そうです。

(つづきます)


2011-06-07-TUE



01 ブイヨンは、意外にコンパクトだった。 2011-06-07
02 「ミツビシ」で「ラッキョウ」で。 2011-06-08
03 そこまでやるのか、と飼い主はうなった。 2011-06-09
04 ホタルイカのヒミツ。 2011-06-10
05 俄然、おもしろくなる。 2011-06-13
06 おまえのほうがかわいいよ。 2011-06-14
07 単純なカメと複雑なカメ。 2011-06-15
08 答えは100年後の未来にある。 2011-06-16
09 手乗りブイヨン。
2011-06-17



感想を送る ツイートする ほぼ日ホームへ