葛西 | 糸井さん、これって、 なんだかわからないですよね。 |
糸井 | これは、 おちゃめな形をしてるね‥‥ わかんない。 |
葛西 | わからないですよね。 これは裏から90度倒すと ひらがなの「かさいかおる」なんですよ。 読めるかなぁ。 |
糸井 | (裏返して、天井にかざす) あっ!!
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葛西 | ひらがなだったら 誰の名前でも、さっと書けるんですよ。 90度倒しの横倒しで、平安調な字で。 これ、小学校のときから練習したんですよ。 |
糸井 | ちょっと、ぼくの名前書いてもらえますか。 「いといしげさと」。 |
葛西 | 糸井さんだと、 ここからいくと、 こう‥‥、 「い、と、い、し、げ、さ、と」。 で、ほら。 |
糸井 | はっはっは! ほんとだ。 すごい! |
葛西 | それも達筆じゃなきゃいけないという ルールがあって。 何が達筆かわかんないですけど。 |
糸井 | ほんとだ、達筆だ! |
葛西 | 達筆のイメージを持ちながら、 少し吐きそうになって書くんですけど。 これね、小学校のときに、 うちの兄貴が漢字をばーっと書いたんですよ。 それを見てすっごい悔しくなって、 漢字は何千字もあるけど、 ひらがなは、50音だから覚えたんです。 でもこれ、しばらくやってなかったんですよね。 あるとき、いい歳になってから思い出して ほんのすこし練習して、やってみたんです。 一文字一文字は、意味のある字だけど、 ただ形として、 意味を忘れて裏返しにすると、 こういう形になるぞ、って。 まさに、形象、形だけです。 |
糸井 | そうですよね。 しかも、意味が込められてるんで、 葛西さんはやる気になってる。 意味が全くなくって フィギュアっていう課題を与えられるのは 不自由なんですよね。 |
葛西 | そうですね。 納得性がないというか。 |
糸井 | 笑っちゃったのは、 さっきの天体が二つの絵でも ベルトでつながっていたでしょう。 |
葛西 | ははは。 あれ、一応、矯正するという意味でね。 月が地球を操ってて、逆もあるだろうし、 お互いに影響があるわけですよね。 |
糸井 | あのベルトがないと 見えないオカルトになっちゃうわけですね。 |
葛西 | バラバラになっちゃいますね。 |
糸井 | 葛西さんは、あのベルトが欲しいんだ。 |
葛西 | そうなんです。 |
糸井 | あのベルトが社会性ですよね。 |
葛西 | そうかもしれないですね。 |
糸井 | 意味でみんなにも 通じなきゃならないという部分が 漢字の意味の部分だし、 形象として美しいというのは 葛西さんの個人の趣味だし、 ものすごい二重の構造が あふれてるんですよね。 |
葛西 | エネルギー保存の法則を習ったときに、 すっごい感動したんです。 仮に50kgのものを10m持ち上げるとして、 動滑車を使えば重さが2分の1になるけれど、 その代わり20m持ち上げなきゃいけない。 50kg×10=500か、25kg×20=500か? 要するに、軽い荷物を長く運ぶのか 重い荷物を早く運ぶのかという選択で どっちでもいいわけですよ。 これ、人生と同じだなぁと思って(笑)。 太く短く生きるのか、 軽く長く生きるのかというのと同じだなぁ、 エネルギー保存の法則って よくできてるなぁと思って。 世の中どんなに便利になったって、 必ず、それの負荷があるはずだと。 |
糸井 | それは葛西さんの持ってる 妙な東洋思想なんだ。 |
葛西 | ははは。 |
糸井 | 烏龍茶の仕事とかすっごい合ってますよね。 |
葛西 | 関係あるんですかね。 そういうことね。 諦観というのか、なんて言うんでしょうね。 |
糸井 | 葛西さんはサン・アドという会社に いらっしゃるわけですが、 ここは前身がサントリー宣伝部なんですよね。 山口瞳さん、開高健さん、柳原良平さんという そうそうたる大先輩たちがいるんですね。 ぼくは、サントリーと関係がないから 見えるんですけれど、 あなたどこの出身でしょっていうのと同じように 葛西さんにはサントリーの出身を感じるんですよ。 わかんないでしょ。 |
葛西 | わかんないですね。 |
糸井 | それは、例えば、最近だと 『Say Hello!』のDVDをつくった 今村直樹さんにもあるんです。 今村さんもサン・アドの出身ですから。 共通点は何かと、あえて言えば、 伝統に対して、深い尊敬があるということ。 で、わんぱくというか、そういう感じ。 |
葛西 | それは、そうですね。 ただ、ぼくはサン・アドに入るときに 会社3ヶ所目だったんですが、 すごい違和感というか、 ぼくのようなものが入っていいのだろうか、 という感じがあったんですよ。 なんか、サン・アド家みたいなのがあってね サン・アド家の一員になっていいのかなって。 一応入ったけれど、 5年くらいは借りてきた猫みたいな感じで、 そこにいたんですね。 そのうち、だんだん、少しずつ馴染んできて、 ようやく一員になったという感覚になったのは 10年くらい経ってからだったと思うんです。 大先輩たちのイメージが常にあるもんだから、 ぼくがいることで、 それを阻害してはいけないぞという。 |
糸井 | 常識がありますねぇ。 |
葛西 | 無意識のね。 あと、悔しいんですよね。 自分がいることで、 ダメにしてしまうことはイヤだから。 |
糸井 | お家ですもんね。 |
葛西 | ははは。自分がそれを ダメにすることだけはやるまいという 感覚は、無意識にあるんですよ。 このレベルまでやっておかないとって。 方法はみんな別でしょうけどね。
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2007-12-18-TUE