糸井 | ぼくは、今日まで、葛西さんという人は 仲畑くんに迷惑をかけられてるんだと思ってました。 でもやっとつながったんですよ。 展覧会の作品を通して、 葛西さんのわがままが見えたことで。 葛西さんが受け持ってくれてるジャンルが ものすごくしっかりしてるから、 大丈夫だったんだって。 |
葛西 | なるほど。 |
糸井 | 仲畑くんを通して見ていた葛西さんは、 あんな乱暴者通して見たら、 健気な女房役というふうにしか 見えないわけで、 そしたら、今日、あのフィギュア偏愛のね、 エロティックが見えたから。 いやー、おもしろかったなぁ。 広告ってもう1回ここまで 古く考えちゃえるんだな、 というところに、戻ればいいんだな、 って、今日思った。 つまり、画家とパトロンの関係くらいまで 戻しちゃって考えた方がいい。 つまり、サントリー宣伝部に戻れ、 ってことなんですよね。 |
葛西 | そうですね。 まったく同じこと思ってました。 当時のサントリーって 字を書く人、絵を描く人が入れ替え自由で 一緒になって、ポンと作ってましたよね。 あの気分はすばらしい手作りというか、 人の全知全能を使ってますよね。 機械にはできないものに対して。 いまは、スタッフをがちっと組み込んでるから、 何も動かないですもんね。 カチンカチンで。 動かすとしたら 組織変えなきゃダメなんですよね。 いま人事まで口出さないと デザインが変わらないんだと思う。 そんな時代になっちゃったんですね。 |
糸井 | そうでしょうね。 いま、システムの中から 偶然に生まれてくるものが、 昔、個人の中から偶然生まれてきたものと 匹敵してますよね。 たぶん、葛西さんも今は、 チームプレイ好きな部分が 増えてるでしょ。 |
葛西 | そうですね。 |
糸井 | 昔と違いますよね。 個人で一人で夜中にすることとは、 まったく違う部分ですよね。 |
葛西 | でも、両方だいじょうぶですよ。 |
糸井 | 両方、好きですよね。 ユナイテッドアローズのアニメーションは イタリアの作家と組んだとおっしゃってたけれど、 そういうときは 言葉全部わかるはずないわけで。 |
葛西 | まったくね‥‥。 途中途中でストーリーを考えながら、 すこしずつつくっていくんですけれど、 それで、日本人よりうまくいくんですよ。 |
糸井 | うわー、しびれるね。 |
葛西 | そのとき、ほんとうに思いました。 言葉が通じないっていいことだなって。 動物同士だなと思ったんですよ。 犬と犬がキャンキャンキャンキャン 言ってるだけで、 形になって、絵描いたの見て、 二人して腹よじれて、笑うんですよ。 |
糸井 | その人はイタリア語? |
葛西 | イタリア語だったり、 英語を必死でしゃべるんだけど ほとんどできないんですよ、英語が。 このぼくの方が知ってるくらいで。 そのときの通訳の人が言うんだけど、 二人のコミュニケーションの 緻密さが、信じられないって。 そのくらい親しくなっちゃいましたね。 |
糸井 | それは、あれだな。 松坂大輔がレッドソックスの みんなと抱き合ってるシーン。 いいセリフがあったんです。 「2月から長かったです」って。 その当時はロッカールームで着替えてるときも 誰になんて話していいかわからないし、 どうしていいかわからない。 そんなところから始まったのが いまはこうやって みんなと抱き合えてるんです、 って。 |
葛西 | いいですねぇ。 |
糸井 | しびれますね。 野球だけしてきて そうなったわけですよね。 いいねぇ。 |
葛西 | 一緒に一つのものを 作っていくときって、 全体を包含するくらい、 強い理由ができてきますよね。 |
糸井 | そういう気持ちで作品とも接することを お客さんがしてくれたら、 いい出会いがまたできるね。 |
葛西 | ええ。 |
糸井 | たぶん、みんな、 研究しようと思っちゃうと思うんですよね。 葛西さんの物を見ると。 研究するのは、 自分が作ってるものを研究したほうがいいのに。 目の前にある自分の作品をね。 |
葛西 | 自分の持ち駒をどう生かすかというのは 考えるのおもしろいですよね。 冷蔵庫に豆腐と醤油しかなかったら どのくらい食っていけるか、とか、 ロビンソンクルーソー的な工夫というのが 大好きなんです。 |
糸井 | そのときに、 あっては困るものってあるんですか。 |
葛西 | うまく言えないけど、ありますね。 |
糸井 | そこを、知りたいです。 |
葛西 | 似たような理由で 「葛西さん、どんなものが作りたいですか」 って言われると答えられないんだけど、 嫌いなものは、はっきりしてますとは言えるんです。 これだけは、やりたくない、 これだけは嫌いだ、というの外していくと、 残ったものが自分の好きなものだっていうことですね。 |
糸井 | ぼくも、いま、そんな感じで 興味を持ったんですね。 好きなもの、嫌いなものというよりは 葛西さんは、みんな好きですよって、まず、 一回言っちゃいそうですもんね。 |
葛西 | いや、許せないものはたくさんありますよ。 |
糸井 | 「勘弁してくれ!」って? |
葛西 | それはありますね。 |
糸井 | じゃ、そこから文字の話に移りましょうか。
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2007-12-21-FRI