みんなはこの「昭和」の リアリティはどうだった? |
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僕はこのお話の終わりごろが ちょうど生まれた年なんですよ。 昭和37年生まれなんです。 |
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じゃあ三谷さんと同じぐらいですね。 |
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三谷さんは昭和36年生まれですね。 |
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あ、じゃあ結構リアル? |
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そのお妾さんみたいなところは まわりにいなかったから知らないけど。 |
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ぼくは昭和41年生まれなんだけど、 伯母‥‥母の姉で、一家の長女である 大正生まれの伯母が、 まさしく柴咲コウちゃん演じる 政子のような人生だったんです。 |
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お。 |
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うーん! |
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一生それで暮らした人です。 まだ存命ですが、 今は、あの、介護施設に入って とってもニコニコして 暮らしています。 |
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写真を見せてもらったことがあるんですが とてもきれいなひとですよね。 |
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だんなさんになる人とは、 大陸で出会ったんです。 |
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大陸で、っていうのがもう時代でしょ。 |
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上海とか、満州とか? |
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大連とか? |
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満州でとある大会社の支店長と 恋仲になるんですけど、 彼には日本に妻と子供がいたんですよ。 ですが、きっと、 そういう時代だったんですね、 男に甲斐性があり、 うちの伯母はそれをよしとした。 で、まだちいさな妹や 弟たちもいたんだけれど 私はこういうふうに生きるからと宣言して ほんとにその通りに生きた。 そういう人が僕の大好きな伯母におりました。 なので、ある意味、このものがたり、 すんなり、とてもすんなり 受け入れました。 |
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わたしもその伯母さまにお会いしたんだけど、 ほんとうにチャーミングな人だった。 美人なのになんで結婚しないのって みんなに聞かれちゃうから、 いいなずけが学徒出陣で死んじゃったのよ、 でもわたしは待っているのって、 そういう方便をね(笑)、考えて、 話しているうちに。 |
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だんだんそれがね、 自分の中で本当になっちゃって、 『聞け、わだつみの声』とかをね、 終戦記念日にテレビで特集とかすると、 「ああ、あの人は今、どこにいるのかしら」 って、ボロボロボローっと 泣いたりする(笑)。 |
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「ちょっと現実と想像の 区別がつかなくなっちゃってさ、 泣いちゃうのよねー!」なんて。 |
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えー! |
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ぼくがおじさんと呼んでいた人は 人のいい人でハンコ1つで失敗して、 東京から離れた片田舎に引っ越すんです。 のちに政治方面の人となって、 子供たちを立派に育てる。 正妻さんがお亡くなりになったとき、 その子供たちは、うちの伯母に 後妻さんにぜひ来てくださいと お願いしたんだそうです。 親父1人で田舎暮らしは困るだろうからと。 でも伯母は プライドがあったので断ったんですよ。 |
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へえー。 |
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私はそのために 今まで待ってたわけじゃありませんと。 |
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あー。 |
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でも懇願されて、 じゃあお手伝いとして 入りましょうと言って、 住み込みという名目で いっしょに暮らしはじめるんです。 おじさんは「籍を入れてやるぞ」と、 そういう言い方するんですね。 言うんだけど、最後まで断って。 |
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へえ、かっこいい。 |
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かっこいいでしょ。 後で伯母に聞いたらね、 まさか一緒に暮らせるとは 思わなかったって。 とても嬉しかったって。 |
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うーん。 |
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ところがすぐおじさんが倒れるんですよ。 |
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あーっ。 |
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骨折、入院、退院繰り返して、 酸素ボンベを横に置いての暮らし。 山を降りたところに病院があって、 そこと行き来して、亡くなるんですね。 で、でもね、まさか自分が 看取れるとは思わなかったって言ってた。 |
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あー、いい話だ! |
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やっと自分のものになったのかもって そのとき思ったらしいんですけど。 |
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ああ、なるほど。 |
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まあ、そんな伯母がおりまして。 彼女も、気丈で、そしてとても明るい人。 政子さんのように。 |
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そう、政子さん、 ひじょうに明るいですよね。 |
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家族も全員明るいのね。 |
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あの、裏で生きる‥‥、何て言うの、 裏といったらあれだね。 |
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日陰? |
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そう、日陰の身って言うじゃないですか。 |
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うん。 |
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でもね、実際は、 僕がこの柴咲コウさん演じるお妾さんに ものすごくリアリティを感じるのは、 その伯母のほんとうに根っから明るい性格と 自分の運命をまるごと受け入れたおっきな器量が ものすごくリンクしたからなんです。 |
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ねえ。 |
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伯母さま、崖の上の、ちょっと傾いたお家が、 旦那さんを看取られたところなんですよね。 |
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そうそう。 |
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わたしがお会いしたときも そこに住んでらっしゃって、 すごい危ないし、 崖上ってかなきゃいけないし、 引っ越したらどうですかって みんなが言ったんだけど、 あたしはこの家と一緒に 落ちてもいいんだよって、 すごい真顔でおっしゃってた。 |
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ああ‥‥。 |
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えー、素敵。 |
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すごいなあと思って。 |
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でもやっぱり、その、よっぽどの、 家が落ちてもいいのよって言うぐらいの 覚悟がやっぱり要るんですね。 |
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まだ女学生だったような弟、妹たちの前で、 一流の会社に勤めている長女が、 私、一生、お妾さんでいくからねって 宣言したんだものね。時代かな。 |
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時代だし、相当な覚悟ですよね、 やっぱりもう。だから籍も、 入れてやるって言われても。 ‥‥すごい。そんな覚悟を、 あなたは今持って 何かをしていますかって感じ。 |
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全員 |
(笑)。 |
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すっかりうちの伯母の話になりました。 話を八女家に戻しましょう。 |
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(つづきます!) |