- ──
- 吉田さんは、宇宙には興味あります?
- 吉田
- めちゃくちゃありますね。
NASAにも2回メールしたことある。
- ──
- メール。それは‥‥どのような用件で?
- 吉田
- 単純に「宇宙に行きたいんですけど」って。
というのも、ホラ、月のどこかにさ、
「300メートルの縦穴」と
「500メートルの横穴」があるって記事を、
なにかで読んだんですよ。
- ──
- つまり、そこに連れてってくれ、と?
- 吉田
- まあ、宇宙がどんだけ大変かについては
よくわかってないし、
とくに返事も来なかったけどね。ははは。
- ──
- でも、そのためにまずは
厳しい宇宙飛行士の試験に合格しないと。
- 吉田
- うん、そうだよね。
まあ、なれるか、なれないかは別にして、
「俺、行きたいんだけど」って。
でも、キリないからね、
行きたい行きたいって言っててもさ。
- ──
- そうですよね(笑)。
- 吉田
- 俺の人生は、地球だけで、終わるのかなあ。
- ──
- 洞窟のツアーガイドというのは、
吉田さんのお仕事にもなってるわけですが、
これは、洞窟をやるうちに、徐々に?
- 吉田
- 洞窟を仕事にしようなんて思ってなかった。
途中から、流れでそうなっただけ。
これでメシ食ってくなんて思えないでしょ?
- ──
- ただ好きで洞窟を探検してたら
だんだんテレビ番組からオファーが来て‥‥。
- 吉田
- テレビ局の企画になると、予算があるから、
個人では無理なエリアにも行けるんですよ。
人との繋がりもできて、情報も入ってくる。
探検に行くための旅費だけじゃなく
日当まで出るんだから、ありがたいことで。
- ──
- 向いてますよね、吉田さんに(笑)。
- 吉田
- 仕事でやるなんて思ってなかったけど、
仕事にしたら、「もっと探検できた」んです。
だから、死ぬまでやり続けたいと思ってる。
ちょっと死にそうな思いをすると
しばらくは行きたくないって思うんだけど。
- ──
- でも、死ぬまで探検したいという吉田さんが
「高所恐怖症」というのも
おもしろいというか、不思議な気がします。
- 吉田
- 中学生のときは、かなり重症で
歩道橋とか、立って歩いて渡れないくらい
ヤバかったんだけどね。
- ──
- そんな人が大人になって、高所恐怖症のまま、
険しい岩山をよじ登ったり、
何百メートルもの縦穴を降りたりしてる‥‥。
- 吉田
- なんでだろうねえ。
- ──
- でも、敏感に「怖さ」を感じることが、
危ない場面で
吉田さんの生命を救ってるってことも、
きっと、ありますよね。
- 吉田
- いや、探検家をやる上で
恐怖心って、すごく大事なものだと思うよ。
探求心も大事だけど、それと同じくらいに。
なぜなら、恐怖心には
「リスクマネジメント」が含まれてる。
何をするにも慎重になるし、
ロープの結び目も、他人任せにしないで、
いちいち自分の目で確認したりね。
- ──
- なるほど。
- 吉田
- 恐怖心がないと、たぶん、長生きできない。
冒険家になっちゃう‥‥というかなあ。
つまり、探検家に冒険心は必要ないんです。
探究心と、恐怖心が必要。
で、絶対に帰ってくるって前提でやってる。
- ──
- でも、冒頭の水中のアクシデントみたいに、
「賭け」じゃないけど、
「思い切り」が必要なこともありますよね?
- 吉田
- たまに、一か八かって場面もあります。
そんなときの冒険心は、しょうがない。
でも、それは「生きのびるための力」で
ここで死なないために、
もう、なけなしのパワーをしぼり出して、
「行けぇ!」みたいな感じかな。
- ──
- 冒険心スイッチも、ついてるんですね。
- 吉田
- なかなか押さないけどね。
- ──
- デューク東郷が同じことを言ってました。
- 吉田
- あ、ほんと?
- ──
- 「俺が強い理由を教えてやろう。
それは
俺がウサギのように臆病だからだ」と。
細かい部分の言い回しは、忘れましたが。
- 吉田
- 深いね。
- ──
- さっき、ちょっと話が出ましたけど、
探検家と冒険家って
何か、違いがあると思われますか?
吉田さんは、ご自身のことを
探検家だとおっしゃっていますけど。
- 吉田
- 冒険家の場合、その人の評価に
「危険」ということが、つきまとうと思う。
つまりさ、危険な場所に敢えて挑戦して、
仮に死んでしまっても
「あの人は、すごい冒険家だった」って。
- ──
- なるほど。
- 吉田
- 挑戦する場所が、どんなふうに危険なのか、
わかって行くケースも多いですよね。
「挑戦自体が、冒険」というかなあ。
- ──
- その点、探検家は?
- 吉田
- どんな場所だか、わからない場所へ行く。
どんな場所だかわからないから
どれだけの装備が必要かもわからないし、
どれだけ危険かも、わからない。
- ──
- ええ。
- 吉田
- そして、未踏の地で得た物質なり情報を、
大事に持ち帰って、発表する。
それが「探検」の社会的な意義だと思う。
- ──
- なるほど。
- 吉田
- だからこそ、俺たち探検家は、
絶対に、生きて帰って来なくちゃならない。
どんなに悲劇的に死んでも、評価されない。
持ち帰ってきたものが
何らかの役に立つことで評価されるんです。
- ──
- 実際、洞窟を探検していて、
どういうことが、わかったりするんですか?
- 吉田
- まず、入口を見たって
内部がどんな構造になっているかなんて、
わからないですよね。
だから測量して、地図を描いたりします。
- ──
- 洞窟そのものの姿を、明らかにする。
- 吉田
- 学術的な成果につながることも多いです。
入口が南向きで広かったら、
昔、人が住んでいた跡のことが多いから、
考古学的な調査にもなります。
ちょっと掘ったら遺跡になってたりとか。
- ──
- ヘルツォーク監督の洞窟映画でも、
内部で、壁画が発見されたりしてました。
- 吉田
- 太古に絶滅した生き物の化石が残ってたり、
洞窟自体が特殊な世界だから、
まったく光のない環境に適応して進化した、
目の消失した生き物が棲んでいたり。
- ──
- 生物学のフィールドでもある、と。
- 吉田
- 考古学、生物学、古生物学、人類学、地質学、
古気候学、地球上の水の流れを研究する
水文学(すいもんがく)‥‥とか、
いろんな学問にとって、
重要な研究の場だったりするんですよ。
- ──
- 学者さんも、入ったりするんですか?
- 吉田
- まあ、入ることもあるとは思うけど、
技術、体力、精神力の限界がありますよね。
だから、俺らみたいなのが取ってくるわけ。
実際、大学からの依頼も、よくあるし。
- ──
- 吉田さんのゴールは、どこにありますか?
- 吉田
- 洞窟探検家として、
これからも未踏の洞窟を探検し続けて、
どこまで到達できるか。
誰も見たことのない世界を見てみたい。
昔から、そう思い続けてる。
- ──
- なるほど。
- 吉田
- 探検家は結果がすべてだと言ったけど、
仮に結果を出しても
評価されないってことも多いんですよ。
何かの発見が古気候学の役に立っても、
必ずしも、一般の人に、
わかりやすくは、なかったりするから。
- ──
- そうなんでしょうね。
- 吉田
- だから、そういう意味では、
俺ら探検家の世界って、ほんとに地味。
でも、洞窟探検の分野で
第一人者と言ってもらえている限りは、
自分の活動が、少しでも
何かの足しになったらいいと思ってる。
- ──
- でも、いちばん前を歩いている人こそ、
「探検家」ってことですよね。
- 吉田
- だから、人が入った穴には興味はないし、
そこが「未踏」であるならば、
別に洞窟じゃなくたって、構わないです。
- ──
- 子どものころ、とくに男の子の場合は
探検とか冒険に憧れることも多いですけど、
ほとんどの人は、
探検家や冒険家には、なりませんよね。
だから自分は、未だに、
大人になっても探検や冒険をしている人に
あこがれるのかもしれないです。
- 吉田
- じいちゃんの遺言が
「俺より、もっと遠くへ行け!
そしていろんなものを見ろ!」
だったんだよね。
- ──
- か、かっこいい‥‥。
- 吉田
- だからさ、こんなことを続けているのも、
「負けず嫌い」なんだと思う。
それも、まずは「自分」に負けるのが嫌。
「やせ我慢、負けず嫌い」っていうのが、
パワーの源かもしれない。
山だって洞窟だって、ふつうに怖いしね。
- ──
- 「怖いもの知らず」というわけじゃなく、
「やせ我慢、負けず嫌い」で、続けてる。
- 吉田
- ひと冬を、タンクトップ1枚で
乗り切ったこともあるよ、17と18のとき。
- ──
- なるほど‥‥というか、
一瞬、探検に関係がありそうだと思いきや、
じつは
そんなに関係ないですよね、その話(笑)。
- 吉田
- いや、ほら、自分に負けたくない一心で。
タンクトップって雪が降ったら超ヤバい。
寒いじゃなく、痛い。
バイクに乗ったら、死にそうになったよ。
- ──
- 保温的に言えば、ほぼ「裸」ですからね。
着てるけど、着てないのと一緒というか。
- 吉田
- あんなこと、もう二度とやりたくないよ。
でも、お調子者だからさ、
まわりに「すげぇー!」って言われたら、
途中でやめられないんだ。
- ──
- 探検家の仕事も、そうやって‥‥。
- 吉田
- うん、続いちゃってるっていうことも、
ある気がするなあ‥‥。
<おわります>