第17回 マリリンショット!
永田 トリノでの刈屋さんの実況というと、
フィギュアスケートとのほかに
忘れてはいけないのがカーリングです。
刈屋 カーリングがこんなに日本で
ウケてるとは思いませんでした(笑)。
永田 実況中、くり返しおっしゃられる
「マリリン!」「マリリンショット!」
という刈屋さんの言葉に
メールがたくさん来てましたが‥‥。
刈屋 あんなに反響があるとは(笑)。
あの、そもそものところを説明すると、
まず、トリノのカーリングの実況は、
日本テレビの河村(亮)アナウンサーと
フジテレビの森(昭一郎)くんと
テレビ朝日の大熊(英司)アナウンサーと
ぼくの4人が担当することに決まってたんです。
それで、実況を担当するぼくらで
トリノがはじまるまえに、
北海道の常呂町まで取材に行ったんですよ。
大熊くんは来られなかったから、3人で、
吹雪の中を出かけて行ったんですね。
そのとき、取材時間が限られてましたから、
3人で分担して選手を取材したんですよ。
そこでぼくが担当したのが、林弓枝さんと、
マリリンこと、本橋麻里さんだったんです。
永田 ああ、なるほど。
刈屋 で、取材してみると、
林さんと本橋さんだけでなく、
5人の選手の印象がすばらしかったんですよ。
こういう言い方は変かもしれませんけど、
ほんとうに「いい子たち」だったんですね。
なんていうのかな、5人ともすごく素朴で、
カーリングに対して、ひたむきで誠実で。
日本の若い女性がこういう人たちだったら
将来安泰だなと思うくらい(笑)。
それで、もう、ぼくら3人ともすごく感動して、
その、選手たちに感じた親しみを、
どうやって表現しようかというのを
帰りの吹雪のタクシーの中で話したんです。
カーリングというのは特殊なスポーツで、
ほかの競技と違って、選手ひとりひとりが
テレビに露出する量が多いんですよ。
試合前にはかならずひとりずつ紹介されますし、
なによりマイクが仕込まれていますから、
本人たちの声がそのままオンエアに乗る。
永田 そうですね。
刈屋 だから、選手ひとりひとりに
親しみを持ってもらったほうが
観るときに絶対おもしろいんです。
それで、なんとか親しみを持ってもらう
方法がないだろうかと話していたときに、
ぼくが、本橋という選手のことを、
みんなは「マリリン」て呼ぶらしいよ、
って言ったら、ほかのふたりが
「マリリンですか!」って(笑)。
永田 反応よく(笑)。
刈屋 しかも「チーム・マリリン」を率いて
ジュニアの世界選手権も出たことがあると。
じゃあ「マリリン」で行こうか、
ということになったんですよ。
で、トリノに行って、ほんとうに
そう呼ぶかどうか迷ってたんですけど、
競技がはじまる前に
カーリングの公式記者会見があったんです。
そこに我々4人で行って、いちばん前に座って、
質疑応答の最後にぼくが手を挙げて
「日本向けの放送で本橋さんを
 『マリリン』という愛称で
 紹介しようと思うんですけど」って。
永田 刈屋さんがおっしゃったんですか?
刈屋 はい、言いました。
世界中のプレスがいる公式の記者会見で(笑)。
そしたら、選手たちが快諾してくださったんです。
もう、青森でも常呂町でも「マリリン」だからと。
永田 ご本人も?
刈屋 本人も「ぜひ」と。
じゃあもう、それで行きましょうということで、
まず、最初の試合を担当した
日本テレビの河村アナウンサーが、
試合の実況のなかで
「この選手は『マリリン』と呼ばれています」
ということを言ったわけです。
最初ですから、まずは控え目に(笑)。
つぎの試合の担当がぼくでしたから、
ぼくはその中継の様子を観て、
「よし、オッケー!」と思って、
遠慮なく「マリリンです!」と(笑)。
永田 ああ、そうだったんですか。
なんとなく、刈屋さんが突然
「マリリン」と言い出したような
印象があるんですけど(笑)。
刈屋 違う、違う(笑)。
ちゃんと河村アナウンサーが
伏線を張ってくれてたんです。
だから、安心して、さも当然というように
「ご存じマリリン」って(笑)。
永田 「マリリン・ショット」(笑)。
刈屋 「マリリン・ショット」(笑)。
あんなに話題になってしまうとは
ほんとうに思いませんでしたが。
永田 話題になってましたよ。
でも、あれも、すごく誤解されてるなと思うのは
「マリリン・ショット」って、
「マリリン・ショット〜!」と
刈屋さんが適当に叫んでるわけではなくて
本橋選手が得意としている
ガードストーンをスイープするショットのことを
「マリリンの得意技のショット、
 マリリン・ショット」と言ってるんですよね。
刈屋 そうなんです、そうなんです。
永田 それも伝わってないですよね(笑)。
刈屋 伝わってないです(笑)。
永田 あと、刈屋さんがカナダの放送席に
「あの選手を『マリリン』と呼んでくれ」
と押しかけた、みたいに伝わってますけども
あれもカナダの放送席から
日本選手の呼びかたについて問い合わせがあって、
それを確認して、言ったわけですよね。
刈屋 そうです。
向こうが日本の選手の呼びかたを
確認させてくれと言ってきたので
「メグロ?」「めぐろ」、
「モトハシ?」「もとはし」と言って
ただし、本橋選手は
「マリリン」と呼ばれてるから
「マリリン」と放送してくれ、と言ったんです。
永田 そしたら向こうもおもしろいわと、
オッケーオッケーと(笑)。
刈屋 オッケーと(笑)。
永田 だから、勝手に呼んだ「マリリン」ではなくて、
じつは、いろんな関係者に確認をとったうえでの。
刈屋 「マリリン」なんですよ。
永田 そうですね。
根拠のある「マリリン」(笑)。
刈屋 実際、試合中の彼女たちの会話を聞くと、
「マリリン」って言い合ってますからね。
だからやっぱり‥‥その‥‥よかったのかな?
永田 ただ、まあ、刈屋さんのあの口調で
「マリリン」と言うのを聞いて、
違和感がまったくなかったかというと
‥‥ないわけではないです。
刈屋 あっはっはっは。

2006-06-27-TUE

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN