「メモ魔です」と語る、ラジオDJの秀島史香さん。
プライベートでも、ラジオの生放送中でも、
思いついたことがあれば手帳やメモに
すぐに書き込んで頭に留めておくんだそう。
9月に銀座ロフトで開催したイベント
『書く!展』のトークイベントでは、
飾らない、本音の言葉のやりとりで
糸井重里とおおいに盛り上がりました。
「書く」ことから「しゃべる」ことへ、
テンポよく話題が転がるようすをおたのしみに。
全6回、銀座ロフトからオンエア!
FMラジオじゃないんだから
- 秀島
- 糸井さんは、
手帳にどんなことを書かれるんですか。
- 糸井
- ぼくは本を読んで刺激されたものだとか、
「それはいいな!」と思ったことを
ヒントに書くことが多いです。
- 秀島
- よかったら、ちょっと1ページ
読んでいただけませんか?
- 糸井
- たとえば、映画を観た日のことですね。
3月29日、TOHOシネマ。
「おもしろいんだけど、
制作側の都合がよすぎる感じ」。
- 秀島
- 辛口の感想ですねえ。
- 糸井
- もうひとつ書いてありますね。
「絵コンテの映画化みたいな邦画だな」。
ぼくもわりとヒドいこと書いてるね(笑)。
- 会場
- (笑)
- 秀島
- 初っ端にダークサイドから入っておいて何ですが、
私も普段は、今日のお天気のこととか、
仕事に役立つことを書いているんです。
ラジオの生放送って、オープニングトークで
お天気の話から入ることが多くて、
今日という日に、みんなが感じていることだとか、
見ているものをフックにしているんです。
- 糸井
- つまり、共通の世界を作るわけですね。
- 秀島
- そういうことですね。
「これ、どうですか?」であったりとか、
「私、こういうものを見てきました」
という話を日々ストックしておくんです。
- 糸井
- 今日(9月4日)だったら台風のことですかね。
- 秀島
- ええ、強い台風が近づいていますから。
今朝、テレビで天気予報を見ていたら、
お天気お姉さんが
「今日は頑丈な傘でお出かけください」
というふうに言っていたんですよ。
そんな表現、初めて聞きました。
傘の強度についてお天気お姉さんが言うなんて。
- 糸井
- ああ、ぼくも初めて聞きますね。
- 秀島
- 「あっ、なんか新鮮!」と思ったんです。
フィールド外のこともあえて言葉にしたことで、
私もピーンときてしまったんでしょうね。
- 糸井
- 天気予報の中で「頑丈」っていう言葉が
使われることはなかなかないでしょうね。
- 秀島
- ええ、珍しいと思いますね。
「傘の強さまでアドバイスしてくれるんだ!」
って、ドキッとしました。
「晴れているよ」「雨だよ」という、
単なる情報から視点をどうやってズラすかは、
私がラジオの中で考えている裏テーマでもあります。
あと、今日の取れたてのネタがありまして。
今朝は、濡れて当たり前みたいな天気だったので、
ビーチサンダルの出番が再びやってきまして。
- 糸井
- 大雨でしたからね。
- 秀島
- 夏も終わり、海水浴場も閉じて、
クローゼットの奥にしまったはずのビーサンに、
再び活躍の機会が与えられるわけですよ。
「バッター、ビーサン」という感じで、
ビーチサンダル選手は今日の指名打者です。
- 糸井
- 東京の全部がビーチ化したわけですね。
どうせ濡れちゃうんだし。
- 秀島
- もはや、東京ビーチでした。
で、ビーサンを久しぶりに履いてみたら、
鼻緒にまだ砂が残っていたんですよ。
- 糸井
- 砂がね!
- 秀島
- 「あれ、何このジャリッとした感じ!?」
ということがあったので、
オープニングトークに使えるかも、と思って。
こういう弾をストックしておくんです。
- 糸井
- なんだか、とてもプロな感じがしますね。
あの、秀島さんにだから告白できるんですが、
ぼくは「FMラジオ」というものに対して
じつはけっこう批判的なんですよ。
- 秀島
- あらあらー、そんな真っ向から!
なんだかすいません。
- 糸井
- AMは聴く気になるけれどFMは聴かない、
ということを身内によく言っているんです。
- 秀島
- FMのどこが嫌なんでしょうか。
- 糸井
- ぼくがFMラジオを聴かない理由は、
さっきの「ビーサンの砂」にあたる話が
まったく登場しないということなんです。
- 秀島
- どういうことでしょうか。
- 糸井
- つまり、ぼくが思うFMってこういうことなんですよ。
「秋ですね。枯れ葉をめぐって恋の物語。
あなたのそばにも、あるんじゃないかな?
わたくしとしてはちょっと悔しいんですけれども、
でも、恋を拾ったかた、お幸せに!!」
みたいなトークなんですよ。
- 会場
- (笑)。
- 秀島
- ちょっとちょっと糸井さーん!
それ、すっごい幻想ですよ(笑)。
いくらなんでも歪みすぎていませんか?
- 糸井
- ぼくが聴いていると本当にあるんですよ。
そういう台本を書く人がいて、
考えなしにそのまましゃべる人がいて、
「こんなときに紅茶はどう?」みたいに、
知らないうちにコマーシャルが入ってくる。
アンタのお膳立てで俺は生きてないよって、
しゃくにさわるんですよね。
- 秀島
- はあ、なるほど。
- 糸井
- ぼくはこれを「FMしゃべり」と呼んでいるんです。
たとえば、ほぼ日の中でも、
新人が「FMしゃべり」な原稿を書いてくると
「お前なあ、ここはFM局じゃねえんだよ」
と言って修正をしてもらうんです。
- 秀島
- FMしゃべり。
- 糸井
- そんなぼくが秀島さんを知ったのは、
FMラジオだったんですよね。
燃え殻さんという、
よどんだ川の隅で小説を書いているタイプの友人が
ラジオの生放送に登場するっていうから、
「どんだけ失敗するか聴いてやろうじゃないか」
と思って聴いてみたんです。
深夜にスタートするもんだから、もう眠くって。
ぼくは寝ぼけながら聴いていたんですけど、
ドブ川のシジミみたいな燃え殻さんを
上手に転がしてたのが秀島さんだったんです。
そのラジオで秀島さんの名前を覚えたので、
調べてみたらいろんなことなさっていた。
FMラジオに、たっくさん出ていますよね。
- 秀島
- はい、おかげさまで。
FMをちんまり代表させていただくと、
「FMしゃべり」については
すいません、としか言いようがないです。
- 糸井
- いやいや、代表しなくっていいってば。
- 秀島
- 糸井さんにうかがったお話を、
20年前のじぶんにぶつけてやりたいです。
- 糸井
- 20年前というのは?
- 秀島
- それ、新人の私でした。
- 糸井
- そうだったの(笑)。
- 秀島
- ええ、恥ずかしながら。
(つづきます)
2018-10-23-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN