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永田 |
ショートプログラムが終わったとき、
荒川選手は3位でした。
これは、事前の予想よりも
高かったということでしょうか。 |
刈屋 |
いまのフィギュアスケートの採点というのは
予想できる部分とできない部分があるんです。
少し専門的な話になりますが、
まず、フィギュアのいまの採点方式というのは
大きくふたつに分かれます。
ひとつは、テクニカルエレメンツという第一採点。
これは、技術を評価する部分で、
ある程度、事前に予想することができます。 |
永田 |
いわゆる、技の点が足し算になっていく部分。 |
刈屋 |
そうです。
ジャンプとかステップとかに
それぞれ基礎点がついているんですね。
その基礎点がついている技を
ひとりひとりのジャッジが
「これは3回転」「これは2回転」
というふうに判断するんです。
たとえば3回転だったら「7.5」とか
基礎点がついてるんですね。
それを10人のジャッジが
「あれは3回転だけど、いい質だったから、
プラス2だ」と評価したとします。
そうすると、7点が9点になるんですよね。 |
永田 |
うんうん。 |
刈屋 |
でも、
「あれはちょっと質がわるいからマイナス2」
と評価したら、その3回転は5点になるわけです。
そこでもう4点の差が出る。 |
永田 |
同じ3回転を跳んだとしても。 |
刈屋 |
そういうことですね。
そうやってそれぞれの点をつけた合計得点が
テクニカルエレメンツという第一採点になる。 |
永田 |
うんうんうんうん。 |
刈屋 |
そして、それとはべつに、
プログラムコンポーネンツという
第二採点があります。
これは、芸術点をみるもので、
スケーティング技術や音楽との調和、
技と技のつなぎのスケーティング、
振り付け、演技力という5つの要素を、
10点満点でそれぞれのジャッジが
評価していきます。
これが意外と曲者で、公平なようですが、
やっぱりジャッジの主観が入るんですね。
この主観が入るところが、
大きく勝敗を左右するんです。 |
永田 |
はい、はい。 |
刈屋 |
第二採点のなかで、とくにカギを握るのが、
5つの要素のなかの最初の項目、
「スケート技術」なんです。
じつはこの項目がきわめて重要で
「スケーティングの技術が低い」というふうに
ジャッジに評価された選手の点は
最終的に、上がらないんです。
つまり、スケーティングそのものの
レベルが低いという判断になってしまうんです。
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永田 |
ええと、それは具体的には
どういうところを見るんでしょうか。
たとえばブレードの両側を使っているかとか?
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刈屋 |
そうですね。
エッジワークがうまいかどうか。
インエッジ、アウトエッジに
しっかりと乗っているかどうか、
氷にエッジがしっかり食い込んでいるか、
そういうスケーティングそのものを評価する。
ですから、最初の項目の
「スケート技術」で点数が出なかったら、
勝ち目がないわけです。 |
永田 |
「勝ち目がない」。
しかも、それは、どうしても
ジャッジの主観が入る。 |
刈屋 |
はい。
で、ショートプログラムが終わったとき、
「スケート技術」の点を見ると、
荒川がいちばん高い点だったんです。
それを見て、あ、これはもしかすると
荒川がメダルをとることができて、
しかも、そのメダルは金かもしれないと、
ぼくはそのときにはじめてそう思ったんです。 |
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永田 |
あああああ、なるほど! |
刈屋 |
スルツカヤというのは、
そのときまでスケーティング技術の点数において
ほとんど負けたことがなかったんですね。
ところが荒川にそこで負けたと。
ショートプログラムが終了した時点で
スルツカヤとサーシャ・コーエンと荒川は、
ほとんど点数は横一線でしたけれども
スルツカヤはものすごく焦ったと思うんですね。
荒川があんなに点が出るということに
たぶん彼女は驚いたと思います。 |
永田 |
それは、ショートプログラムで
自分のミスがあったからとか
そういう部分ではなく。 |
刈屋 |
それは第一採点ですからね。
そうではなくて、第二採点で、
それぞれの選手にどういう点が
どういうふうに出ていたかということが
スルツカヤやコーエンにとっては
ものすごく大きいんですね。
もっとわかりやすく言うと、
もしも、フィギュアスケートの採点に
第二採点がなかったら、
サーシャ・コーエンが金です。 |
永田 |
そうなんですか。 |
刈屋 |
もう何回やっても
サーシャ・コーエンが勝ちます。 |
永田 |
「何回やっても」!
それは、足し算で勝っていくから。 |
刈屋 |
はい、純粋な足し算ですから。
もちろん、ミスなく全員が滑った場合です。
ところが、いまのフィギュアの採点は、
個々の技、技術だけではなく、
それをつなげるスケーティングとか
振り付けとか音楽との調和とか表現力の部分も
同じように評価する方式なわけです。 |
永田 |
それが、第二採点。 |
刈屋 |
はい。で、その第二採点において、
スルツカヤはこれまで
ほとんど負けたことがないんですね。 |
永田 |
なるほど。
なるほど、なるほど。 |
刈屋 |
第一採点の点数は
だいたいこの選手がこれだけやれば
これだけ点が出るということは
想像がつくんですが、
ただ第二採点は滑ってみないと‥‥。 |
永田 |
わからない。 |
刈屋 |
わからない。
滑って、終わった時点で
今回のオリンピックのジャッジが
荒川とスルツカヤとコーエンを
どう評価するのかというのは
ショートプログラムが終わらないと
わからないわけですよ。 |
永田 |
そんななかで、荒川選手の
第二採点の大切な項目がトップだった。 |
刈屋 |
はい。 |