「メモ魔です」と語る、ラジオDJの秀島史香さん。
プライベートでも、ラジオの生放送中でも、
思いついたことがあれば手帳やメモに
すぐに書き込んで頭に留めておくんだそう。
9月に銀座ロフトで開催したイベント
『書く!展』のトークイベントでは、
飾らない、本音の言葉のやりとりで
糸井重里とおおいに盛り上がりました。
「書く」ことから「しゃべる」ことへ、
テンポよく話題が転がるようすをおたのしみに。
全6回、銀座ロフトからオンエア!
相手の気持ちを考える練習
- 糸井
- 秀島さんだったら、
苦手な相手と話すときはどうしますか?
- 秀島
- 私も年齢を重ねるにつれて、
人には人の事情があるというのが
よく分かるようになってきました。
その人の事情で言っていることもあるし、
私にも私の事情はあるし。
すべてがぴったりと重なることは、
この地球上を探してもあるわけがないので。
どちらかが「はい」と折れることで、
ようやく平和になっていくんじゃないでしょうか。
ミクロでもマクロでもそうだと思うんですけど、
どちらかが大人になることで
進むことがあるのかなって思います。
- 糸井
- そこに至るまで、
よく考えられましたね。
- 秀島
- この手帳のおかげですよ。
- 会場
- (笑)
- 秀島
- せっかくの壮大ないい話が、
前説みたいになっちゃいました。
- 糸井
- 今の話を、もっと嘘くさくもしゃべれるんですよ。
同じ内容をFMラジオで話して、
「結局、相手にも都合があることですしね。
それでは次の曲をどうぞ」
ともできるわけです。
それなのに、そうじゃないんじゃないかなと
思わせる何かがあるんです。
それはまさしく、心が見えているから。
- 秀島
- ありがとうございます。
- 糸井
- 秀島さんの話で思いだしました。
ぼくは、相手のことを考える練習として、
こんなことをしているんです。
- 秀島
- なんでしょう。
- 糸井
- たとえば、ボクシングのテレビ中継があって、
日本人ボクサーVSメキシコ人ボクサーの
試合があるとするじゃないですか。
- 秀島
- ええ。
- 糸井
- そのときに「日本人を応援する」と
はじめから決めていませんか?
- 秀島
- いつもそうしていますね。
- 糸井
- 同じ国の人だから、そうなりますよね。
だけど、メキシコに住んでいる人たちは
メキシコ人を応援しているんですよ。
だから、ぼくたち日本人が
「メチャクチャにしてやれー!」
なんて言ったらメキシコ人は怒りますよね。
- 秀島
- はい。
- 糸井
- 相手側のパンチが当たったときには
「イテッ!」と思う見方をしていて、
日本人のパンチが当たったら
「いいぞ!」って思うように見てしまいます。
それをなんとかして、
じぶんをメキシコ人にする練習なんです。
- 秀島
- ほおー。
- 糸井
- やってみるとわかりますが、これが難しい。
「ここからはメキシコ人になるぞ」と切り替えても、
今まで敵だと思っていた人を応援するんですから。
日本人にパンチが当たってのけぞると
「やった!」とは思えないんですよ。
でも、相手の気持ちになって考えるには
どうしたらいいんだろうって思いがら見ていると、
ちょっとだけ、かするときがあるんですよ。
- 秀島
- 「あれ今、オラ、アミーゴって言ったぞ」
みたいな瞬間がやってくるんですね(笑)。
- 糸井
- そう。アミーゴ、いい言葉ですね。
これがチェコ対スペインの試合なら
見ていてもなんでもないのに、
じぶんの国だと対応できないんですよね。
やってもやっても追いつかないんですけど、
いい練習にはなりますよ。
で、その応用問題は、
格闘技じゃなくてラブシーンなんです。
- 秀島
- ラブシーン?
- 糸井
- ラブシーンで女になるんです。
- 会場
- (笑)
- 秀島
- ちょっとそれは難しくないですか(笑)。
- 糸井
- めっちゃくちゃ難しいですよ。
ただ、そっちのほうが
ボクシングより簡単なんですよ。
- 秀島
- へえ、そうなんですか!
- 糸井
- つまり、男側としての経験があるから。
- 秀島
- ああ、なるほど。
- 糸井
- たとえば、男性が女性の肩をつかんだら、
男の手のひらに相手の型が残っていますよね。
- 秀島
- はい。
- 糸井
- 凸の側にじぶんがいたことで、
凹の側もあったんだとわかるわけです。
だから、じぶんがされたらどう感じるか、
少しは想像できるはずなんですよ。
- 秀島
- ああ、なるほど。
「アクション」と「リアクション」で
ひとつの半分は達成しているんですね。
- 糸井
- そう、つまりは作用と反作用なんです。
ボクシングはしたことがないから難しいけれど、
ラブシーンなら、まだマシ。
「壁ドン」みたいなことも想像してみると、
壁ドンをされた側っていうのは、
ちょっと被害者じみたインパクトが
あるだろうなと思うんです。
「うわあ、抵抗できない」っていう気持ちと、
そんな力を持った人が口説いてくれていることで、
「壁ドン、ステキ」となるわけですよね。
- 秀島
- うん、うん。
- 糸井
- ぼくなんかは壁ドンをしたことないから、
「この人は何が頼りになるんだろう」って
疑いを持たれちゃうわけですよ。
だけど、壁ドンをする人は、
「この俺に任せとけ!」という
宣言をしているようなものですよね。
- 秀島
- あははは、勝利宣言ですね。
- 糸井
- ラブシーンをちょっとでも練習してみると、
痴漢がどれほど怖いかがわかるんです。
- 秀島
- あ、痴漢にまで話が展開するんですね。
- 糸井
- 男の中には「そのくらい、いいじゃない」
みたいなことを思っているバカがいるんですよ。
でも、女性の心になって得た経験が頭にあれば、
どれだけ怖いかがわかるはずです。
電車の中でねじ伏せるあてのない私が、
後ろから来る人に狙われている‥‥。
それはもう、ほんとに怖いと思うんですよね。
- 秀島
- そうですね。
ちょっと意識を飛ばしてみるだけでも、
練習できることですよね。
「今日の帰り道に、あの人になってみようかな」
みたいなこともできそうですし。
- 糸井
- できますよね。
(つづきます)
2018-10-26-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN