糸井 | いま、みんなが書いた文字というものに 興味を持ち始めているんです。 つまり、みんなタイピングしちゃってるから、 そんななかで書き文字について 「いいね」「悪いね」っていうことを 言い出している。 |
葛西 | はいはいはい。 |
糸井 | そのときに葛西さんのことを みんなが思い出すらしいんですよ。 葛西さんっていう人間で 思い出すんじゃなくて サントリーの‥‥。 |
葛西 | 「食べよ、妹」? |
糸井 | あれで、思い出すんです。 ぼくもこの話が進んでるの聞いたときに モルツの葛西さんの字を思いだしたんで、 あ、両方葛西さんだよ、 たぶん、話してくれると思うよって、 今日、伺ったんです。 たぶん、喜ぶと思うよって。 |
葛西 | もちろん、文字について 話すほど楽しいものないですよ。 だからうれしかったんです、 この話がきたときに こういう狭い話ほど 楽しいものはないですよね。 広い話はしたくないけども、 文字についてだったら、 もう、尽きないんじゃないかな。 活字であろうが、 手書きであろうが。 |
糸井 | いいって感じるのと、悪いって感じるのが ちゃんと合ってるんですよね。 見事に葛西さんは、自分で好きな文字を 出してると思うんだけど、 それが、通じるということが、 どうしてわかるんですか? |
葛西 | なんでだろ。 |
糸井 | つまり、自分が表現していいなと思うものが 人もいいと思うとか限らない。 ましてや文字については微妙な違いです。 だからぼくは好きなんだけどね、 というところで、 どこかで、GOしちゃうんですが、 それがちゃんとみんなに通じてる。 「オレは好きなんだ」 という自信がなかったら たぶん葛西さん、 出さないと思うんですよ。 じゃあ、それを、 どこで、ジャッジしてるんだろう? |
葛西 | 子どものころ、 父親に礼状とかが来ますよね。 昔の人だから、葉書で、草書で。 達筆だか、達筆じゃないか よくわからないんだけど、 このたびは貴重な品をいただき、 誠にありがとうございました、 とてもおいしくいただきました、 ‥‥なんて、古風な文体で書いてるんですね。 その文体と、崩し字のかっこよさとか、 楷書体と、草書の続け字では、 書き順が違う感じとか ── 、 それを覚えたいと思ったんですよ。 |
糸井 | うん、うん。 |
葛西 | それで、考えると、 続け字の理由は運動だ、 と思ったんです。 一番体が楽なように、筆を運ぶ、 手の運動。 |
糸井 | 手の運動。 |
葛西 | リーダービリティ(読みやすさ)というのは 目が楽だということだけど、 字は、いかに直線に近づいていくか、 ということに向かっていきながら、 ここまで曲がっていれば 字として読めるだろう、 ということだと思うんです。 それは体の運動と同じで、 効率よいバッティングで遠くに飛ばすとか、 重心を捉えるだとか、ということと似ていて、 腕とか体の運動と字とのリズム、 筆記のリズムが、ぴたっと合ってる字が、 見てて気持ちいいんじゃないかな。 ‥‥というふうに、 理屈で言うとそんな感覚がありますね。 |
糸井 | 草書って、つまり、 1万回、同じ字を書いてれば、 こういうふうに崩すものなんだよという 様式ができた、ということですよね。 |
葛西 | たぶん、そうですよね。 ただ、もちろんルールを作って 草書になったときには こういうふうに書くんだ、ということは、 どこかで、だれかが 決めたことかもしれないけど、 そのルーツをたずねると、 急ぎ足で書いた場合には 人間はこうなるはずだという 運動からくる理由が、 あるんじゃないかな、と。 |
糸井 | 手の軌跡なんですね。 |
葛西 | そういうのが、かなってる字を見ると すごくきれいだなと思うんです。 それから、濃度が一定している字。 人って字画によって 線と線の空きがみんな同じになるんですね。 たとえば「瑞々しい」と書くとき 活字的に、ぜんぶの字を同じ大きさにすると 「瑞」のなかの線は詰まってしまい ほかの字の線は広がります。 でも無理して遠回りして 「瑞」を大きくゆったり書いて 「しい」を流れるように書くと、 全体の濃度が同じになるんですよ。
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糸井 | はあ! |
葛西 | そういうふうに組み立てる字って、 きれいなんですよね。見てて。 濃度が一定してるというものが。 |
糸井 | つまり、意味の濃さだし、 運動の濃さですよね。 人の字もそういうふうに自然に見ていて、 自分も自然に書きたいと思ってるんですか。 |
葛西 | ええ。 だから続け字って好きなんですよ。 次の字を意識して 前の字が変わっちゃいますよね。 「し」のあとに「つ」がくる場合と、 「し」のあとに「い」がくる場合で、 変わるっていうのは、 書道やってる人だと当たり前かもしれないけど 書道やってなくても、 なんかわかるんですよね。 なんらかの字を書いたときに イメージとしては 曲がり角にピンがさしてあって、 そのピンを一個でも外すと ばらばらっと崩れてしまうような緊張感が いい字なんですって。 いい話だなぁと思って。 |
糸井 | いいねぇ。 |
葛西 | それ、抑揚ですよね。 力点の移動みたいなのが見えてるのが、 たぶん、きれいな字じゃないかな。 クセはみんな違いますけどね。 その人のよいクセというか、 その人が体に対して無理してない字を見ると、 見てる人が気持ちいいんじゃないかな。 |
糸井 | その話を聞いたら、 自分の字が書けなくなっちゃう。 |
葛西 | ははは。
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2007-12-24-MON