「メモ魔です」と語る、ラジオDJの秀島史香さん。
プライベートでも、ラジオの生放送中でも、
思いついたことがあれば手帳やメモに
すぐに書き込んで頭に留めておくんだそう。
9月に銀座ロフトで開催したイベント
『書く!展』のトークイベントでは、
飾らない、本音の言葉のやりとりで
糸井重里とおおいに盛り上がりました。
「書く」ことから「しゃべる」ことへ、
テンポよく話題が転がるようすをおたのしみに。
全6回、銀座ロフトからオンエア!
笑顔で踏み出した第一歩
- 秀島
- 「こういう人が聴いてくれているんじゃないかな」
というふうに人物像をイメージすることで、
しゃべっている内容もすごく変わりますね。
- 糸井
- 変わるでしょうね。
- 秀島
- 私の新人時代、理想を追いかけていた頃は、
今思えば、だいぶ独りよがりでした。
私が聴いていたオシャレなDJさんの
理想像を思い浮かべていたのかもしれません。
送り手側にじぶんを重ねてしまったんです。
ラジオを聴いている人に対する想いではなくて、
間違った感情移入をしてしまったんですよね。
- 糸井
- ああー。
- 秀島
- でも、今こうしてラジオの仕事をしていると、
リアクションをたくさんいただくんです。
メールがリアルタイムで来て、
ツイッターで突っ込みもバンバン来ます。
「あっ、こういう人が聴いてくれている」
「こういう人がこんな言葉にこう返してくれている」
ということで、形取られていく過程が
生放送の間に必ず溢れてくるんですよね。
- 糸井
- たくさんの時間を積み重ねていくと、
聴いている大勢と自分も
ひとつのチームみたいになりますよね。
- 秀島
- 一緒に作っている現場感が
ラジオにはすごくあるんです。
- 糸井
- それ、「ほぼ日」でもありますよ。
ラジオほど生々しくはないけれど、
お互いに守り合っている気がするんですよね。
自分一人でやっている感があるときには、
「おもしろくないことがあったら、やめてやる」
ぐらいのことは言えたんだと思うんです。
たぶん、秀島さんもいい気になっていたときには、
「私もうこんなのやってられないわ、やめる」
みたいなことを、言えたと思うんですよね。
- 秀島
- いやあ、それだけの度胸があるかどうか。
- 糸井
- あるいは失恋をしてムシャクシャしているときとか、
自分だけのこととして判断できたと思うんです。
でも、ラジオを聴いている人だとか
手伝ってくれる人が増えてきて、
チームとして大きくなってくると
自分も「このチームの一部だ」と思うようになる。
- 秀島
- そうなんですよね。
ラジオ番組を続けていると、
その場に、その時間だけ同じベンチに集まっている
「寄り合い」みたいな感覚になってくるんです。
待ち合わせ場所のようでもあり、
部室のようでもあり、
みんなが集まってくる場所なんです。
- 糸井
- 行かないと悪いな、となるんですね。
- 秀島
- そうなんですよ。
「あれ? あの人、今日来てないね」
みたいなことになると話も始まりません。
- 糸井
- インターネットに比べたら
ラジオのほうが生々しいでしょうね。
声で付き合っているというのは、
より肉体感がありますから。
- 秀島
- 声というのは鼓膜を直接振動させて、
ダイレクトに体に入っていきますもんね。
- 糸井
- 音波によって触られているわけだ。
- 秀島
- 触れられているものだからこそ、
1対1のコミュニケーションでもある感覚は、
ラジオリスナーのひとりとして
私の実体験としても記憶にあります。
小学6年生の頃に家族でアメリカに引っ越して、
「言葉がわかんない。明日も学校だ。
友だちができない、どうしよう」
というときにラジオを聴いていたんです。
隣でしゃべってくれている、
誰かが起きている、いっしょにいる。
あの感覚がすごく気持ちよかったんです。
- 糸井
- 外国に急に行くことになって、
ものすごく孤独に感じたでしょうね。
- 秀島
- 孤独でしたねえ。
学校に行っても誰ひとり相手にしてくれなくて。
「ハーイ!」って陽気に話しかけてくる人もいない。
私が思っていたものとは違ったんです。
日本でいう小学6年生、
アメリカだと中学1年生の頃ですね。
- 糸井
- ああ、難しい年齢ですね。
- 秀島
- やっぱり多感な時期なんですよ。
みんな、学校内でのポジションづくりに必死で、
「俺、カッコいいグループに入りたい」
「私もイケてるチアリーダーチームに入りたい」
みたいな感じでしたから。
日本からやってきた、黒い髪、黒い目の
一言もしゃべらない女の子の
面倒をみている場合じゃなかったんです。
いつまでたっても状況は変わらなくて、
私もさすがにマズイなと思いました。
ちっちゃいことからでも自分から働きかけないと、
未来永劫このままだって気づいたんです。
- 糸井
- そのちっちゃい一歩で
何をしたか覚えていますか?
- 秀島
- まずは普通に、笑顔からはじめました。
- 糸井
- はああ、笑顔でしたか。
- 秀島
- 言葉もわからないし、とにかく笑うことから。
当時の写真を見ると
緊張でこわばっているような表情ばっかり。
怖い顔をしているつもりはなかったのに、
何ひとつ表情筋が動いていませんでした。
- 糸井
- はあー。10歳そこそこの少女が、
笑顔で一歩を踏み出したわけですね。
- 秀島
- 今になって思えば当たり前のことですが、
相手の顔を見て笑顔になることが
私にはすごく大きな発見でした。
本当に、小さなことですけれど。
- 糸井
- こういうときは楽天的でいたほうがいいんですよね。
相手が自分のことを大嫌いだって思いすぎていたら、
笑顔でいると「笑ってばかりで気持ち悪いやつだ」
と袋叩きに遭うような想像もできますよね。
- 秀島
- たしかに想像できますね。
「きっと、大丈夫だ。受け入れてくれる」
ぐらいに思っていたほうがいいと思います。
同じような経験が大人になってからもあって、
一昨年に1年間、夫の仕事の関係で
ベルギーに住んでいたんです。
- 糸井
- ベルギーに1年間。
- 秀島
- ベルギーもとてもいいところでしたけれど、
フランダース地方なので、
いわゆるフラマン語をしゃべる地域だったんです。
英語なら話せるし理解できるから大丈夫ですが、
英語とまったく重ならない言語だったんです。
じゃあどうやってコミュニケーションを
とろうかって考えたら、子どもの頃とまったく同じ。
とってもシンプルなんですけど、
口角を上げることしかまず始められなくて。
- 糸井
- うん、うん。
- 秀島
- たとえば、向こうから知らない人が歩いてきて、
私もこちらから歩いていきます。
さあ、お互いを確認したら、
「どっちが先に笑うかゲーム」のはじまりです。
知らない東洋人の女が歩いてきただけで
警戒されていることは肌で感じるんです。
いろいろな思想を持っている方がいるし、
外国人に対してもみんながみんなオープンかといえば
残念ながらそうでない方もいるわけです。
お互いに、肌の色も目の色も言葉も違います。
でも「どっちがステキ?」で比べるなら、
先に笑ったほうが人として余裕があると思うし、
「あなたを受け入れてますよ。
もちろん敵意もありませんし、友好的な人間ですよ」
というふうに伝えるつもりで、ニコッと。
- 糸井
- 先に相手を信じちゃう側になるんですね。
- 秀島
- そう、そうですね。
心の余裕って、人に対する余裕と
直結しているんですよね。
自分がアワアワしているときって、
なかなか優しくなれないですもん。
- 糸井
- 子どもの頃の経験が、
大人になって活かされたわけですね。
- 秀島
- そうですね。
たぶん日本では体得できなかったと思うんです。
言葉が当たり前のようにわかって、
価値観として同じものを共有しているので。
- 糸井
- そろそろ終わりの時間になりましたけど、
「書く」という話なんか
ちっともしませんでしたね(笑)。
- 秀島
- あはは、そうですねえ。
- 糸井
- ぼくはこれでいいと思うんです。
つまり、「書く」という話の一部ですよね。
そのー‥‥。
- 秀島
- 今日の話をみんな、
おうちに帰って書けばいいんだ!
- 糸井
- ああ、そうだね。
あのーみんな、
書くっていいよね?
- 秀島
- 糸井さん、いまのFMっぽい(笑)。
- 会場
- (笑)
(おわります)
2018-10-27-SAT
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN