糸井 | この展覧会でいちばん感心したのは 「ありもしない形」を描いてる 葛西さんですよ。 |
葛西 | そうそうそう。そうなんです。 |
糸井 | あれが一番ぼくは! |
葛西 | 何の必要性があってって(笑)。 |
糸井 | 「いままで、この人を 見てなくてごめんなさい」 と思ったのは、あそこですね。 あれって、葛西さんにとっての 一種のエロ写真ですよね。 |
葛西 | はあ‥‥。 |
糸井 | ものすごいエロティックだったんですよ。 つまり、“オレだけの快感”でしょう。 |
葛西 | そう言われてみれば確かにそうですね。 一回ね、 「どういう形が美しいと思いますか」 と、言われたときに考えたんです。 機械がね、グリースで固められて よくぬらぬらになって回ってますよね。 歯車と歯車が。 船の船底からつながってるところに、 水が入らないために グリースでびっちり埋められていて、 中で歯車がぐわーって動いてるのが 半透明で見えているときに、 かっこいいなと思ったりするんですよ。 |
糸井 | それって古事記の中の 国生み(くにうみ)の儀式じゃないですか。 |
葛西 | そういうことなんですか。 |
糸井 | 海の中に棒つっこんだら、 日本ができましたって。 あれは、つまり、セックスですよね。 |
葛西 | ああ、そうなんですかね。 そんなこと考えたことないんだけど。 |
糸井 | だから、圧倒されたんですよ。 見てはいけないものを見たような気がして。 人形作家たちのやってることなんかにも ちょっと近くて、 人に見られたら困る、 というのを、人が見たがるんです。 |
葛西 | そうですね。 人の皮膚ってつるっとしてるけど、 中みたらぐちゃぐちゃですよね。 関節がこう動いてて筋で引っぱってて。 カニの足なんかもそうですよね。 そういうのやっぱり興味津々で。 |
糸井 | エッチですよね。 |
葛西 | カニの足をちょっと引っぱると この辺までクッといっしょに動きますよね。 クレーンなんかにも似てると思いますけど。 それをエッチだとか、 セクシーと言うかどうかは わからないままに、 ひとりで遊んでるのかもしれないですね。 |
糸井 | 人のいるところで、 やりにくい仕事ですよね。 想像するに。 |
葛西 | ランプをひとつつけて、夜、 酒飲みながら描いていますよ。 必ず、家に帰って、 しかも家族が寝たあとにやってます。 |
糸井 | ですよね。 だから、ほとんどエロティシズム。 |
葛西 | まったくそうですね。 個室でやってる感じですよね。 そこまで見抜かれてましたか。 |
糸井 | あれが葛西さんのエキスだと思って。 この人が、あの仕事したり、 この仕事したりしてるんだ、 というふうに思ったんですよ。 たとえば、小林薫さんや岩松了さん、 樋口さんの首がちょんってデザインされている お芝居のパンフレットがありましたね。 フィギュアにして、なおかつ 誰々ですよという意味を持つ。 ああいう感じじゃないですか。 あれ、「樋口可南子」っていう漢字ですよ。 ああいう形をしてて、 目の位置がちょっと変わったら 違う文字になるわけですよね。 甲骨文字が作られたときとか、 漢文学者の白川静先生が やってるようなことが、 葛西さんの中では、 ああいうふうに行われてると思った。 |
葛西 | なるほど〜。 確かにそうなんですよ。 いままでそんなふうに 説明をしたことがなかったけれど。 |
糸井 | 言えちゃうんだったら、 手を動かさなかったと思うんですよ。 |
葛西 | 例えば、鉛筆いっぽんでも、 どこをどう持ったら軽くなるだろうとか、 そういうことに、ものすごく興味があるんです。 |
糸井 | そういうことを自分の中に 発見するわけですよね。 自分が何をこころよいとして 何を不快としてるかというのは、 自分では知らないわけで。 だから、葛西さんが絵を描いてるうちに ああ、いいなぁと思ったらGOだし。 |
葛西 | そうですね。 快感ですよね。 小さいころから 三角定規、多少大きいものだったら、 倒れないで持つことができるんですよ。 ホウキぐらいの長さだったら 1時間くらい落とさないで、 持って歩けるんです。 自分で得意技がなにかと言ったら、 重心を捉えること、かもしれないですね。 |
糸井 | はっはっは。 |
葛西 | 竹馬なんかもね、 直径20センチくらいのところから 絶対はみ出さないで立ってられますよ。 あれはね、ちょっと自分でも得意だなと思います。 手品師みたいに。 |
糸井 | ずっと引力と遊んでるわけですね。 |
葛西 | ははは。 そんなことして何の意味もないんだけど。 |
糸井 | 安上がりの、孤独な、エロティックな‥‥。 |
葛西 | 遊び、ですね。 |
糸井 | たぶん、それをルネサンスのときに やってたのが レオナルド・ダヴィンチですよね。 |
葛西 | ははは! |
糸井 | 絵でも、重心の話でも、 解剖でも、区別ないですもんね。 |
2007-12-17-MON