わたしの言葉で書く、しゃべる。 秀島史香+糸井重里 わたしの言葉で書く、しゃべる。 秀島史香+糸井重里
「メモ魔です」と語る、ラジオDJの秀島史香さん。
プライベートでも、ラジオの生放送中でも、
思いついたことがあれば手帳やメモに
すぐに書き込んで頭に留めておくんだそう。
9月に銀座ロフトで開催したイベント
『書く!展』のトークイベントでは、
飾らない、本音の言葉のやりとりで
糸井重里とおおいに盛り上がりました。
「書く」ことから「しゃべる」ことへ、
テンポよく話題が転がるようすをおたのしみに。
全6回、銀座ロフトからオンエア!
ヤマザキマリさんのプロフィール
第3回
じぶんの言葉を探している
秀島
糸井さんの言う「FMしゃべり」を実際にやると、
1年、2年と経つうちに行き詰まるんですよ。
ああ、これは違うかもなって。
私は「秋ですね」というのを聴いて、
「FMラジオのDJってステキ!
こんな大人の女になりたいわ」ということで、
大学時代に憧れと勢いだけで門を叩いてしまい、
ラッキーなことにマイクの前に座れたんです。
「さあ、東京でオシャレFM DJライフが始まるわ!」
となるつもりが、理想と現実の乖離がありまして。
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糸井
ずいぶんと赤裸々ですねえ。
「FMしゃべり」がなぜ嫌になったかというと、
ラジオDJの手の内で転がされている気がしたんです。
女の子といえば必ず、秋にメランコリックになって
夏の恋の清算に思い悩んでいると決めつけてしまう。
みんなを一緒くたにしているのが嫌なんです。
「それではお聴きください」と言ったら、
その曲が来るだろうなって予測できちゃう。
曲に振るために言っただろう、って。
秀島
ああー、はいはいはい(笑)。
飛び箱の踏み切り板みたいに、
パーンっと飛ばせてくれるものですね。
糸井
そうそう。
秀島
私の新人時代は、モヤモヤモヤモヤしてまして。
「ほんとの私って何だろう」って、
行き詰まりと限界を感じてきたんですよ。
オシャレDJに憧れて、実際にDJになれたのに、
うまくできていない限界がやって来たんです。
「そもそも私、そっちじゃないぞ!」
ということにも、
場を用意してもらってからようやく気づいたんです。
そこから何とかしないといけないんで、
いっぱい書くことで、
じぶんの言葉を探すようになりました。
糸井
行き詰まっていることは、
誰にも相談できませんでしたか?
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秀島
いろんな本を読んだり、先輩に相談したり。
でも、相談のしかたから間違っていて、
「私、うまくできていないし、噛んでばかりだし、
とちってるし、全然オシャレじゃないです」
みたいな。
あるべき理想に勝手に縛られていたんでしょうね。
先輩からのアドバイスも、
「なるようになるよ。
じぶんらしさはいつか出てくる」
とは言われるんですが、
じぶんらしさを出そうともしていなかった。
きっと私、ビビっていたんですよね。
糸井
その頃の経験をじぶんの言葉として言えるまでに
成長するって、たいしたことですよ。
秀島
これまでいろんな出会いがあって、
いろんな番組を経験させていただいた結果、
「まあFMらしくなくてもいいよね」
というところに、ようやくたどり着けました。
つまり、「じぶんの言葉でしゃべれよ」
ということです。
私の若い頃のラジオを聴いていたかたは、
さぞ、もどかしかった思います。
リスナーさんが
一番わかっていらっしゃると思いますし、
新人だからって
大目に見てもらっていたんでしょうね。
じぶんの声をあとで聴き直してみると
完全にうわ滑っているんですよ。
もう、完全に人のものを
コピペしたようにしゃべっているんです。
もう、まったくもってダサかった。
糸井
そんな告白、はじめて聞きましたよ。
今の話は素晴らしいなあ。
あっという間にFMを好きになりそうです。
秀島
わあ、ありがとうございます!
お会いできた甲斐がありました。
糸井
FMと和解ができた気がします。
ふたり
(みんなの前で握手)
写真
会場
(拍手)
秀島
FMラジオを作っているみんなも
じぶんの言葉を探しているんです。
ディレクター、プロデューサー、ADさんもみんな、
じぶんだけにしかできないことや、
嘘がない言葉がないものかって、
みんな、みんな、探しているんです。
糸井
そうでしたか、みんな探していたんだ。
あの、今さら言いづらいのですが、
ぼくもFMの番組をやっていたことがあって。
秀島
あっ、そうそうそう! 私も覚えていますよ。
糸井さん、やっていましたよね?
糸井
FM『音の仲間たち』という番組で、
当時流行っているロックを紹介するんですが、
番組では、ぼくが勝手にしゃべってもいい時間が
わりとたくさんあったんですよ。
ただ、要所要所で台本を書いちゃう人がいて、
その人がもう「ロックの男!」みたいなタイプで。
「反抗してないものはロックじゃない」
みたいなフォーマットで生きている人間だった。
秀島
「とりあえず全部NOと言え」みたいな?
糸井
その人のやっていた反抗が、
オモチャみたいに見えたわけですよ。
その人が書いたバンド紹介が
台本に書いてあるけれど、
その文章が、まったくいいと思えなかった。
「俺はこれ読まないよ」って断っていました。
秀島
FMラジオのイニシエーションが
良くなかったんですね。
実際、FM界でも台本を渡されて嫌だと思ったら、
一行も読まない人もいらっしゃいますし、
「これは気に入らない」と投げ出す方もいます。
みんな、戦っているんですよね。
ただ、生放送の現場ではガラスの向こう側に
どんなお偉いスポンサーさんがいようが、
ディレクターさんやプロデューサーさんがいようが、
最終的な水門と言いますか
全部の出口になるのは私の口ですから。
この瞬間に出る言葉で伸るか反るか、
じぶんが勝負するしかないんです。
写真
糸井
勝負をして、クビになるかもしれませんよね。
秀島
ありえますよね。
毎回、じぶんの中での勝負があるんです。
「今日はこれを言ってしまえ」みたいな言葉は、
清水の舞台から飛び降りる感じで言うんです。
あらかじめ仕込んでおいた勝負の言葉を
「言っちゃえ!」みたいな場面で
さりげなく言ってみると、
聴いている人には意外と届いてくれるんです。
私の中での裏テーマというか、
小さな裏バンジージャンプをしていまして。
糸井
いいねえ、裏バンジージャンプ(笑)。
すごく古くさい言い方だけど、
ちゃんと心があってしゃべっていると、
あんがい相手も納得してくれるんだよね。
秀島
ラジオって声だけですからね。
文章なら何度も精査して推敲できますが、
話した言葉は消しゴムじゃ消せません。
その場、その場が、勝負なんです。
構成台本があって一言一句よどみなく
話す必要がある番組もありますが、
その一方で、3時間半まるまる生放送なのに
台本に曲だけが書かれていて、
「あとはどうぞ」っていう番組もあります。
糸井
ものすごくじぶんが出ちゃいますよね。
どうやったら上手になれるかとか、
ネタを仕込んでおこう、なんてレベルじゃ
3時間半って間に合わないですよね。
秀島
準備だけでは回りませんね。
メモとして手帳は置いていますが、
しっかりした台本みたいなものを用意するのは、
物理的にも人間的にも無理ですから。
糸井
じぶんがどうやって生きてきたか、
みたいなものが全部でますよね。
秀島
じぶんの歴史が出ます。
だからこそ怖いんですよ。
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糸井
ぼくは、だからこそ「秀島さんがいい」と
思ったんですよ、きっと。
秀島
あっ、ありがとうございます。
糸井
愛の告白かのようですいません。
燃え殻さんの真夜中のラジオを聴いていて、
ぼくは朝方に寝ぼけていたとは言いながら
「この子は誰だか知らないけれど、
じぶんの言葉でしゃべっている」と思ったんですよ。
秀島
わー、嬉しいです。
糸井
燃え殻さんは扱いやすい人じゃないですよ。
ヘタをしたら、いっしょにせまいところへ
スーッと入り込んじゃう可能性もあります。
そんな燃え殻さんの手を引いて、
みんなが聴いても大丈夫なように、
それでいて燃え殻さんも気分のいいように
誘導している女性がいた。
それが秀島さんだったんですよ。
秀島
どうしよう‥‥。嬉しいです。
糸井
文章を読んで「この人いいな」と思うのと同じように
しゃべっているのを聞いてもいい人は見つかる。
これがすごいと思ったんです。
写真
秀島
声というのは見えないぶん、
他の全部が閉ざされている感覚があるんです。
たとえば、「好きです」というにしても、
いろんな感情やニュアンスがありますよね。
本当に好きなときの「好きです」なのか、
言いよどみながらなのか、一拍置いてからなのか、
何十億人もの人が、何万という感情を持っています。
だからこそ借り物ではバレてしまいます。
もうね、「むき身」にならないとダメなんです。
糸井
それ、すごい場所にいますよね。
秀島
人間性もダダ漏れです。
裸になっていくしかないんですよ。
鎧を着ていたら、マイクの向こう側には
結局バレてしまいますから。
(つづきます)
2018-10-24-WED