ほぼ日刊イトイ新聞 すてきなふだん字。 葛西薫さんと「字」のことを話しました。

003)裏返して、横に倒して。
葛西 糸井さん、これって、
なんだかわからないですよね。

糸井 これは、
おちゃめな形をしてるね‥‥
わかんない。
葛西 わからないですよね。
これは裏から90度倒すと
ひらがなの「かさいかおる」なんですよ。
読めるかなぁ。
糸井 (裏返して、天井にかざす)
あっ!!

葛西 ひらがなだったら
誰の名前でも、さっと書けるんですよ。
90度倒しの横倒しで、平安調な字で。
これ、小学校のときから練習したんですよ。

糸井 ちょっと、ぼくの名前書いてもらえますか。
「いといしげさと」。
葛西 糸井さんだと、
ここからいくと、
こう‥‥、
「い、と、い、し、げ、さ、と」。
で、ほら。

糸井 はっはっは!
ほんとだ。
すごい!
葛西 それも達筆じゃなきゃいけないという
ルールがあって。
何が達筆かわかんないですけど。
糸井 ほんとだ、達筆だ!

葛西 達筆のイメージを持ちながら、
少し吐きそうになって書くんですけど。
これね、小学校のときに、
うちの兄貴が漢字をばーっと書いたんですよ。
それを見てすっごい悔しくなって、
漢字は何千字もあるけど、
ひらがなは、50音だから覚えたんです。
でもこれ、しばらくやってなかったんですよね。
あるとき、いい歳になってから思い出して
ほんのすこし練習して、やってみたんです。
一文字一文字は、意味のある字だけど、
ただ形として、
意味を忘れて裏返しにすると、
こういう形になるぞ、って。
まさに、形象、形だけです。
糸井 そうですよね。
しかも、意味が込められてるんで、
葛西さんはやる気になってる。
意味が全くなくって
フィギュアっていう課題を与えられるのは
不自由なんですよね。
葛西 そうですね。
納得性がないというか。
糸井 笑っちゃったのは、
さっきの天体が二つの絵でも
ベルトでつながっていたでしょう。

葛西 ははは。
あれ、一応、矯正するという意味でね。
月が地球を操ってて、逆もあるだろうし、
お互いに影響があるわけですよね。
糸井 あのベルトがないと
見えないオカルトになっちゃうわけですね。
葛西 バラバラになっちゃいますね。
糸井 葛西さんは、あのベルトが欲しいんだ。
葛西 そうなんです。
糸井 あのベルトが社会性ですよね。
葛西 そうかもしれないですね。
糸井 意味でみんなにも
通じなきゃならないという部分が
漢字の意味の部分だし、
形象として美しいというのは
葛西さんの個人の趣味だし、
ものすごい二重の構造が
あふれてるんですよね。
葛西 エネルギー保存の法則を習ったときに、
すっごい感動したんです。
仮に50kgのものを10m持ち上げるとして、
動滑車を使えば重さが2分の1になるけれど、
その代わり20m持ち上げなきゃいけない。
50kg×10=500か、25kg×20=500か?
要するに、軽い荷物を長く運ぶのか
重い荷物を早く運ぶのかという選択で
どっちでもいいわけですよ。
これ、人生と同じだなぁと思って(笑)。
太く短く生きるのか、
軽く長く生きるのかというのと同じだなぁ、
エネルギー保存の法則って
よくできてるなぁと思って。
世の中どんなに便利になったって、
必ず、それの負荷があるはずだと。
糸井 それは葛西さんの持ってる
妙な東洋思想なんだ。
葛西 ははは。
糸井 烏龍茶の仕事とかすっごい合ってますよね。

葛西 関係あるんですかね。
そういうことね。
諦観というのか、なんて言うんでしょうね。
糸井 葛西さんはサン・アドという会社に
いらっしゃるわけですが、
ここは前身がサントリー宣伝部なんですよね。
山口瞳さん、開高健さん、柳原良平さんという
そうそうたる大先輩たちがいるんですね。
ぼくは、サントリーと関係がないから
見えるんですけれど、
あなたどこの出身でしょっていうのと同じように
葛西さんにはサントリーの出身を感じるんですよ。
わかんないでしょ。
葛西 わかんないですね。
糸井 それは、例えば、最近だと
『Say Hello!』のDVDをつくった
今村直樹さんにもあるんです。
今村さんもサン・アドの出身ですから。
共通点は何かと、あえて言えば、
伝統に対して、深い尊敬があるということ。
で、わんぱくというか、そういう感じ。
葛西 それは、そうですね。
ただ、ぼくはサン・アドに入るときに
会社3ヶ所目だったんですが、
すごい違和感というか、
ぼくのようなものが入っていいのだろうか、
という感じがあったんですよ。
なんか、サン・アド家みたいなのがあってね
サン・アド家の一員になっていいのかなって。
一応入ったけれど、
5年くらいは借りてきた猫みたいな感じで、
そこにいたんですね。
そのうち、だんだん、少しずつ馴染んできて、
ようやく一員になったという感覚になったのは
10年くらい経ってからだったと思うんです。
大先輩たちのイメージが常にあるもんだから、
ぼくがいることで、
それを阻害してはいけないぞという。
糸井 常識がありますねぇ。
葛西 無意識のね。
あと、悔しいんですよね。
自分がいることで、
ダメにしてしまうことはイヤだから。
糸井 お家ですもんね。
葛西 ははは。自分がそれを
ダメにすることだけはやるまいという
感覚は、無意識にあるんですよ。
このレベルまでやっておかないとって。
方法はみんな別でしょうけどね。



2007-12-18-TUE

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