糸井 |
そのころ、テニスへの情熱が
途絶えたりすることもありましたか。
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伊達 |
ありましたね。
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糸井 |
あ、あるんですね。
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伊達 |
ありました。
たとえば、中学生になると、
学校の友だちといることがたのしくなる。
あと、そのころ通ってたクラブが名門で、
強い選手がたくさんいたから、
どうしても先生からのアテンションが低いわけです。
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糸井 |
ああ、ふつうの子の扱いだから。
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伊達 |
そう、わたしはトップの選手じゃなかったから。
しかも、クラブが家から遠かったので、
思うように練習時間に行けないとか、
そういうことも重なって、
中学のときはモチベーションが
下がってしまった時期がありましたね。
で、サボったりしてました。
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糸井 |
ああー、そんな熱心な人なのに。
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伊達 |
はい(笑)。
学校終わって、家帰って、テニス行く格好して、
ラケット持って、靴持って行くんですけど、
クラブに行かずに友だちの家に行ったりして
で、終わるぐらいの時間になったら、家に帰って。
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糸井 |
まぁ、ふつうの中学生らしい話ではありますけどね。
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伊達 |
よくあるパターンですね。
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糸井 |
でも、そういうサボった経験っていうのは、
しないよりは、そのころしておいたほうが
よかったんじゃないですか、ひょっとしたら。
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伊達 |
そうかもしれないです(笑)。
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糸井 |
で、どうなるんですか。
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伊達 |
まぁ、クラブのコーチから、
家に電話があって、
公子さんが来ない、と。
つまり、すぐバレて(笑)。
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糸井 |
うん(笑)。
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伊達 |
それで母親から怒られて、
月謝を払ってやってることだし、
そもそも誰も強制したことはない、と。
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糸井 |
うんうんうん。
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伊達 |
公子がやりたいって言ってるから、
やらせてあげてるだけで、
別にやめるんだったら、
いつでもやめてもいい、と。
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糸井 |
うん。
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伊達 |
って言われて、ちょっと目がさめた感じで。
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糸井 |
ああー。
それは、すぐに目がさめたんですか。
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伊達 |
すぐにさめました。
テニスをやめるとしたら、
わたしはこれからずっと友だちと遊ぶだけ?
それで、満足するかなぁ、と思ったら、
簡単に答えは出ましたね。
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糸井 |
はーー、そこはおもしろい。
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伊達 |
テニスをやめたいわけじゃないから。
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糸井 |
お母さんもそれをわかってますね。
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伊達 |
そうなんですかねぇ。
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糸井 |
わかってますよ。
でも、そのお母さんの理屈は
すごくまっとうですよね。
あなたが言い出したんでしょ、って。
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伊達 |
やるんだったら、ちゃんとやりなさい、と。
やめるんだったら、
もう今日でもやめなさい、って。
そう言われて、悩むこともなかったですね。
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糸井 |
さっと目がさめるんだ。
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伊達 |
はい。
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糸井 |
そのあとも、何回かあるんですか。
つまり、みんながやってるような
おたのしみが自分にもほしいっていうのは、
中学生だけじゃなく、大人になってからだって
ふつうにあるじゃないですか。
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伊達 |
そうですね。
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糸井 |
そっちへ引っ張られて、
テニスがおろそかになるようなことが
そのあとも、ときどきあるんですか?
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伊達 |
うーん‥‥そのあとは、やっぱり、
恋愛が絡んでくるときぐらいですかね。
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糸井 |
あ、それはでかいですよね。
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伊達 |
はははは。
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糸井 |
そうかぁ。
トップのスポーツ選手っていうのは、
いわば、ひっきりなしに練習してるわけだから、
好きな人に会ったり、友だちに会ったり
っていうことも、なかなか。
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伊達 |
そうですね。そこは、葛藤でしたね。
だから、友だちとかと、夜、食事に行っても、
いつも時計とにらめっこしてました。
もう、帰んなきゃって。
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糸井 |
ああ、そうかぁ。
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伊達 |
テニスのこと考えたら、帰んなきゃいけない。
明日の練習がしんどくなるからって。
じゃあ、あと10分だけ、とか(笑)。
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糸井 |
そういうふうに考えると、
ふつうの悩みをぜんぶ
ちゃんとお持ちになってますね。
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伊達 |
持ってますね(笑)。
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糸井 |
持ってますね。そういう意味では、
我慢し続けた人じゃないですね。
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伊達 |
そうですね。
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糸井 |
ああ、それは、なんか、
ぼくらみたいな観客の側からすると、
すごくいいなぁ(笑)。
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伊達 |
(笑)
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(つづきます) |