- ──
- まだまだ道半ばだとは思うのですが、
町長として、
町を新しく設計・デザインすることって、
どういうことだと思いますか。
- 須田
- いろんな観点があると思いますが、
ひとつには、
「町の立ち位置を、設計・デザインする」
ということかなと思います。
- ──
- 立ち位置。
- 須田
- 言い換えれば、
どうやったら「選ばれる町」になれるか、
そこを真剣に考えること。
- ──
- 見た目や景観のデザインという以上に、
将来へ向けた町のあり方を、設計する。
- 須田
- それは、おとなりの石巻市を中心とした
人口20万の石巻広域都市圏の中で、
私たち女川町は、
自らのポジションをどうデザインするか、
ということでもあります。
町や商店街の具体的な設計をするときも、
常に、そこへ意識を向けていないと。
- ──
- なるほど。
- 須田
- 社会制度などの取り組みもデザインだし、
景観、建物、商店街も、デザインですね。
それらの要素がうまく機能することで
女川という町のありようが、
総合的にデザインされるのだと思います。
- ──
- 逆に言うと、
ただ町並みがきれいなだけではダメだし、
社会制度だけ整えても不十分、と。
- 須田
- そこに、時間軸もかけあわされてきます。
10年後、20年後を見据えたとき、
どのようなデザインがふさわしいんだろう‥‥
ということに心を砕いています。
- 山田
- 選ばれる町をつくるには‥‥と思うと、
いろいろ考えることがあるんです。
- ──
- そうなんでしょうね。
- 山田
- 町をゼロからデザインしなおしている、
という意味では、
この町自体が「創業」している真っ最中です。
JR石巻線の始発駅のある女川ですから、
ここから、どんどん
新しい挑戦やスタートが生まれていくように
したいねと、町の人と、話しています。
- ──
- でも、選ばれるという意味では、
すでに外から若い人が入ってきていますよね。
NPO法人アスヘノキボウの
小松さんにしろ、
駅前のプロムナード商店街に店を出している
ギター工房「GLIDE」の方とか‥‥。
- 須田
- そうそう。
- ──
- なんでも、あのギター工房を立ち上げた方は、
御茶ノ水の有名な楽器店で、
トップセールスを上げていた人だとか。
- 山田
- 月に100本、ギターを売ってたらしいです。
だから、本当は東北に限らず、
どこで自分の店を開いてもよかったはずです。
でも、小松さんとのつながりで、
女川に来てみたら、「ここにしよう」って。
- 須田
- いちど遊びに来ると言うんで、
女川のギター好き人間をみんな呼び集めて、
いっしょに酒を飲んだら、
「ぼく‥‥女川町でやります」と(笑)。
- ──
- おお(笑)。
- 須田
- 本人がギター持ってくると聞きつけて、
お店に、ちゃーんと
ギターアンプも用意して出迎えました。
- ──
- その場に、町長さんもいるっていうのが、
素晴らしいし、女川らしいですよね。
しかも、見なくても予想できますが、
たぶん、その輪の「ど真ん中」に‥‥。
- 須田
- まあ(笑)。
- ──
- 以前、林業をされている方に取材したら、
「この苗木が一人前の木に成長する
何十年後を見据えて、
日々、目の前の仕事に取り組んでいる」
と、おっしゃっていたんです。
そのときも、
はるかなる気持ちになったものですが、
まちづくりも、
相当ロングレンジで考える仕事ですね。
- 須田
- 自分は今44歳で、
20年もしないうちに還暦を迎えますけど、
そのとき、
自分が、どんな町に暮らしていたいか。
そんなことを意識し、思い描きながら
まちづくりにあたっています。
- ──
- 還暦の自分が住みたい町の、イメージ。
- 須田
- これからどんな町になるのであっても、
還暦も過ぎて
リタイアする年代になったとき、
自分自身に対して
お前もまあまあよくやったなと言って、
ちゃんと
おいしいお酒が飲めるだけのことをね、
今、やらなきゃと思ってます。
- ──
- ちなみにですが、一般的には
44歳の町長さんって、若いですよね?
- 須田
- オッサンくさいって、
いつも、まわりに言われてますけど。
- ──
- え、そんなことないと思います(笑)。
町長さんが若々しいから
町自体も、若々しい感じがするのかな。
- 山田
- 新聞屋さんの(阿部)喜英さんも、
商工会の青山さんも、
須田町長と同じ世代の人たちを見ると、
本当に、みなさん若いし、
何よりおもしろそうにやってるんです。
- ──
- はい、そう思います。
外の人も、きっと、そう言いますよね。
- 須田
- おもしろそうだというのは、
私たちにとっては、最高の褒め言葉です。
震災だとか、被災地だとか、津波だとか、
そういう部分ではないところで、
おもしろがってもらえる町にしたいので。
- ──
- 町の人たちの雰囲気も
フレンドリーで、明るいですよね。
昨晩、お店でお酒を飲んでたんですが、
みなさん、
気軽に話しかけてくださいますし‥‥。
- 山田
- そういう雰囲気にハマる人は、多いですね。
いつのまにか感染してしまうので、
「女川ウィルス」と言われています(笑)。
- 須田
- 有効なワクチンがありません。
- ──
- 罹ったらおしまい、みたいな(笑)。
昔から‥‥つまり震災が起きる前から、
こういう雰囲気だったんですか?
- 須田
- もともと活気のある港町でしたからね。
でも、震災で、ああいう状況になって、
地獄のような状況に置かれて‥‥。
- ──
- はい。
- 須田
- これから、自分たちは、
何もなくなった自分たちの町に対して、
どう関わっていったらいいのか。
みんな、そのことに正面から向き合って、
真剣に、
残りの人生かけておもしろがるんだと、
決めたんだと思うんです。
それが、この町の熱になっているんです。
- ──
- なるほど。
- 須田
- もちろん、全員が全員じゃないですよ。
あの日のまんま、
時間が止まってしまったような方々も、
当然、いらっしゃいますから。
- 山田
- そうですね、それは。
- 須田
- あの震災の傷を癒やすには、
時間が解決するしかない部分もあります。
それは当たり前のことですから、
今はまず、
動ける人間が、どんどん動いてるんです。
- ──
- そのこと、すごく感じます。
- 須田
- でも、それこそ還暦を過ぎた人間から、
20代の若者まで、
同じ酒場で飲んでいるような町だから、
言葉や態度に配慮しながらも、
立場や肩書きに関係なく、
活発にやりとりしているのを見てます。
そのことが、いちばんかもしれないな。
- ──
- このサイズの町ならではの風景ですね。
- 須田
- プレイヤーの密度で言えば、
となりの石巻の規模で
女川と同じような密度と割合になったら、
ちょっと気持ち悪いでしょう。
人口16万人の市に、
熱くてクドい人が1万人以上いる、とか。
何でそんなに濃い~のばっかりいるの、と。
そんな町、ある意味で住みたくない(笑)。
- ──
- たしかに‥‥(笑)。
日が暮れると、そういう濃い〜人たちが、
どこからともなく、
駅前のお店に集まってくるという(笑)。
- 山田
- 町の動線が集約されているので、
女川で飲んでれば、必ず会うんですよね。
- ──
- お話をお聞きしていると‥‥この町では、
「お酒」も、
かなりの「プレイヤー」だと思いました。
- 須田
- そう、デザインという意味からしても、
「夜の都市設計は大切である」
ということは、
もう当初から衆目の一致するところで。
- ──
- やっぱり(笑)。
- 須田
- でも、それ、本当に大事なことなんです。
こういう規模の町では、
みんなで集まって話し合えるってことが。
- ──
- それは、すごく伝わってきます。
なんだか、みなさんが、
町のあちこちでミーティングしてるような。
- 山田
- 実際、そういう感じですね。
昼夜問わず、同じテンションで(笑)。
- 須田
- ただ、ひとつ、忘れてはならないのは
こんな小さな町だけでも、
復興には
相当な財源、国民の税金が使われてます。
どんな町にしていきたいか、
それを決めるのは私たち自身ですけれど、
国民全体の負担で、
町の復興をやらせていただいてるんです。
- ──
- ええ。
- 須田
- ですから、まだまだ道半ばですけれども、
女川の町が復興したとき、
ああ、こういう町になったんだねって、
俺たち納得したよと、
全国のみなさんに言ってもらえるような、
そういう町に、しなければ。
- ──
- あらためて、町のデザインに必要なのは、
何だと思われますか?
- 須田
- 復興まちづくりに限って言うならば、
スピードとクオリティ、ですね。
- ──
- ややもすると、
相容れない概念かもしれませんが‥‥。
- 須田
- みんなでアイディアを絞って、
力を合わせて、
どうにか両立させていきたいと思います。
この先、たとえ震災がなかったとしても、
女川の人口は減っていくんです。
- ──
- ええ。
- 須田
- そのことを前提に、
老若男女の動線集約を図ることで、
人が減っても賑わいを維持創出していく、
もともと、そう話していたんです。
- ──
- はい、「女川まちづくり塾」などの場で。
青山さんのお話にも出てきました。
- 須田
- そう、そのときに重要になってくるのが、
女川みたいに小さなところでは、
「人々の姿」こそが
町の表情や、息づかいになるということ。
小学校に通う子どもたちのランドセル姿、
プロムナードで日向ぼっこする、
じいちゃん、ばあちゃんたちの元気な姿。
それらが、この町の息吹となって、
女川という町の色をつくっていくんです。
- ──
- ええ。
- 須田
- だから、町をデザインするということは、
この町に住む人々の姿を、
つくることなんだろうなと、思ってます。
- ──
- なるほど‥‥人々の集合が町ですものね。
ちなみに町長、
これは必ずお聞きしたいと思っていたのですが、
女川のご当地ヒーロー
『リアスの戦士イーガー』のDVDに
出演されてましたね。
メタルバンドのギタリストとして。
- 須田
- 昔、バンドをやっていたものですから。
ただ、当時やっていたのは
メタルバンドというより、ハードロックです。
もちろんメタルは、心から愛しています。
- ──
- なるほど(笑)。イーガーのDVDの
エンディングテーマも作曲されてますが、
あれは、町長になられてからのお仕事?
- 須田
- そうですね。町長の仕事を終えて、
仮設住宅へ帰ってから、
家族などまわりの迷惑にならないように
日付が変わった後、ヘッドホンをして、
コツコツ宅録してつくったのが、あの曲。
- ──
- そんな町長‥‥素敵です。
- 須田
- どうせやるなら、おもしろくないと。
- ──
- そのスピリッツですね。
- 須田
- 役場の若手にも、いつも言ってるんです。
今から20年くらい経って、
君たちが課長なり、部長なり、参事なり、
組織の中核を担うようになる町を、
今、ゼロからつくっているんだよ‥‥と。
- ──
- なるほど。
- 須田
- そのとき、どんな町になっているのか。
今は、そこに関わるチャンスなんです。
だから、君たちに必要なのは
悲壮感じゃなくて、使命感なんだ、と。
そのうえで、だからこそ
おもしろがってやってほしいんだって。
(おわります)
現在、女川町では、年内のオープンに向けて
新しい商業施設整備が進んでいるそうです。
12月になったら
最新情報をお知らせしますので、お楽しみに!
2016-11-17-THU