糸井 |
前川清さんの歌で
「恋唄」というのがあるんですけど、
ご存知ですか?
阿久悠さんの作詞なんですが
それを歌っていいでしょうか。
|
都築 |
ぜひ。
|
糸井 |
この歌、阿久さんにしては
さっぱりしてるんですよ。
それが逆に、本気っぽくて
いやらしい。
|
THE KARAOKE 6♪
「恋唄」内山田洋とクール・ファイブ
|
糸井 |
(歌唱中)
「だけどー帰るーあなたー‥‥」
|
|
都築 |
これは「家に」ってことですよね。
|
みうら |
つまり、本妻のもとへ。
|
糸井 |
(歌詞のテロップを指さしながら)
「心からそう思うー
‥‥はかないだけの恋唄」
|
|
都築 |
心からそう思う。
なかなかさらっとした感じですね。
|
糸井 |
(間奏)
心からそう思う。
そんな歌詞、ぼくらには作れないですよ。
|
田島 |
時間がなかった、
みたいな感じをわざと‥‥?
|
糸井 |
これね、理由がわかんないんですよ。
「人前でくちづーけーたいと」
|
みうら |
また、心から思うんだ。
|
糸井 |
「心からそう思うー」
この歌詞はちょっと
書けないでしょう。
|
都築 |
これは、クラブで飲んでて
ママから聞いた話を書いた、
というような感じもします。
|
|
田島 |
あらすじっぽい感じが
妙にいいですね。
|
糸井 |
阿久さんは、
たまにはこういうのもいいかな、
と思って戦略的に作ったのかもしれない。
だけど、逆に
「そっちが阿久さんじゃないの?」
というようなものになってると思うんですよ。
|
みうら |
歌に説得力がありますね。
|
糸井 |
うん。
この歌をね、鮎川誠さんが
「後楽園の母」という映画の中で
歌ってるんです。
|
都築 |
へぇえ。
|
糸井 |
水道橋の駅かどこかで
かばん持って酔っ払って
「くちづけたいと〜」
って、わざとヘタに歌うシーンなんですが、
すごくいいの。
それで、改めて前川さんの「恋唄」を
聴いてみたわけです。
そしたら、やっぱりすごくて。
|
|
都築 |
だけど‥‥この歌、
難しいですよね。
こういう難しい歌を、
田舎のスナックとかで
とてつもなくうまく歌うじじいとか、
いまして。
|
糸井 |
歌ってるよね。
|
都築 |
すごいなと思います。
地方のほうが、
カラオケのレベルは高いです。
まぁ、そこしか行くとこがないからかも
しれないけど、
そういうのを見ると、
音楽の広がりってすごいなぁと思います。
|
みうら |
音楽との「出会い」というか、ねぇ。
|
糸井 |
うん。田島さんに、ぜひ、
いつか歌ってほしい。
|
田島 |
いや‥‥あの、
前川清さんが「恋唄」を歌うと、
どういうふうに聞こえてくるのか、
改めて聴きたいです。
「そして、神戸」も、前川さんだから、
あんな意味合いに聞こえるんですけど、
普通の人が歌ったら、
あれはわけわかんないと思います。
|
|
糸井 |
うん。
あんなふうに「ただ歌ってる」ふうに見せて
じつはそうじゃない。
|
田島 |
あのサビの、
絶叫みたいな感じで歌う
空虚さというのが見事に出ています。
あそこ、サラッと歌ったら、
何の歌かわかんないですよ。
|
みうら |
そんなに抑揚をつけてるように
見せてないのにね。
だけど、「恋唄」の
人前でキスしてる奴については、
いくら前川さんでも、ぼくは腹立ちます。
|
|
糸井 |
もしかしたら、なんだけど、
あそこは阿久さんの
ただの素直な気持ちも
あったかもしれないね。
それが、ポンと出ちゃったの。
「大阪で生まれた女」、
みんな、好きで歌うでしょ?
|
みうら |
BOROですね。
|
糸井 |
あれは全体で、
「出ちゃった」の歌だよね。
|
都築 |
ほんとにね、
ちょっと神様が降りちゃったのかな、
というくらいの。
|
糸井 |
うん。
そういうのをちゃんとみんなが
「いい」ってわかって歌ってる。
そういうよろこびって、ありますよねぇ。
阿久さんの「恋唄」も、
そういう偶然性だと思います。
ふと何かが出ちゃうような、それは
油断と言っていいものかもしれません。
それが、いい歌を作った。
|
田島 |
なるほど。油断か‥‥。
|
|
糸井 |
油断というのは、
まぁ、俺らもそうですけど、
モテたいなぁ、とか
こんな女がいたらなぁ、とか、
おまえらはいいよなぁ、とか、
思っていることがふと出たりするんです。
阿久さんは、あれだけの数、
歌を作っていらっしゃいます。
あの歌の数々、
ひとつずつすごいですよ。
|
みうら |
やっぱり歌謡曲と(松本)清張さんは
通じるものがあるのかなぁ。
世間に対して思っていることがまずあって‥‥
そら、童貞にはわからない世界ですよ。
|
糸井 |
そうだよね。
|
一同 |
(笑)
|
|
みうら |
無理。
無理です。まったくわかんなかった。
|
糸井 |
例えば、大人が
手に入るものは全部手に入ったとする。
だけど、その人が
青年のときにもてたかった、ということは
手に入らない。
|
都築 |
そうですよね。
一生、入らない。
|
みうら |
どんなに嘆いてもね。
|
糸井 |
それが「本気なんだ」という、
心なんですね、きっと。
(つづきます) |