「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

05 俄然、おもしろくなる。

糸井 それにしても、このホタルイカは、
何度見てもすごいですねぇ。

こういうのは、いまはもう、
手に入らないものなんですか?
松村 ええ。これは『週刊 日本の天然記念物』の
付録のフィギュアで、配本が終わってますから。
糸井 絶版になってるわけですね。
松村 そうです。
このなかでいまも続いてるのは
旭山動物園の「ガチャガチャ」のシリーズくらいかな。
いまは、スノードームのようなのに
動物が入っているのを作ってますね。
糸井 じゃあ、このチョコエッグとかも、
もちろんない。
松村 これはチョコエッグから、チョコQと、
名前が変わってからのものですけど、
これももうないですね。
糸井 昔あったあれ、またほしいなと思っても、
ほとんどがもうないということですね。
そういう意味では、
仏像なんかと近いのかもしれない。
松村 ほんと、永劫には続かないです。
糸井 チョコエッグのブームって、
もう10年くらい前になりますよね。
松村 最初のシリーズがはじまったのが、
1999年でした。
そのころのチョコエッグって、
ずいぶんあっさりしたものだったんですよ。
糸井 あっさり(笑)?
松村 たとえば、これ、
シリーズ後期のカメなんですけど。

シリーズ後期のカメのおなか。
一同 おお!
松村 で、こっちが初期のカメ。



後期と比較するとシンプルなつくり。
一同 はぁー。
松村 こんなふうに、
あっさりした単純な形だったのが、
すごい細かいものに
ちょっとずつ変わっていったんです。

それも、もともと単純な形だったのに、
中国の工場が、もっと簡単に
勝手に型を変えてきちゃったりして。
糸井 向こうで?
松村 ええ。色なんかもすごい省いてきてて。
最初はこちらも、
「これを中国で作るのは、やっぱ難しいのかな」
とか思いながら、ひとまずダメ出ししてみたら、
ちゃんと直ってきたんです。
できるとわかって、じゃあ、色はもっとこうして、
ここはこういうふうにして、って
細かく指示していったら、
「こうやりゃあ、いいんだろ」みたいな感じで、
工場のほうでも、バシッ、と
最初から決めてくるようになってきて。
糸井 すごいね(笑)。
松村 ええ。それで結局、ものすごい細かいものでも、
そのままできるようになったんです。
「すごいよねぇ」っていいながら、
ますます細かくなっていったんですけどね。

そして、1回製造が終わって
つぎにまた再開するとなったとき、
工場の見積もりが、
ものすごく高くなったんです。
工場も気づかないくらい
じょじょに複雑になっていったもんで、
最初はそのままやってくれてたんですけど、
1回中断して、もう1回始めるとなったときに、
ハタと冷静になったんだと思うんですよ。
一同 (笑)
糸井 騙されてたんじゃないかと。
松村 とてもじゃないって、思ったんでしょうね。
一同 (笑)
糸井 あの単純なカメで引き受けたら
いつの間にか、こんなに複雑なカメを
作ってたってことですもんね、工場にしてみたら。
そりゃあ、ショックだ。
松村 ええ、勘弁してくれ、ってことだと思います。
まぁ、厳密に言うと、そのころは
数もものすごくたくさんやってたんですが。
糸井 このなかで、いちばん工場泣かせなのは、
どれなんだろう。やっぱりエビですか。
松村 どうだろう‥‥うん、そうですね。
色とか、やっぱり。
糸井 ひどいですよ、エビ(笑)。
松村 でも実は、俺的には最初のころの、
単純なもののほうが好きなんですけどね。
糸井 ほう。
松村 どんどん細かくなっていったのは、
世の中の流れが、
すごい細かいほうにいっちゃったんで、
しかたなしにもう、追うしかなくて。
でも、俺としては、
こっちの単純なのでいいんだったら、
そのほうが好きなんですよ。
糸井 これでいいんだったら、
という考えは、たしかにありますね。
それって、文章を800字で書くか、
俳句で書くかの違いに似てます。
800字の内容を、俳句の12文字で
言いあらわせたりしますからね。
なるほどなぁ。
松村 単純な形で、十分成立してると
俺は思うんですけどね。
糸井 「こんなにする必要ないんですよ」
「ああ、なるほどな」って、
ときどき、こんなふうに、
フィギュアを作ってる人の考えと
自分が重なるときがあって、
おもしろいなぁ(笑)。

(つづきます)

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2011-06-15-WED