葛西 | タイポグラフィーで 何が大事かという話をするときに、 文字詰めだと言うんです。 言い替えれば文字そのものより、 文字と文字の間がとても大事だと。 例えば、MITSUという字が ローマ字であるとしたら Iの左右の空間を 詰めてしまうとこうなりますね。 これは嫌いだなって思うんです。 なぜならば、 これが大きな部屋だと思って 上からそれを見るとして、 文字の線がすべて塀だと思ったら Iの周りにいる居心地って、悪くて、 逃げたくなっちゃいますよね。 どこにいても、同じ気持ちになるということを イメージしながら文字を置くんですよ、と。 あるいは、どろどろっとした液体を 組んだ文字の上から、その隙間を通して、 下に向かって流すときに、 同じスピードで液体が落ちていくための 文字の隙間って、なんだろう? とか、 そういう話をしたりするんですよね。 さっき話した、見た目のグレーの 濃い薄いがあると、 だめだというのと同じ話ですね。
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糸井 | 濃い、薄いですね。 |
葛西 | どこをトリミング(拡大)しても 気持ちが変わらないというのが、まずあって。 それじゃ退屈だから、あまりにも完璧だから そこに対してちょっとした あやがつくことで 楽しくなるんじゃないかなぁとか。 ぼくなりに、ですね。 |
糸井 | それは、手書きで 組み合わせを考えていかないと こういうことはできないですね。 |
葛西 | そうです。そうです。 それは日本語でも同じで、 ひらがなを縦に書くときでも 次の文字によって 前の文字の形が変わったりしますね。 そういうことを含めて、 見ていてなるほどなという場所に入ってる文字が みんなも気持ちいいんじゃないですかね。 |
糸井 | タイピングで半角文字を使いたがる人というのが、 ‥‥たぶん彼らの美意識があるんだろうけど、 ものすごくぼくらにはイライラするんですよ。 |
葛西 | ええ。 |
糸井 | よく使うじゃないですか。 |
葛西 | ぼくもいやですね。あれ。 カタカナが詰まってる感じが。 |
糸井 | そう。 あれはたぶんあの人たちには あの世界観みたいなものがあるんでしょうね。 |
葛西 | はいはい。 なんなんですかね。 |
糸井 | 見える世界をゆがませるということがね。 葛西さんのは、だから、どう歪まないように 個別の文字をえこひいきするんですよね。 えこひいきですもんね。これ。 |
葛西 | そうです。 あと、何も感じなくなるまで書けるか。 要するに。 |
糸井 | 書き文字だった場合には それは自然にやってるってことなんだ。 |
葛西 | そうでしょうね。 本来だったら。 |
糸井 | 書き文字で名刺作るなんてテーマを与えられたら どうでしょうね。 葛西さんの書き文字の名刺って ちょっと見てみたいね。 |
葛西 | いいですね。 文字ってまわりのスペースで変わりますよね。 例えば「か」っていう字があったとしても これがこの名刺大のスペースにある場合と 大きなスケッチブックに収まってる場合と 全然違いますよね。 あと真ん中じゃなくてちょっと左下にあるとか そういうことがものすごく大事で、 そこに無頓着になってると 字が汚かったりというのがあると思いますね。 |
糸井 | 書かれてるスペースと 立っている文字というのの関係を、 もう無意識でわかってないと 書けないですね、それは。 |
葛西 | ええ、もう無意識ですよね。 話をおもしろくするためじゃなくて、 よく言うんですけど、 4畳半の部屋があってね、 そこに「あ」という字がドンとあると すごく王様みたいですよね。 真ん中にいると。 でも、ここに「い」という字が加わったら 「あ」の人は、当然逃げようとしますよね。 狭くていやだから。 当然「あ」と「い」の2文字がある前提で レイアウトすると思うんですよ。 それをそうしないで、 「あ」が元の位置のままで「い」が加わると、 居心地が悪くてしょうがない。 当然何かが加わったら空気が変わるから、 すーっと変わりますよね。 あと主張の強い字と、主張の弱い字があったら。 主張の強い人は、強い位置にいるし 弱い人は、隅っこいるというのは、 字もでも同じなんです。 距離感は文字によって、 微妙にあるわけですよね。 そういうこともすごく関係してる。 そうだ、便箋の中に どういうふうに書くかというのも、 タイポグラフィーのレイアウトですね。 昔、印刷所に入ったときに言われたんですよ。 あいさつ状は タイポグラフィーのかたまりを 左下にレイアウトしなさいと。 なぜなら「へりくだる」って言うだろうって。
(クリックすると拡大します。) |
糸井 | ほう? |
葛西 | ようこそ、おいでなさいました、 というのは、便箋の縁(へり)に下って レイアウトするのがいいんですよ。 「ようこそ」というのは、 左下に置くのが正しくて、 ど真ん中に、ようこそと書くのは 威張ってる印象があるんです。 |
糸井 | ほう‥‥! いま聞いてて、葛西さんと 似たようなことを言っている 誰かのことを思い出しながら、 誰だっけなって思ったの。 井上嗣也だ! |
葛西 | 井上嗣也さん。 |
糸井 | 井上嗣也も職人あがりじゃないですか。 同じように技術から入ってきた人。 そういう発想がものすごく似てるんです。 彼も100枚描いて いいの見つけるみたいなことやるじゃない。 |
葛西 | やりますよね。 |
糸井 | 手に仕事させるんだ。 |
葛西 | 井上さんと話してると、おもしろいですよ。 |
糸井 | ものすごく合ってるんですよ。 |
葛西 | 人がきいたらなんの役にも立たない 話ばっかりだけど、 二人しかできない話するんです。よく。 言われれば、似てますね。 |
糸井 | 似てますね。 そっくりなとこあるね。 井上嗣也のことで、 この2年くらいで大ヒットなのが Tシャツのデザインをしてるときに 嗣也がかなわないものがあるという話をして。 それが何かと言うと、古着屋に売ってた チリのTシャツだった言うわけ。 チリっていうのはさ、 こんなに細長い国なんだよ その国土の形がそのままデザインされて CHILEって書いてあるの。 オレは、もうそれ見たら 何やってもかなわないと思うんだよ、と。 |
葛西 | ははは。 おもしろいですね。 |
糸井 | その気持ちは、 オレにも、どしーんってきて コピー書くのも、文章書くのも、 そういう気持ちあるんですよ。 CHILE、かなわないでしょ。 |
葛西 | かなわないです。 |
糸井 | 文字で言うと、 井上有一さんという人と、ぼくは会ってて 井上さんが例に出すのは 「野口シカの手紙」なんです。 葛西さん知らないですか。
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葛西 | 知らないです。 |
糸井 | それは、もうすぐにでも、手に入れてください。 野口英世のお母さんの「シカ」さんが、 野口英世に宛てた手紙っていうのが 野口英世記念館に飾ってあるんですよ。 それは、文字をよく知らない人の手紙なんですよ。 さっきの、ゆっくり読まざるをえない 速度で書かれてるんです。 それで、最終的にどこにいくんだか わからないで書いてるんです。 その文字がね、一種の書道のある種の ジャンルの人たちの CHILEのTシャツみたいな扱いなんです。 これ、ぼくも、これはいいと思った。 作為が消えちゃってて、 それみたいなものに対する憧れがね。 |
葛西 | ええ。 |
2007-12-26-WED