月日がたち、
自分は11年間続けてきた柔道人生にピリオドを打ち、
23歳でRINGSという団体に入門し、
総合格闘技という新たな世界に足を踏み入れました。
総合格闘技というのは柔道やレスリングなどの投げ技、
ボクシングやキックボクシング、
空手などの打撃技、
柔術やサンボなどの関節技、締め技といった、
いろんな格闘技の技を取り入れて試合を行います。
ただ、そうはいっても
道着を着て試合をする訳じゃないので、
今まで柔道で培ってきたものは役に立たないと、
あきらめていました。
しかも柔道と打撃技とは構えからして逆だったのです。
柔道だと右構えは右手右足を前にして構えるんですけど、
打撃技の場合は左手左足を前にします。
でも今さら長年慣れ親しんできた構えを逆にするのも
いやだったので、打撃は左、いわゆるサウスポーで
自分は覚える事にしました。
「何で逆になるんやろか?」
その答えも見つからないまま、
毎日ひたすらサンドバッグに
パンチ、キックを打ち込む日々が続きました。
1練習生だった当時の自分は、
練習と炊事掃除洗濯等の道場の仕事で手一杯で、
その事を詳しく考える余裕なんてなかったのです。
それから6年後、自分はRINGSの中でも
メインを任されるぐらいの存在になっていました。
更にアメリカに渡ってUFCという
アメリカの総合格闘技の草分け的存在の団体にも
参戦していたので、
自分に課せられた責任とプレッシャーで
段々カラダが悲鳴を上げ始めてもいました。
そんな状態でのある試合中、
自分はついに左肩をこわしてしまい、
試合はおろか、しばらくは車のハンドルすらも
握れない様な状態になってしまったのです。
練習を再開できるようになるまでに
5ヶ月もの時間がかかってしまいました。
しかしそれでも完全には元通りになりません。
今後、大丈夫な方の右腕をメインに使って
試合をしていくためにはどうしたら良いのか。
考えた末、打撃の構えをオーソドックスに変えることを
その時決意するのでした。
構えを逆にすることは、
最初こそ戸惑いがありましたけど、
そんなに難しいことではありませんでした。
自分はもともと右利きなので、
右手右足で打撃を出す方が自然で無理がなかったのです。
そしてある日、覚えたばかりの
右ストレートの練習をしているとき、
カラダの使い方が何かに似ているなと感じました。
そして、どうしても気になったので
練習を中断して考えてみたら、
柔道の大外刈りという技にそれはそっくりだったのです。
「そうか、柔道は確かに最初の構えでは
右足を前に出してるけど、
大外刈りをかけるときは
左足で踏み込むから左足が前になって、
右ストレートみたいな感じになるんやな」
そこに気がついた瞬間、練習生時代に感じていた疑問や
今まで感じていたぎこちなさのわけ、
柔道時代に感じた奇妙な現象等の理由が
一気にわかるようになり、
それまで霧がかかっていたようだった頭の中が
きれいに晴れていくのを実感しました。
それからの自分は、常に
“カラダをどう使えば良いか”という事を考えながら
練習をしていくようになります。
そうすることによって技や動きが
今までよりもより自分にあった形にすることができ、
実際の試合でも違和感なく使えるようになっていきました。そして、その作業を何回も繰り返していくうちに、
いくつかの法則を知りえるに至ったというわけなのです。
さて、長くなりましたがここからが本題です。
格闘技の動きが全部つながっていることはわかった。
でも他の競技ではどうなんでしょうか?
競技だけじゃない、世の中にはカラダを自在に操らなければ
成り立たないモノがいっぱいあります。
テレビをつければ必ず誰かが
踊り、走り、回り、跳び、などなど、
めまぐるしく動き回っています。
そして、それらの動きを
自分が“知った”カラダの使い方の法則に当てはめると、
ほとんどのものを理解することができます。
という事は、そこは格闘技云々関係なく、
全部共通している部分があるんじゃないかと
自分は思うのです。
でも、今目の前で動いている人たちは、
自分と同じようにそれを“わかった”上で
やっているんでしょうか?
もしそうだとしたら、いつ、どうやって、
どのようにしてそれを“知った”のか?
それらの疑問を解き明かしていくためにも、
様々な職種、業種の方々とお会いして、
それぞれの“カラダの使い方”論を
聞いていかなければいけないと思ったのです。
さて、次回から、いろいろなプロのかたに
取材をしていきます。
第1回目のゲストは、「ほぼ日」でもおなじみ、
おそらく日本で一番多忙なドラマー、
沼澤尚さんをお迎えします! |