聞き書きの世界。
『木のいのち木のこころ』と塩野米松さん。


塩野 「あの戦争は馬鹿な戦争だった。
 十五の子供が
 戦いに駆りだされた戦争なんて、
 勝てるわけがねぇだろう。
 十五の子供を駆りだすような
 考え方をしていた国だったんだよ」

といったおじいさんは、
これだけは言っておこうとか
そんなんじゃなくて、
戦争中に何を食べてたかの話の途中で
ぽつっと言うんです。
糸井 すごいですねぇ。
塩野 日本人が戦前に
どう暮らしていたのかが
疑問だったので、
日本各地の三世代ぐらい暮らしてる
旧家に聞きにいって
本にしたことがあります。

おじいさん、当主、息子さんの話を
聞いていると
「日本人って偉いなぁ。
 偉くないのは俺たちから後だ」
とつくづく思うんです。

戦前は見渡すかぎり
ぜんぶ自分の家だった家の当主たちでも
実に真摯に生きていたんです。
小作人にごはんを食べさせて、
大きなことは望まず、
地域のためには
きちんとやることをやる……。
日本は、
見直されるべき面が
すごくあるなぁと思います。

だから
聞き書き甲子園の高校生たちには、
つまらないと思うような
日常的なことを聞きなさいって言うんです。
例えば
「毎日何を食べているのですか?」
って聞くようにとか。

「炭焼の仕事をしている人は、
 すぐに食べられるし、
 水分補給も兼ねて
 お茶粥を食べている人が多いよ」
というように。
職業によって
食べものもちがってくるはずですから。

「漬物は、
 沢庵なのか茄子なのか、というような
 くだらないこともきくんですか?」

「もちろん聞きなさい。
 茄子ならどちらからかじるか、
 ヘタからかじるかも訊ねなさい」

「ほんとですか?」

「考えずに済むことを
 しゃべっている時には、
 まちがいなくほんとうのことを
 言ってるんだから、
 そういうことを聞くんだよ」って。
糸井 ほんとのことを
言いつづけていると、
ほんとのことしか
言えなくなるというか、
なんか
スリップストリームみたいなものに
入るんですよね。
あれも聞き書きの快感ですね。
塩野 「人生」を訊ねると
ありふれた話をするから
それは聞かなくていいんです。
ごはんの食べ方だとか
箸は誰が作っただとかでは
人はウソをつかずに
すぐ答えてくれますから。
糸井 「人生って何だ?」とか
「幸せって何だ?」とかって、
窮して出てくる答えを
おもしろがるというテレビでの流行が、
いつしか根づいてしまった問いなんでしょう。
数字や知識の助けを借りない実感を
豊かに持っている部分が、
人間のおもしろさなのに、ね?
  (明日に、つづきます)


2005-06-22
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