葛西 | あれはいいコピーですね。 新潮文庫の「想像力と数百円」。 |
糸井 | うん。全体を文句言われないように 一本、骨組みを立てておいて、 「あと自由にすればいいじゃん、 副ちゃん(副田高行さんのこと)」 って言って。 とにかく「想像力と数百円」 さえ置いておけば 絶対だいじょうぶだよって。 そのドラマのおかげで、 ぼくは、その力を本気で腰据えて、 発揮できたんでしょうね。 |
葛西 | よく覚えてますよ。 あのとき、横で、 「どこまで行くんだろう?!」 と思ってました。 |
糸井 | 楽しかったよ。 |
葛西 | 楽しかったですよね。 でね、その頃、彼(副田さん)が、 ある方角を定めたんですよね。 これまでの広告デザインの常識を破るデザインに。 その方角へ突っ走ったんですよ。 ぼくは、(同じデザイナーとして) 同じ方角に行くわけにいかないから 逆方向に走ろうと思って。 ぼくは、そのころ 「樹氷」をやってたり、 ソニーの仕事とかやっていました。 |
糸井 | 「樹氷」といえば、 バロン吉元の描いた 風吹ジュンですよね。 |
葛西 | 『昭和柔侠伝』の 「茜ちゃん」ですね。 |
糸井 | あのコピーは仲畑(貴志)くんなんだけれど、 バロン吉元って 仲畑くんの文脈にないはずなんです。 ぼくと雑談したことが ずいぶん役に立ってると思うんだなあ。 よけいな無駄話してると、 それを、すぐに、いかせるやつなんです。 ほかにもたとえば、 小沢昭一が性豪の人と対談してて、 それはすごいしょうもない話で、 ちんこ自慢なんですよ。 性豪の人が 「このくらいですよ」 って言うと、小沢昭一が 「ほお!」ってあんまり感心するんで 性豪の人はいい気になって 「それは、‥‥細いところが、ですよ」 って言うの。 |
葛西 | はははは! |
糸井 | そうすると、 小沢昭一がまた、 「細いところが、お太いんですね」 って言うんです。 ‥‥という話を仲畑くんに言ったら、 ものすごい喜んで、 新聞の活字が大きくなったときのコピーに 「小さいところが大きいんですね」って。 |
葛西 | ああー、ありますねぇ! 仲畑さんの奥には糸井さんがいたんだ。 あの頃ね、仲畑さんと同じチームだったんです。 彼が、どこか外の世界行ってはね、 何か運んで帰ってくるんですよ。 あの頃、秋山道男さんだとか、 いろんな人と付き合ってましたよね。 |
糸井 | しょうもない時間を過ごしては‥‥ |
葛西 | おみやげを持って帰ってくるんです。 そういう意味でのおみやげを。 |
糸井 | ぼくら、一人でやってるから このおもしろいことをここに使うという、 アイデアはなかなか生かせないんですよ。 でも仲畑くんは仕事をいっぱい 持っていたから。 |
葛西 | フル活用ですね。 |
糸井 | あいつ、いいなぁ! あの人はやっぱり、土建屋の大将で 「その機械、買うたるわぁ」 っていうやつですよね。 ぼくらは、「田んぼがないから この機械使えないんだよね」 ってところがあって、 結局は無駄に流れていく時間の中で、 もう1回、再生産させるんですよ。 で、いまの「ほぼ日」に至るんですよ。 |
葛西 | なるほどね。 |
糸井 | ぼくは、ぼくの人生としてOKなんですよ。 葛西さんは、仲畑くんのコピーを 定着させたり 社会性を帯びさせたりすることで、 番頭さんみたいに うまいこと利用してたはずですよ。 |
葛西 | ああ、なるほど。 |
糸井 | 葛西がやってくれんねん、 オレがぐちゃぐちゃ言うても、みたいな。 |
葛西 | そうそう、仲畑さんのコピーをデザインするとき、 仲畑さんはいっさい口を出さなかったですね。 おもいっきり、任されっぱなしでした。 |
糸井 | だって、あの人さ、 漢字まちがってるコピーを そのまま原稿にしてますよね。 へんとつくりを逆に書いても、 写植が直すからいいって言うんです。 |
葛西 | ははは。確かにあまり漢字知らなかったかも。 いまだから言えるけど。 |
糸井 | 言葉は知ってるんですよね。 言葉は知ってて、漢字知らない。 |
葛西 | 覚えるスピードが速いんですよ。 そういう感じがありましたね。 おととい、まだ、こんなこと言ってたのに、 今日、もう、すごいこと言ってる。 すごいですね。 |
糸井 | ぼく、夜中に仲畑くんとこ行って、 ほとんど哲学みたいな話を 素人なりにやりとりしてた時間が長いんです。 |
葛西 | あの頃、仲畑さんの言葉さえ置けば、もう 広告になっちゃうから、 何もしなくていいんですよね。 下手なデザインなんかしないで その言葉が生きるように 文字を置くだけでよくて。 仲畑さんは、 「困ったら文字大きく置いとけばいいんだ」 って言うんですよ。 まったくその通りで、 それがデザインになっちゃうんですよね。 |
糸井 | そこは、やっぱり そうなるようにコピーを書くということが ぼくらの義務だったですね。 ノングラフィックに近い タイポだけで持つコピー書けないと かっこ悪いと思ってたんで。 |
葛西 | そうですよ。 |
糸井 | いずれは、まぁ、 コピーなんてなくてもいいというところに どんどん行くんですけどね。 |
2007-12-20-THU