神様をさがしに。  ~高尾山の巻~  どうか、神様! と、願いをかけるとき‥‥ 我々はいったい どこに呼びかけているのでしょう。 おやしろの中に? それとも、天に向かって? それとも、自分の中の奥の底? * 神様の居場所をさがしに、 おかしな一団が ぷらりと旅に出ることにしました。
第8回 登頂。
目的地であった高尾山薬王院を経て、
めざすはそうです、山頂であります。
午後の登山は、油断していると
夜が追いかけてくるのです。
さあ、急ぎます、一歩ずつ。
── とりあえずいま、
高尾山薬王院の奥までは来た、
ということですね。

左に行けば山頂、
右に行けば、我々の
集合解散場所である高尾山口。
オイカワ ちょっと日が
かげってきましたけど。
ハタナカ だけど、どうです?
頂上は‥‥やっぱり、行かなきゃね!
── リーダーがそう言うなら。
ソブエ わーい!
オイカワ 登り続けましょう。

山頂までの道を進みます。
「すごい木がまたあったねぇ」


だんだん山登りっぽい
道になってきました。
左右の木の根っこが、すごいですね。
オイカワ ここ、雨でぬかるんで、
すべりやすいですよ。
── わっ。
ソブエ わっ。

昨日の雨で、地面がやわらかくなっています。
ハタナカ いま、見本のようにすべりましたね?
ソブエ 手が、グルングルン回ってましたよ。
オイカワ まんがみたいでした。
── けっこう歩きましたよね。
ハタナカ きっともうすぐです。
オイカワ ほら、看板も
片方向だけを
指し示すようになりましたよ。

もうあとには引けません。
── 祖父江さん(ハーハー)、
その革靴。
ソブエ けっこう(フラフラ)、
どろんこになりましたねぇ。
── 頂上付近まで来て
改めて思うのですが、
ソブエさんの手さげかばん姿は
「ご近所を歩いてたと思ったら
 急にワープしてしまった
 トワイライトおじさん」
のように見えます。

迷い込んだ人。
オイカワ 頂上、もうすぐかな(フゥフゥ)。

あの光の向こうに、頂上が?


めざせ、頂上!
── 天狗焼き以来、何も食べてませんから、
いくらなんでも
おなかがすきましたよね。
ソブエ そうだね、
そろそろぼくらも
何か食べてもいいころだよね。
ハタナカ 頂上にはレストハウスとか
ありそうですね。
オイカワ 食堂みたいなのが、
きっとありますよ。
── 私には、あの建物の看板が
「やまびこ茶屋」と読めます。

よっ、やまびこ茶屋!


閉まってる!
全員 わああああああ。
ソブエ でも、着いたんじゃない?
頂上に。
── ほんとだ! 気づけば頂上だ。

わーーーーい。
ハタナカ みんなで、記念撮影しましょう。
オイカワ ぼくは、写真にうつるが苦手なので、
ぼくに撮らせてください。

みんながんばりました。
撮影:及川賢治


「シェーッ!!」のポーズは
ソブエさんがいちばんうまいですね。
ハタナカ 富士山が見えるかどうか、
頂上の向こうのほうに行って
ちょっと確かめてきます。
── この天気じゃあ、どうでしょうね?
(その場を動かない)
ソブエ そうだね、富士山はね?
(その場を動かない)
オイカワ 見えたら教えてください。
(その場を動かない)

せっかくの頂上だけど、
お弁当は持ってないし‥‥。
── ジュースでも飲んで、
まぁ、ゆっくりしましょうか。
オイカワ あ‥‥あれ?
ソブエ ちょっと、来た?

ポツリ、ポツリと
空から恵みの雨が。
ソブエ カッパ着ようっと。
── 空は明るいから、
すぐにやむかもしれませんよ。
オイカワ しまった、ぼくは
雨具ゼロです。どうしよう。
── きっと大丈夫ですよ。
オイカワ そうかなぁ。
── ああ、(空を仰ぐ)
頂上は空が広いですね。
ソブエ ウーゥウーウーーーウーーー。
(歌ってる)
── ソブエさん、
何をなさってるんですか?
ソブエ アリを捕まえてます。

高尾山の頂上で
地面にはいつくばる巨匠、祖父江慎。
ソブエ あ、あ、あづい‥‥。
ハタナカ このくらいの雨だったら、
カッパは脱いだほうがいいですよ。
暑くてしょうがないから。
オイカワ あ、ハタナカさん、おかえりなさい。
富士山はどうでした?
ハタナカ やっぱり見えませんでした。
晴れた日に、
もっと早い時間帯に、
もういちど来たいなぁ。
ソブエさんは、何を?
── アリを捕まえています。

これは、公園でアリを捕まえるこどもを
携帯メールを打ちながら待つおかあさん、
ではなく、高尾山山頂でのできごとです。
ハタナカ 頂上を去るのは名残惜しいですが、
アリもあきらめてもらって、
もうそろそろ‥‥。
オイカワ 雰囲気が怪しくなってきましたし。
── ええ、雨が
だんだんふつうに降ってきましたし。
ソブエ じゃ、あそこに
ちょうどいい家があるから、
泊めてもらおうよ!

ちょうどいい家。
オイカワ うゎぁ‥‥(怖)!
── みなさん、下山しましょう!
しかし、私は
この頂上に着いたヨロコビを
「ただいま製作中!」
アップさせてください。
ソブエ じゃあぼくもTwitterしながら、
降りていこっかな。
ハタナカ 下りは足もとがすべりますから
気をつけて。

「水たまりに気をつけてください」
と言っております。
── ソブエさん、まだTwitter中ですか。

「うーん‥‥」
(携帯でTweet中)
ソブエ ‥‥携帯で打ったり送ったりするのって
慣れてないから
うまくいかないじょ~。
── 階段とTwitterは
両立しないと思います。
しかも何だか急激に
暗くなってきてませんか?

ほんとに、もうやめたほうが‥‥
ソブエ 日当たりのかげんかな。
あっちのほうは
明るく見えますからね。

木の向こうは明るいので、という
根拠なき大丈夫さで
自分たちの心を支えます。
オイカワ さっきのお堂に続く階段は
フェンスが閉まってますね。
「夜間は立入禁止」だそうですよ。
── もう「夜間」なんですか?

あらゆる扉は閉まっております。
 
(つづく)
2010-10-01-FRI